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– 英国科学誌「Scientific Reports」において研究成果を発表 −
当研究所 視覚病態プロジェクトの野呂隆彦 研究員(東京慈恵会医科大学眼科)、原田高幸 参事研究員らは、マーモセット(*1)が老化すると、一定の割合で緑内障(*2)を発症することを発見しました。
本研究は佐々木えりか 部長(実験動物中央研究所 応用発生研究部)、中野 匡 教授(東京慈恵会医科大学眼科)らとの共同研究により行われ、2019年10月16日に英国科学誌「Scientific Reports」on-line版 に掲載されました。
緑内障では高眼圧になる(眼球が固くなる)ことが一般的ですが、日本人では約7割の患者さんが眼圧が正常範囲のまま緑内障が進行する「正常眼圧緑内障」であることが知られています。
緑内障は我が国で最大の失明原因であることから様々な研究が行われていますが、マウスなどの小動物では眼球や視神経の構造がヒトとは大きく異なる一方で、マカクザルなどの大動物では緑内障の発症がほとんど確認されていないため、適切なモデルが見つかっていませんでした。そのため、病態解明や根治的な治療の研究開発に限界がありました。
そこで東京都医学総合研究所及び実験動物中央研究所で協力し、老齢マーモセットを調べることにしました。眼底写真、眼圧、光干渉断層計、網膜電図などを測定したところ、老齢マーモセットの約10%に正常眼圧緑内障が発症していることを発見しました(図)。
マーモセットにはヒトと同じ篩状板(*3)という構造が存在しますが(マウスにはない)、ヒトと同様に、緑内障マーモセットでは篩状板が薄くなる傾向も確認されました。また頭部MRIを撮影して脳の視覚中枢を調べたところ、一次視覚野も萎縮していました。しかしヒトで緑内障に関係すると考えられている遺伝子(ミオシリン、オプチニューリン、WDR36)の変異は見られませんでした。
さらに検査を進めたところ、緑内障マーモセットでは脳脊髄圧の低下、脳脊髄液中の神経栄養因子の濃度低下、網膜における酸化ストレスマーカーの上昇に加えて、脳の視覚野が萎縮するなど、緑内障患者との共通点が多数見つかりました。
図:左眼だけ緑内障を発症したマーモセットの1例
両眼とも正常範囲の眼圧だが、左眼では大きな視神経乳頭陥凹(Aの点線、BとDの矢頭)と薄くなった篩状板(BとDの点線)が観察された。また視機能の低下も確認された(C)。
A: 眼底写真、B: 光干渉断層計、C: 網膜電図、D: 組織学的な検討結果。
高齢化社会の到来とともに緑内障患者数はさらに増加することが予想されています。そこで適切な緑内障疾患モデルを活用した薬剤や治療法の研究が、今後ますます求められる状況です。今回の成果はこうした治療法の発見等に大きく寄与することが期待されます。