サルコペニアは「加齢性筋減弱症」ともいい、加齢に伴って骨格筋量が減少して筋力が低下することです。高齢の方が要介護になる原因は、運動器の機能低下が約30%を占め、サルコペニアが原因の1位となっています。また、サルコペニアの状態では運動ができませんから、最近、お伝えしていますように、運動によって骨格筋から分泌が促進されるイリシン*5は低下すると思われます。したがって、サルコペニアは、アルツハイマー病などの神経変性疾患や肥満、糖尿病などのメタボリック症候群の危険因子として重要です。したがって、サルコペニアの予防を確立する必要があります。これまで、サルコペニアの病因として、筋幹細胞の機能低下による筋再生不良が関係していると考えられていましたが、そのメカニズムは漠然としていました。このような状況で、九州⼤学⼤学院の⾠⺒隆⼀教授らのグループは、筋幹細胞の分泌するHGFがニトロ化により⽣理活性を失うことを⾒出し、この現象が加齢に伴い進⾏・蓄積することによりサルコペニアに至る可能性(図1)をAging Cell誌に報告しました(文献1)。特定のタンパク質のニトロ化は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、アテローム性動脈硬化症、悪性腫瘍などの多くの高齢疾患においても関係すると報告されており、これらの疾患に共通した治療標的になることが考えられます。
文献1.
Age-related nitration/dysfunction of myogenic stem cell activator HGF, Alaa Elgaabari et al., Aging Cell 2023 Nov 20:e14041.
PDの患者さんの非薬理学的な管理において、運動が効果的であることは以前より提唱されていたが、そのメカニズムは不明だった。イリシンは、最近、同定されたマイトカインであり、運動により増加してエネルギ代謝に重要な役割を果たすと考えられているが、PDを予防するかどうかは不明である。本研究は、これを理解することを目的とした。
本研究では、「加齢に伴って細胞外のHGFのチロシン残基がニトロ化されるとc-metに対する結合能が失われ、筋組織の恒常性が保たれなくなる」という仮説を証明することを目的とした。
概して、筋幹細胞のダイナミックスに対するHGFのニトロ化の抑制効果を強調する本研究の結果はサルコペニアやフレイル*6のような、加齢性筋萎縮症と繊維化を伴った再生不良をより良く理解するために重要であるというのは説得力のある議論であろう。