性ホルモン分泌の低下や乱れが原因で起こる「更年期障害」は、以前は、女性特有のものと捉えられてきましたが、近年、男性にも、男性ホルモンの減少により、身体面・精神面・性機能面などに様々な不調(図1)が見られる「加齢男性性腺機能低下/LOH症候群*1」が、注目されるようになりました。これに関連して、これまで、骨粗鬆症は、女性ホルモンの減少が原因で発生すると考えるのが一般的でしたが、男性ホルモン(テストステロン)の低下も骨粗鬆症のリスクを高めることがわかってきました。実際、テストステロンは、骨形成を促進する作用があり、男性の閉経相当期では、テストステロンの分泌量が減少するため、骨量や骨密度が低下し、骨粗鬆症になりやすくなります。特に、過剰なアルコール摂取、喫煙、運動不足、低カルシウム摂取などの生活習慣を続けると、骨密度が低下して骨粗鬆症のリスクが高くなると考えられています。治療に関しては、女性の場合とほぼ同様に、男性においても、バランスの良い食生活、適度な運動、そして、ホルモン補充療法*2(女性:エストロジェン、男性:テストステロン)が一般的ですが、骨折の予防との関連性については、漠然としていました。このような状況で、オーストラリアメルボルン大学のPeter J. Snyder博士らは、数千人レベルの参加者による臨床試験を行ない、驚くべきことに、テストロン注射により骨折頻度が増加することを見出しました。その結果は、最近、N Engl J Medに掲載されましたので、その論文(文献1)を紹介致します。
文献1.
Testosterone Treatment and Fractures in Men with Hypogonadism, Peter J. Snyder et al., N Engl J Med 2024; 390:203-211
これまでの多くの研究により、加齢男性性腺機能低下/LOH症候群の治療において、テストステロンが骨量や骨密度の低下を改善することが示されてきたが、骨折の予防との関連性については不明である。これを明らかにすることが本論文における研究の目的である。
完全に解析した5,204人のうち、テストステロン注射群は2,601人、プラセボ注射群は2,603人で、3.19年フォローアップした。その結果、テストステロン注射群では、91人(3.50%)が骨折し、プラセボ注射群では、64人(2.46%)が骨折しており、ハザード比は、1.43(95%信頼区間:1.04 to 1.97)で、骨折の頻度は、テストステロン注射群で有意に高かった。