Iino K, Toriumi K, Agarie R, Miyashita M, Suzuki K, Horiuchi Y, Niizato K, Oshima K, Imai A, Nagase Y, Kushima I, Koike S, Ikegame T, Jinde S, Nagata E, Washizuka S, Miyata T, Takizawa S, Hashimoto R, Kasai K, Ozaki N, Itokawa M and Arai M.
AKR1A1 Variant Associated With Schizophrenia Causes Exon Skipping, Leading to Loss of Enzymatic Activity. Front. Genet. 12:762999. doi: 10.3389/fgene.2021.762999
Published: 06 December 2021.
統合失調症患者の末梢血では健常者と比べてグルクロン酸が高いということが知られています1。グルクロン酸は薬剤排出に関与するため、グルクロン酸の蓄積は統合失調症の治療抵抗性と関連することが推測されます2。グルクロン酸はアルドケトレダクターゼファミリー1メンバーA1 (AKR1A1) により代謝されることが知られており、AKR1A1活性の変化がグルクロン酸量に影響を与えることが考えられますが、統合失調症においてその活性変化や遺伝子変異の影響を評価した報告はありません3。そこで本研究では、統合失調症検体を用いて、AKR1A1遺伝子に着目した遺伝学的解析を行いました。
統合失調症患者及び健常者においてシーケンス解析を行い4箇所の新規バリアントを含む28箇所のバリアントを確認しました。また、そのうち4つがコーディング領域に含まれることがわかりました (図1)。その中でも、c.753 G>Aは統合失調症患者で14例、健常者で5例確認され、この変異は統合失調症患者で頻度が高い傾向がみられました。また、c.264 delCは統合失調症患者の1例でのみ確認されました。
新規バリアント (青矢印)、コーディング領域におけるバリアント (赤矢印)、その他のバリアント (黒矢印) を示した。コーディング領域において、
(A) エキソン5におけるシトシンの一塩基欠失 (V1)、
(B) エキソン8の一塩基目のグアニンからアデニンへの変異 (V3)
が確認された。
次に、エキソンの1塩基目の変異によりそのエキソンが読み飛ばされることがあるということが知られているため、AKR1A1のエキソン8の一塩基目のc.753 G>Aによりエキソン8が読み飛ばされるかどうかを調べました4。AKR1A1のエキソン8の一塩基目がGのエキソン7, 8, 9を含むミニジーン (WT) とAのエキソン7, 8, 9を含むミニジーン (MT) をそれぞれHEK293, SH-SY5Y, 1321N1にトランスフェクションして抽出したRNAのRT-PCRにより確認しました (図2A)。MTではエキソン8の読み飛ばしが見られましたがWTでは見られませんでした (図2B)。HEK293, SH-SY5YではWTと比べてMTでエキソンスキップが起こる頻度が有意に増加しました (図2C)。また、エキソン8の読み飛ばし及びc.264 delCのフレームシフトによりAKR酵素活性が変化するのかを調べるために、これらの変異により産生されるAKR1A1を発現させた大腸菌からリコンビナントタンパク質を精製し酵素活性の測定を行いました。これらの変異を持つAKR1A1では分子量が低下し、AKR酵素活性が著しく低下しました (図2D-E)。
(A) スプライシングアッセイの概要を示した。エキソン8の読み飛ばしはWTまたはc.753 G>A (MT) のミニジーンを発現するHEK293, SH-SY5Y, 1321N1から産出されたcDNAを用いて確認した。
(B) スプライシングアッセイの結果を示した。上のバンドはエキソン7, 8, 9の産物、下のバンドはエキソン7, 9の産物を示す。MTではエキソン7, 9の産物を生じることが示された。
(C) HEK293, SH-SY5YではWTと比べてMTで著しくエキソンスキップの頻度が増加した。
(D) 精製したGST及びGST-AKR1A1をSDS-PAGEにより分離した結果を示した。
(E) 精製したGST-AKR1A1においてAKR酵素活性を示した。c.753 G>A, c.264 delCで得られる産物は酵素活性が著しく低下した。
さらに、統合失調症患者においてc.753 G>Aが酵素活性に影響するのかを調べるために、6人の統合失調症患者 (SCZ#1~SCZ#6) 及び2人の健常者 (CON#1, CON#2) の赤血球における酵素活性を測定しました。c.753G>Aをヘテロ(GA)で持つ4人 (SCZ#1~SCZ#4) では、c.753G>A を持たない(GG) 4人 (SCZ#5, SCZ#6, CON#1, CON#2) と比べて酵素活性が低下する傾向が見られました。また、そのうちc.753 GAを持つ3人 (SCZ#1, SCZ#2, SCZ#4) とGGを持つ2人 (SCZ#6, CON#2) の全血から抽出したRNAを用いてAKR1A1の遺伝子発現量を調べました。c.753 GAを持つ人ではmRNA発現量がGGを持つ人の50%程度となりました。これらの結果から、AKR1A1におけるc.753 G>Aは酵素活性の低下に繋がることが考えられました。
6人の統合失調症患者 (c.753 G>Aバリアントを持つSCZ#1~4及び持たないSCZ#5, 6) 及び2人の健常者 (CON#1, 2) の赤血球におけるAKR酵素活性を示した。c.753 G>A バリアントを持つ患者で酵素活性が低下する傾向が見られた。(B) SCZ#1, 3, 4, 5, CON#2におけるAKR1A1のmRNA発現量を示した。c.753 G>Aバリアントを持つ患者では持たない人の50%程度のmRNA発現量を示した。