最近、新型コロナウイルス感染症(COVID -19)に罹患すると、認知障害(ブレインフォグ*1など)の後遺症を来たし、将来的にアルツハイマー病(AD)へと進行するリスクが高まるのではないかと懸念されています。実際、以前より、ウイルス感染が多くの神経変性疾患の危険因子になることが報告されて来ました。ADに関しては、ヘルペスウイルスや肝炎ウイルスとの関係が、パーキンソン病(PD)においては、インフルエンザウイルスとの関係がよく知られています。また、昨年のScience誌が選んだ10大ニュース*2の一つは、「エプスタイン・バール(EB)・ウイルス感染による多発性硬化症(MS)の危険の増加」でした。しかしながら、これらの結果は個別のウイルスと神経変性疾患の解析から得られたものであることを考慮すれば、より包括的に調査する必要があると思われます。今回、米国国立老化研究所のLevine博士らを中心とした研究チームは、それぞれ、数十万人のデータが集まっているフィンランドバイオバンクのデータと英国のUKバイオバンクを用い、国レベルの2つのバイオバンクのデータから、様々なウイルス感染が、ADやPDなど様々な神経変性疾患の引き金になっている可能性を確認してNeuron誌に報告しましたので(図1)、その論文(文献1)を紹介致します。
本研究は、大規模な国レベルのバイオバンクのデータを用いて、ウイルス感染と神経変性疾患発症の関係を検討することを目的とした。ほとんど無症状のEBウイルス感染がMSの原因になることから、また、最近では、Covid-19後遺症として、ブレインフォグ症状が高頻度で発生することからも、ウイルス感染が必ずしも脳炎を起こさなくても、ウイルス感染自体が神経変性疾患のリスクになる可能性があるのではないかと推定した。
この研究では、まず、フィンランドバイオバンクFinnGen(約30万人のデータが集まっている)から、AD、PD、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、MS、血管性痴呆などの発症前にウイルス感染症の既往があるかどうかを調べて、これにより、ウイルス感染とそれぞれの神経変性疾患の関わりを、感染しなかった人と比べた時のオッズ比として計算した。次に、英国のUKバイオバンク(約50万人のデータが集まっている)で、フィンランドのバンクで抽出されたリスクが確認できるかを調べ、両方でリスクが確認された時に限り、ウイルス感染がその神経変性疾患の原因になったと結論した。
以上、実に16種類のウイルス感染と、様々な神経変性疾患の組み合わせがフィンランド、UKのバイオバンク共に確認できた。また、ウイルス感染の急性効果が神経変性疾患発症に関わる可能性が強く示唆された。