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研究成果

* トピックス13

– 米国科学雑誌「Science Advances」において研究成果を発表 −

網膜グリア細胞の機能異常が正常眼圧緑内障を引き起こす仕組み

視覚病態プロジェクトの行方和彦 副参事研究員、原田高幸 参事研究員は、山梨大学の篠崎陽一准教授、小泉修一教授らとの共同研究により「網膜グリア細胞の機能異常が正常眼圧緑内障を引き起こす仕組み」について米国科学雑誌「Science Advances」に発表しました。

研究の背景

緑内障は、日本における中途失明原因第一位の疾患です。緑内障の最大のリスク因子として高眼圧があります。しかし、日本人の緑内障患者の約7割は「正常眼圧緑内障」であるため、眼圧以外の新たな治療標的の探索が課題となっています。

一方、最近の研究からABCA1という遺伝子の変異が、緑内障の発症に関与することがわかってきました。しかしこの遺伝子が網膜のどの細胞に発現するのか、またどのように発症に寄与するのか、などの詳しいメカニズムはわかっていませんでした。

研究の概要

研究チームはまず、全身からABCA1が欠損したマウスを用いて、緑内障で変性が起きる網膜神経節細胞(RGC)への影響を調べました。その結果、ABCA1欠損マウスの眼圧は正常であるにも関わらず、生後1年でRGCの数が減少していることがわかりました。

またABCA1が網膜のどこに発現するのかを調べたところ、RGCを取り囲むように存在するグリア細胞の1種である「アストロサイト」に豊富に発現することが判明しました。そこで次に、ABCA1がアストロサイトのみで欠損するマウス(AstroKO)を作製したところ、このマウスも正常眼圧でありながら、生後1年でRGCの変性が起きることが確認されました(図1)。いずれのマウスでも視機能が低下しており、正常眼圧緑内障に似た変化が起きていると考えられます。

この原因を調べるために1細胞RNAシークエンスという手法で解析を行ったところ、ABCA1が欠損したアストロサイトでは、RGCを傷害することが知られている複数のケモカインの産生が、顕著に増加することがわかりました。

図1

図1. アストロサイトのABCA1欠損による網膜の変化

AstroKOマウスは正常眼圧を示すが、生後1年で様々な緑内障様の変化が観察された。

今後の展望

今回の結果は、網膜や視神経に広く存在するアストロサイトの機能異常が、正常眼圧緑内障の原因となる可能性を示したものです。現在のところ、緑内障の治療には眼圧を下げるしか方法がありませんが、今後はアストロサイトの機能を制御する新たな治療薬の開発が期待されます。

<本研究の主な助成事業>

本研究は文部科学省の科学研究費補助金・学術変革領域研究(A)、国際共同研究強化(A)、基盤研究、挑戦的研究(開拓)などの支援を受けて行われました。

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