新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連

  • HOME
  • 新型コロナウイルスに関する最新情報

都医学研の新型コロナウイルスに関する研究 新型コロナウイルスに関する最新情報


世界各国で行われている新型コロナウイルスに関する研究をご紹介しています。

2020/07/02

新型コロナウイルスの重症化の遺伝的要因
-ABO血液型が関係する-

文責:宮川 卓

新型コロナウイルスに感染した人の中で、高齢な方、男性、持病のある方が重症化しやすいことは、皆さんお聞きになったことがあるかもしれません。しかし、若い方、女性、持病のない方でも重症化することは、もちろんあります。年齢、性別や持病の有無だけでは、重症化を説明することはもちろん不可能です。

この重症化に関わる原因を見つけようとする研究は、現在世界中で行われています。その成果の一つとして、「重症化と関わる人の遺伝的要因」に関する論文が、著名な医学誌であるニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine:NEJM)より発表されました。

この論文を紹介するにあたり、初めに、一塩基多型(SNP)のお話しをします。全ての人は、同じ遺伝子の塩基配列を持っているわけではありません。みんな少しずつ違いがあり、そのような塩基配列のわずかな違いとして、SNPがあります(図1)。後でお話しするABO血液型も、実はSNPの違いによって血液型が分けられるのです。このSNPの違いが、ある病気へのかかりやすさや、重症化のしやすさに影響を与えることがあります。

fig1

図1. SNPとは何か

遺伝情報の担い手であるDNAは4つの塩基(アデニン:A、チミン:T、グアニン:G、シトシン:C)から構成されています。
数百塩基に1箇所ぐらいの割合で、人によって塩基の並び方が違う箇所があります。
GからTのように塩基が変わる置換や、塩基が挿入されたり、欠けてしまう欠失もあります。

そして、このNEJMの研究では、イタリアとスペインの7つの病院の重症患者1,610人と、2,205人の健康な人のゲノム全体の850万個以上のSNPを調べて、新型コロナウイルスの重症化と関係するものを探していきました。この研究での「重症」の定義は、呼吸不全が認められたこととしています。その結果、重症化と関係する二つの遺伝子領域を見つけることに成功しました(図2)。

fig2

図2. ゲノム解析より、新型コロナウイルスの重症化と関係する二つの領域を同定

(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2020283 Figure 2より)

850万個以上のSNPを調べた結果で、オレンジの点線を超えると、統計的にそこのSNPが重症化と関連することを意味します。

一つは、3番染色体のある領域のSNPでした。そのSNPは「A」と「GA」の二つのタイプがあります(GAは図1でいう挿入となります)。重症患者群でのGAの頻度は、イタリア14%、スペイン9%でした。一方、健康な人の群でのGAの頻度は、イタリア9%、スペイン5%で、重症患者群ではGAの頻度が高いことがわかります。重症化に与える年齢、性別などの要因を統計的に調整して、より確かなリスクを計算したところ、GAタイプでは重症化のリスクが2倍ほど高くなることがわかりました。

少し話は変わりますが、新型コロナウイルスの感染者数や死亡者数は、国によって大きく違うことは、皆さんご存じだと思います。ここには、必ず理由があるはずです。京都大学の山中伸弥先生も、この理由について発信されていて、それをファクターXと呼んでいます。ファクターXが明らかになれば、効果的な新型コロナウイルス対策が可能になるはずと、その解明が求められています。ファクターXの候補の一つとして、人の遺伝的要因が挙げられています。

先ほどの、3番染色体にある重症化と関係するSNPのGAタイプは、もしかしたらこのファクターXかもしれないと、私なりに考察してみました(ちなみに、この研究論文ではファクターXについては言及していません)。世界中の色々な国のGAタイプの頻度を見てみましょう(図3)。日本、中国を含めた東アジア地域では、GAタイプの頻度はゼロに近いことがわかります。ヨーロッパ地域ではその頻度が5~10%ぐらいですし、これは本当にファクターXなのかもしれない。しかし、ちょっと待ってください。インド、バングラディッシュなどの南アジアのデータを見てみると、GAタイプの頻度が25%以上と、その割合が高いのがわかります。南アジアは新型コロナウイルスによる死亡率が、他の国や地域に比べて高いとは報告されていません(6月現在、インドで感染者が急増していますが)。そのため、GAタイプがファクターXだとは簡単には言えません。もちろん、南アジアは高温多湿であることが重症化への抵抗性を高めていて、GAタイプの重症化の感受性と効果を相殺しているのかもしれません。ファクターXは単純ではなく、多くの要因が存在している可能性があり、解明するためにはさらなる研究が必要なことは間違いないと考えられます。

fig3

図3. 重症化と関係する3番染色体のSNPの国別の頻度

(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2020283 Figure S8より)

そして、このNEJMの研究でなされたもう一つの発見が、9番染色体のあるABO遺伝子のSNPが重症化と関係することでした。実は、このABO遺伝子のSNPのタイプが、ABO血液型を決めるのです。そこで、ABO血液型が実際に調べられました(図4)。A型を見てみると、イタリアでもスペインでも、重症患者群でA型の割合が高く、逆にO型の割合が低いのがわかると思います。リスク推定を行ったところ、A型の患者では他の血液型に比べて重症化するリスクが45%ほど高く、O型の患者では他の血液型に比べて35%ほど低いことがわかりました。実は、新型コロナウイルスと血液型との関係は、アメリカのグループと中国のグループからも報告されています。アメリカの消費者向け遺伝子検査会社の23andMeが約75万人のビックデータを解析した結果によれば、O型の人は新型コロナウイルスに10~20%ほど感染しにくいといったものでありました。中国の武漢や深センの3病院の患者データからも、O型が30%ほど感染しにくいことが報告されました。A型のリスクに関しては、まだ一貫した結果が得られていないため今後の研究が必要ですが、O型が抵抗性を示すことは3つの報告で一致していることがわかります。

fig4

図4. 新型コロナウイルスで重症化した人と健康な人のABO血液型の割合

(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2020283より作成)

これらの研究結果を見て、もしかしましたら安心した方や、逆に不安になった方がいるかもしれません。しかし、抵抗性を示すO型の人でも重症化した患者は多数いますし、血液型による重症化や感染リスクの変動は、数十%でしかありません。他の重症化要因(年齢、持病の有無など)の方が、重症化のリスク効果が大きいです。それに加え、手洗いや、三密を避けることの方が、感染自体のリスクを軽減させることができるのではないでしょうか。この結果には一喜一憂せず、基本的な予防策を講じることが、やはり大切なのだと思います。

さらに、ABO血液型がファクターXとなり得るかと言うと、それも難しいと思います。国別の血液型の割合を図5に示します(イタリアとスペインの血液型の割合は、図4の健康な人のデータを見てください)。一時期の感染の中心となったヨーロッパの人達は、全般に新型コロナウイルスの抵抗性のO 型の割合が高いです。日本は世界的にみると、O型の割合が低いです。先ほども書きましたが、ABO血液型の新型コロナウイルスへの関与は決して大きいものではないですし、このぐらいの効果ではABO血液型単独でファクターXになる可能性は低いとも言えます。

fig4

図5. 国別のABO血液型の割合

小話 ABO血液型と性格

ABO血液型と言えば、個人の性格に関与しているのではという話が、普段の会話などでよく出てくると思います。実は、性格の違いに関与する遺伝要因を解明するために、ゲノム全体のSNPを使ったビックデータ研究が既に行われています。その結果から、確かに性格傾向に影響を与えるSNPが存在することが明らかにされました。しかし、そのようなSNPはABO遺伝子上にはありませんでした。つまり、ABO血液型と個人の性格傾向については、関連がないということがわかりました。また、実際に関係のあったSNPも、その効果はとても小さなものでした。人の性格を形成する過程は複雑なものですし、非常に多くの要因が私たち個人の性格に影響を与えているはずです。

今回のNEJMの研究では、HLA(ヒト白血球抗原)のタイプについても言及しています。ABO血液型は赤血球の血液型ですが、このHLAは白血球の血液型と言えます。HLAはABO血液型に比べて非常に多くのタイプがあります。ABO血液型は一般的にA、B、O、AB型の4タイプですが、HLAの組み合わせタイプは数万通り以上と言われています。そして、HLAタイプによって、疾患へのかかりやすさが変わることがよく知られています。なぜなら、HLAは免疫の応答において重要な働きをし、HLAのタイプによって免疫応答に差があるからです。詳しくは、HLA研究所のホームページ(http://hla.or.jp/about/hla/) を見てください。このHLAのタイプは、ABO血液型よりも、国や民族によって、そのタイプの構成比率が大きく変わることも知られています。これらのことから、HLAが新型コロナウイルス感染やその重症化に関わり、ファクターXの一つかもと仮説を立てる研究者は多くいます(私もその一人です)。しかし、今回の研究結果で、少なくともイタリアとスペインにおいては、特定のHLAタイプが新型コロナウイルスの重症化と関係する可能性は、低いことがわかりました。しかしながら、日本や他のアジアの人達にのみ存在するHLAタイプが、新型コロナウイルスへの抵抗性を示す可能性があります。現在、日本でもHLAの解析が進められており、間もなく研究結果が報告されると思います。

小話 HLAと移植

HLAは、造血幹細胞移植や臓器移植の際、とても重要になります。自分のHLAと適合しないタイプは、異物として認識することで、攻撃してしまいます。そこで、HLAタイプの適合性が大切になります。非常に多くのHLAタイプの中から、適合するタイプの骨髄などを効果的に提供するために、骨髄バンクが大切になるのです。

このNEJMの研究では、まだ機能的な検討がなされていません。最初に書いた3番染色体のSNPの周辺にはSLC6A20、LZTFL1、CCR9、FYCO1、CXCR6、XCR1など多くの遺伝子があり、その遺伝子の中で一体どの遺伝子が、どのように、重症化に影響を与えているか、わかっていません。そして、ABO血液型がどのように重症化に関与するかも不明です。しかし、今回の発見は、人としての重症化の原因の一部を明らかにしたのです。なぜなら、新型コロナウイルスは、基本的に人間の遺伝情報を変えることはないためです(感染したからと言って、O型の人がA型に変わることはないです)。このようなSNP、遺伝子が発見される意義は、病気になった結果ではなく、病気の原因を明らかにできるところにあります。今後、例えばO型がなぜ抵抗性を示すかが明らかになれば、そこから新たな治療が生まれるかもしれないということです。

最後に、これから研究が進み、新型コロナウイルスの重症化に関与する要因がさらに発見されていけば、感染した際に重症化するリスクをより正確に推定することができます。さらにリスク推定だけではなく、重症化を防ぐためのワクチンを含めた治療戦略の開発も必要であり、これらを解決するために、もちろん当研究所も含め、全世界で研究、開発が進められています。