新型コロナウイルスや医学・生命科学全般に関する最新情報

  • HOME
  • 世界各国で行われている研究の紹介

世界で行われている研究紹介 教えてざわこ先生!教えてざわこ先生!


※世界各国で行われている研究成果をご紹介しています。研究成果に対する評価や意見は執筆者の意見です。

一般向け 研究者向け

2023/10/19

コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とインフルエンザウイルスに同時に感染すると単独の感染の場合に比べて、より重篤になる可能性があり、その予防は重要である。
  • 本研究は、オミクロンBA.4/5変異株対応2価ワクチンのブースター接種単独の場合とインフルエンザワクチン*1との同時接種した場合とで安全性・有効性を比較するために前向きコホート研究(2022年9月〜2023年1月)を行った。
  • その結果、コロナワクチン単独接種群とコロナワクチン・インフルエンザワクチンの同時接種群の間で反応原性、免疫原性ともに有意差は無く、安全性・有効性は保たれていると思われた。
図1.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの期間は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する感染防御対策が、2次的にインフルエンザウイルス感染症も抑制しました。しかしながら、現在では、オミクロン株のバリアントの流行は続いているとは言え、COVID-19に対する緊急性が無くなり防御対策が緩和した結果、インフルエンザウイルスの感染も起きるようになりました。しばらくの間、インフルエンザに罹患しなかったことによりインフルエンザウイルスに対する免疫力は低下しているため、SARS-CoV-2とインフルエンザウイルスのいずれに対してもワクチン接種が推奨されます。実際、以前に、初期のSARS-CoV-2 1価ワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種における有効性・安全性(接種間隔などを含めて)に関して特に問題はないことが報告されていたのですが、現在のオミクロンバリアント全盛期におけるSARS-CoV-2 2価ワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種に関する報告はありません。このような状況で、イスラエルSheba Medical Center*2のTal Gonen博士らは、SARS-CoV-2 2価ワクチンのブースター接種とインフルエンザワクチンの同時接種の有効性を調査したコホート研究を行った結果(図1)、SARS-CoV-2ワクチン単独接種群と比較して、SARS-CoV-2ワクチン・インフルエンザワクチンの同時接種群では免疫原性*3、及び、反応原生*4に統計学的な有意差はなかったことをJAMA Network Open誌に報告しました(文献1)ので、それを紹介致します。


文献1.
Immunogenicity and Reactogenicity of Coadministration of COVID-19 and Influenza Vaccines.
Tal Gonen et al.,JAMA network open. 2023 Sep 05;6(9);e2332813. pii: e2332813.


【背景・目的】

SARS-CoV-2ワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種は、単独で接種した場合と比較して有効性・安全性に関する問題はないことが報告されているが、それらは、初期のSARS-CoV-2に対するワクチン(1価ワクチン)を評価したものである。そこで著者らは、オミクロンBA.4/5変異株対応2価ワクチンのブースター接種とインフルエンザワクチンの同時接種における反応原性及び免疫原性を比較するためにアンケートを使った前向きコホート研究を行った。

【方法】

  • 研究における対象は、Sheba Medical Centerに勤務する医療関係者で、2022-2023年シーズン中にインフルエンザワクチン(アボット社)とオミクロンBA.4/5変異株対応2価ワクチン(ファイザー社)のどちらか、または、その両方を接種した。ワクチン接種は2022年9月に開始し、2023年1月までデータを収集した。
  • 反応原性解析としてワクチン接種後の副反応の発現率(疼痛、腫脹、発赤などの局所症状、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感などの全身症状)とその持続期間を調べた。
  • 免疫原性解析として新型コロナウイルス抗スパイクIgG抗体価を調べて比較検討した。

【結果】

  • 反応原性解析にはアンケートに回答した588人(SARS-CoV-2ワクチン群85人[年齢中央値71歳、女性66%]、インフルワクチン群357人[55歳、79%]、同時接種群146人[61歳、55%])が含まれた。免疫原性解析には血清学的検査を受けた151人(SARS-CoV-2ワクチン群74人[年齢中央値67歳、女性61%]、同時接種群77人[60歳、55%]が含まれた。
  • ワクチン接種後の局所症状の発現率は、SARS-CoV-2ワクチン群で49.4%(95%信頼区間[CI]:38.4~60.5)、インフルワクチン群で34.5%(29.5~39.6)、同時接種群で52.1%(43.6~60.4)であった。
  • 全身症状は、SARS-CoV-2ワクチン群で27.4%(95%CI:18.2~38.2)、インフルワクチン群で12.7%(9.5~16.7)、同時接種群で27.6%(20.5~35.6)に発現した。
  • SARS-CoV-2ワクチン群と比較した場合の局所症状及び全身症状発現のオッズ比は、インフルワクチン群はそれぞれ0.27(95%CI:0.15~0.47)及び0.17(0.09~0.33)、同時接種群は1.02(0.57~1.82)及び0.82(0.43~1.56)であった。
  • 同時接種群の抗スパイクIgG抗体価は、SARS-CoV-2ワクチン単独投与群の0.84(95%CI:0.69~1.04)倍と推定されたが、統計学的有意差は無かった。

【結論】

本研究結果より、SARS-CoV-2ワクチンの単独接種と比較して、SARS-CoV-2+インフルワクチン同時接種は免疫反応の低下や有害事象の頻発とは関連しておらず、これらのワクチンの同時接種を支持するものである。

用語の解説

*1.インフルエンザワクチン
不活化ワクチンと弱毒性ワクチン(生ワクチン)とがある。接種経路として、筋肉内注射、鼻に噴霧する経鼻接種、皮膚の中間層に注入する皮内注射がある。その有効性は毎年変動するが、インフルエンザの発症に対する高い予防効果が証明されている。
*2.Sheba Medical Center(シェバ・メディカルセンター)
イスラエルは、高度な最先端技術を基盤としたスタートアップ企業が多く、近年ではデジタルヘルスケア分野においても国を挙げて推進している。Sheba Medical Centerは、中東最大の医療機関で膨大な患者の健康データやレセプトデータを活用したイノベーション研究にも積極的である。
*3.免疫原性(Immunogenicity)
抗原などの異物が、ヒトや他の動物の体内で免疫応答を引き起こす能力である。通常、抗原(ワクチン)を注射することで病原体に対する免疫応答を誘発し、将来の曝露から生体を保護するワクチンに関連している。免疫原性はワクチン開発の中心的な側面である。
*4.反応原生(Reactogenicity)
ワクチンの第I/II相臨床試験の主要な目的は、短期間での安全性の評価、投与量の確認、ワクチンに対する体のさまざまな反応の評価である。反応原性には、ワクチン注射部位での局所的な痛み、発赤、腫れと共に、全身や注射部位以外の場所での症状(発熱、筋肉痛、頭痛など)が含まれる。反応原性の一部は、免疫系がワクチンに応答している正常な症状であると考えられるため、初期段階の安全性評価では、特に、より重篤な影響に焦点が合わせられる。

文献1
Immunogenicity and Reactogenicity of Coadministration of COVID-19 and Influenza Vaccines.
Tal Gonen et al.,JAMA network open. 2023 Sep 05;6(9);e2332813. pii: e2332813.