先週、運動によって骨格筋から分泌が促進されるマイトカインのイリシンが、アルツハイマー病(AD)に予防効果があることを示唆する論文を紹介しましたが(運動により骨格筋から分泌されるイリシンはアミロイドβの蓄積を抑制する〈2023/12/5掲載〉)、AD以外にも多くの疾患において、運動の予防治療効果におけるイリシンの役割が最近の研究対象になってきました。今週は、PDにおける、イリシンの予防効果に関する論文を紹介いたします。PDは、孤発性、家族性、薬剤性などその病因によっていくつかのサブタイプがありますが、それに応じて、何種類かのモデルマウスがメカニズムや治療法開発の研究に使われています。中国同済大学(Tongji University)*3のZhang博士らは、そのうちMPTP投与PDモデルにおいてイリシンの投与により、運動機能、ミトコンドリアの病理所見を改善したことを観察し、「npj Parkinson’s Disease」に掲載されていますので(文献1)、今回はその論文について報告致します。尚、大部分のPDは孤発性で高齢者に発症するα-シヌクレインの蓄積・凝集を特徴とするタイプですが、これに関しては、米国ジョンズ・ホプキンス大学のTed Dawson博士らのグループが、α-シヌクレインの凝集を正常なマウスの脳に注入するPEFモデルマウス*4の系で、α-シヌクレインの病理を緩和することを既に報告しています(Kam et al. PNAS, 2022)。これらの結果より、イリシンはPD全般に対して保護的に働くと思われます。ただし、気をつけないといけないのはMPTP、PEFモデルともに、これらの実験に使われているのは〜8週齢の生殖期のマウスであり、得られた結果がヒトの高齢者に当てはまるかどうかは慎重に検討する必要があると思われます。
文献1.
Irisin exhibits neuroprotection by preventing mitochondrial damage in Parkinson’s disease, Xi Zhang et al., npj Parkinson's Disease volume 9, Article number: 13 (2023)
PDの患者さんの非薬理学的な管理において、運動が効果的であることは以前より提唱されていたが、そのメカニズムは不明だった。イリシンは、最近、同定されたマイトカインであり、運動により増加してエネルギ代謝に重要な役割を果たすと考えられているが、PDを予防するかどうかは不明である。本研究は、これを理解することを目的とした。
以上の結果は、運動により誘発されたイリシンが、運動のPDの改善効果において重要な役割を持つことを示唆している。したがって、イリシンは、治療藥の有望な候補であろう。