うつ病の治療は、抗うつ薬を中心とする薬物療法*3に加え、いくつかの非薬物治療が補助療法として用いられますが、その一つとして、身体運動の抗うつ効果を用いた運動療法の効果が注目されています。しかしながら、運動療法が対象・方法ともに治療法として確立されたわけではなく、その有効性については慎重に見極める必要があります。運動療法には、有酸素運動、無酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチングなどいくつかの種類があり(図1)、それぞれ身体への負荷や、期待できる効果も異なると考えられるため、患者さんの症状に合った運動療法の種類を取り入れる必要がありますが、詳細は不明です。この様な状況で、オーストラリア・クイーンズランド大学のNoetel博士と共同研究チームは、大うつ病性障害の治療に対する最適な方法及び運動量を特定することを目的として、無作為化試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行いました。その結果、運動はうつ病にとって有効な治療法であり、特に運動強度が強いウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニングが他の運動よりも有効であり、また、ヨガと筋力トレーニングは他の治療法と比べて忍容性*4が良好であることが示され、BMJ (British Medical Journal) に報告しました(文献1)。最近、お伝えしましたようにストレスとうつ病の関連に関する分子レベルの研究が進み、血清マトリックスメタロプロテイナーゼ (MMP8) *5がうつ病の診断マーカーになる可能性が報告されています。総じて、運動療法によるうつ病の予防、治療が確立される日が、近い将来、実現するかも知れません。
文献1.
Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials, Michael Noetel et al. BMJ 2024;384:e075847
うつ病の治療に運動療法の有効性が注目されているが詳細は不明であり、それを理解することが重要である。本プロジェクトは、心理療法、抗うつ薬及びコントロール条件との比較により、大うつ病性障害の治療に対する最適な運動量及び方法を特定することを研究目的とした。
この目的のため、Cochrane Library、Medline、Embase、SPORTDiscus、PsycINFOデータベースを検索した。大うつ病の臨床カットオフ値を満たす参加者を対象として、無作為化試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。スクリーニング、データ抽出、コード及びバイアスリスクの評価は、2人の独立した著者により実行した。