がんと認知症やパーキンソン病など神経変性疾患は、主として高齢期に発症する2つの異なるカテゴリーの疾患ですが、共通な面も多いことがわかってきました。特に、アミロイド蛋白質の凝集は神経変性疾患の病態において中心的な役割を担い、これまで治療のターゲットにされてきましたが、最近の研究は、がんにおいてもp53を含めたアミロイド蛋白質の凝集が、がん細胞の増殖や転移に関与している可能性を示唆しており(Takamatsu et al., Trends Cancer 2020)、がん治療との関係が注目されています。しかしながら、現時点で十分な検討はなされていません。このような背景で、ウィーン医科大学産婦人科のNicole Heinzl博士らは、漿液性卵巣がん*1の患者さんの摘出サンプルにおいてp53(アミロイド蛋白)の凝集(図1)と術後の予後の関連性を検討した結果、p53の凝集の程度が高い程、予後が良いという観察に基づいて、臨床において、p53の凝集が予後を予測するためのバイオマーカーになる可能性を提唱しました。神経変性疾患の研究領域では、成熟型のアミロイド蛋白質の凝集体の方が未成熟の凝集(オリゴマー・プロトフィブリル*2)に較べて神経毒性が低いことが知られていますが、増殖疾患であるがんにおいても凝集の程度が高い方が、より予後が良いというのはメカニズムの点からも興味深い結果だと思われます。最近、その論文(文献1)がOncogene誌に掲載されましたので紹介致します。
文献1.
Amyloid-like p53 as prognostic biomarker in serous ovarian cancer—a study of the OVCAD consortium,
Nicole Heinzl et al., Oncogene 42, 2473-2484 (2023)
p53遺伝子(TP53)*3は、がんの中で最も変異の多い遺伝子であり、その遺伝子産物p53は神経変性疾患の鍵となる蛋白質と同様にアミロイドフィブリルの凝集を形成することが示されてきた。それにもかかわらず、p53の凝集と臨床的意義については明らかで無い。この論文の目的は、漿液性卵巣がんにおけるp53の凝集の臨床的意義を明らかにすることである。
著者らが最近、開発したp53の凝集体を蛍光で測定するELISAキット(Henzl et al., Front Oncol 2022)を用いて、漿液性卵巣がん術後の標本のp53の凝集の程度を測定し定量的に評価した。
今後、さらなる検討が必要であるが、本研究ので得られた予備的な結果より、p53の凝集が予後を予測するためのバイオマーカーになり、患者さんの予後の改善に結びつくことが期待される。