開催報告

2022年度 第7回 都医学研都民講座(2023年1月18日 開催)
1型糖尿病への理解を深めよう


糖尿病性神経障害プロジェクトリーダー 三五 一憲

今回の都民講座では1型糖尿病をテーマに、東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科講座主任教授の西村理明先生にご講演を賜りました。我が国の糖尿病患者さんの90% 以上は2型糖尿病で、過食・運動不足・ストレスなどの生活習慣が発症に深く関与します。インスリンの分泌量が減ったり、はたらきが悪くなったりする(インスリン抵抗性)ために血糖値が上昇するので、食事療法、運動療法、薬物療法(おもに飲み薬)によるインスリン分泌維持や抵抗性改善が治療の基本となります。これに対し1型糖尿病は、免疫系の異常やウイルス感染などによりインスリンを産生する膵臓ランゲルハンス島β細胞が壊れてしまう疾患です。インスリンが体内で合成できなくなるので、毎日インスリンを注射で補っていく必要があり、それが一生続きます。ご講演では血糖調節の仕組みや1型糖尿病の病態と治療に関して、分かりやすく解説いただきました。1921年のインスリン発見により1型糖尿病が救命しうる疾患となったことを、インスリン投与後に劇的な改善がみられた患者さんの写真付きでご紹介くださいました。また血糖コントロール指標のヘモグロビンA1cだけでなく、血糖変動幅(Time in Range)にも注目すべきことをご教示いただきました。この変動幅をできるだけ小さくすることが、高血糖あるいは低血糖による意識障害や慢性合併症の予防に有効です。西村先生ご自身が開発に携わられた持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring (CGM))機器は、Time in Rangeをより正確に把握でき、血糖値の上昇に見合うインスリン量の投与が可能になりました。さらにCGM機器とインスリンポンプ(インスリン製剤を皮下から持続的に注入する装置)を連携させることにより、患者さんの負担を減らし、より効率的な血糖コントロールを達成できるようになりました。最後に機器の小型化・自動化やインスリン投与法の改良など、今後の展望に関してもご紹介くださいました。会場には1型糖尿病患者さんも数名お越しいただき、ご講演後に多くの質問を頂戴しました。西村先生のご講演や質問に対するご回答を拝聴し、私自身も1型糖尿病への理解を深めることができました。

西村理明先生
西村理明 先生