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− 英国科学雑誌「Cell Death and Differentiation」において研究成果を発表 –
公益財団法人 東京都医学総合研究所 視覚病態プロジェクトの行方和彦主席研究員、原田高幸プロジェクトリーダーらは、東京医科歯科大学との共同研究において、緑内障による神経細胞死を抑制することに、マウスの実験で成功しました。
この研究成果は、英国科学雑誌「Cell Death and Differentiation」オンライン版 で2013年7月12日に発表されました。
緑内障はわが国では最大の失明原因です。40歳以上の約5%に発症することがわかっていますが、高齢化社会の進行に伴い、今後さらなる患者数の増加が予想されています。また日本人の特徴として、眼圧(眼球の硬さ)が上昇しない「正常眼圧緑内障」が全体の約7割を占めることが大きな特徴となっています。
当プロジェクトでは2007年に世界初となる正常眼圧緑内障のモデルマウスを確立して研究を続けています。
そして正常眼圧緑内障が発症する原因の1つとして、グルタミン酸毒性*1による神経細胞死が関与する可能性を見出しています(詳しくは研究成果1 をご覧下さい)。そこでグルタミン酸毒性を効果的に抑制できれば、緑内障の治療や予防に近づける可能性が出てきます。
我々はグアニンヌクレオチド交換因子*2のひとつであるDock3が、視神経の伸長を促進することを報告しました(詳しくは研究成果2をご覧下さい)。今回我々はこのDock3が、網膜における主要なグルタミン酸受容体であるNR2Bと直接結合し、神経細胞におけるNR2B発現量を抑制可能なことを発見しました。
実際にDock3遺伝子が強く発現するマウス(Dock3過剰発現マウス)の眼球内にグルタミン酸を投与すると、普通のマウスよりもNR2Bの発現量が減少し、神経細胞死が抑制されました(図1)。そこで緑内障モデル動物であるGLAST欠損マウスとDock3過剰発現マウスと交配したところ、やはり緑内障による網膜神経細胞死の減少が確認されました(図2)。 以上からDock3によるグルタミン酸毒性の抑制が、緑内障に対する有用な治療法である可能性が示されたことになります。
A:Dock3過剰発現マウスでは普通のマウス(野生型マウス)と比較してグルタミン酸投与後のNR2Bの発現量が減少している。
B:Dock3過剰発現マウスではグルタミン酸毒性による網膜神経細胞死が抑制されていた。
GLAST欠損マウスでは緑内障の進行(網膜神経節細胞が減少し、網膜が薄くなる状態)が観察される(左)が、Dock3過剰発現マウスとの交配により、緑内障の進行は抑制されていた(右).
今回の発見によりDock3は視神経の再生だけでなく、網膜神経細胞の保護にも有用な可能性が出てきました。Dock3と同様の遺伝子はヒトにもあることから、これらの遺伝子の活性化を促す安全な薬剤ができれば、緑内障の進行も抑制しやすくなるかもしれません。
視覚病態プロジェクトではすでにDock3を用いた遺伝子治療研究を開始しており、治療効果をさらに詳しく検討していきたいと考えています。
本研究の成果は平成23年2月9日 日経産業新聞で報道された。