感染制御プロジェクト|インフルエンザ・デング熱及び肝疾患に対する予防と治療

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HCV model

HCV動物モデル

概要

HCV感染症における大きな特徴は感染者のほとんどが持続感染化することと、それに伴って起こる肝発癌である。これまでHCV感染ヒト肝臓組織ではHCVが持続的に複製し、特異的細胞障害性T細胞(CTL)が誘導されているにも関わらず、ウイルス感染細胞が完全には排除されないことが知られている。このことから持続感染が成立する理由の一つとしてHCVに対して宿主側が免疫寛容状態になっていることが推測され、持続感染機序の解明にはC型肝炎発症動物モデルを用いて解析を行う必要性が示されていた。そこで我々は新規HCV持続感染モデルであるCre/loxP/HCV-MxCre Tgマウスを作製し、これまで困難とされていたウイルスに対する免疫寛容の成立機序を解析することを可能とした。これにより、免疫寛容の解除によるウイルスの排除につながる新たな免疫治療の方向性が示されると期待されている。


HCV遺伝子スイッチング発現トランスジェニックマウス

HCV感染症における大きな特徴は感染者のほとんどが持続感染化することと、それに伴って起こる肝発癌である(文献1;Kiyosawa et.al. Hepatology. 1990)。これまでHCV感染ヒト肝臓組織ではHCVが持続的に複製し、特異的細胞障害性T細胞(CTL)が誘導されているにも関わらず、ウイルス感染細胞が完全には排除されないことが知られている(文献2;Chisari FV J Clin Invest. 1997)。このことから持続感染が成立する理由の一つとしてHCVに対して宿主側が免疫寛容状態になっていることが推測され、持続感染機序の解明にはC型肝炎発症動物モデルを用いて解析を行う必要性が示されていた。

しかし、HCVはヒトとチンパンジーにしか感染しないために、HCVの持続感染機序については不明な点が多い。これまでHCVの病原性発現機序を解析するためにHCVのcDNAを組み込んだトランスジェニックマウス(HCV-Tgマウス)の開発が行われてきた。しかし、HCV遺伝子が導入されたマウスは出生時からすでにHCV蛋白の発現があるために免疫寛容状態となり、HCV感染後に起きる宿主の免疫反応、すなわち獲得免疫寛容と慢性肝炎状態の解析が困難であった。そこで我々はそれらの問題を解決するために、Cre/loxPシステムでHCV遺伝子を導入したトランスジェニックマウスとCreを誘導するMx-Creトランスジェニックマウスを交配することにより、任意の時期にHCV遺伝子をスイッチング発現するトランスジェニック(Cre/loxP/HCV-MxCre Tg)マウスを作製した(図1A)。通常はHCV遺伝子の発現は完全に抑制されているが、Cre酵素を作用させることにより、HCV遺伝子の転写、翻訳が開始される。これまで我々はCre酵素の発現にはCre遺伝子が組み込まれたアデノウイルスを感染させることによって行っていたが、急性肝炎を発症するのみで、慢性肝炎を呈するまでには至らなかった(文献3;Wakita et.al. J Biol Chem. 1998)。さらにアデノウイルスに対する炎症反応が起きてしまうなどの課題もあった。そこでそれらの問題点を解決するために、IFNアルファで誘導のかかるMx1遺伝子のプロモーター下にCre遺伝子を結合させたMx1トランスジェニックマウスを交配させ、Cre/loxP/HCV-MxCre Tgマウスを作製した。このTgマウスにPoly ICを投与することでIFNアルファ誘導性のCre酵素が発現し、loxP配列に挟まれているネオマイシン耐性遺伝子をループアウトすることで、任意の時期にHCV蛋白を発現させることを可能にした。すなわち、スイッチング発現システムを樹立したことにより、発生段階でのHCV遺伝子の発現はなくなり、HCV感染に似た免疫反応状態をつくることに成功した。

図1

トランスジェニックマウスの病態解析

Poly IC投与によるHCV遺伝子の発現効率をTaqman PCR法により解析したところ、投与後約7日でほぼ全ての肝細胞においてHCV遺伝子の発現が誘導されることがわかった。肝臓内におけるcore蛋白の発現量においても、投与後7日で最も高い値を示した。その後、core蛋白は発現が半分程度に低下するが、完全に排除されることなく、ほぼ一定量の発現を維持したまま一年以上にわたり持続的に発現し続けていることがわかった。さらに、HCV遺伝子発現後のマウス肝臓について形態学的な検索を行ったところ、リンパ球等の炎症細胞浸潤が持続的に認められ、慢性肝炎の病態を呈することが確認できた(図2)。遺伝子発現後180日経過すると顕著な肝脂肪変性(ステアトーシス)と線維化が認められた。これはヒトでの慢性肝炎と良く類似した所見であった(図2)。また、これまでのHCV感染による肝細胞癌発症に関するin vivo研究は、主にHCV cDNAトランスジェニックマウス(HCV Tgマウス)を用いて解析が進められてきた。16ヶ月齢以上のHCV coreタンパク質発現Tgマウスでの肝細胞癌発症が報告(文献4;Moriya, et al. Nat Med 1998)されて以降、HCV全長遺伝子発現Tgマウスでは生後13ヶ月齢以上で肝細胞癌を発症する事(文献5;Lerat, et al. Gasteroenterology 2002)、HCV感染患者で観察される鉄の異常蓄積を鉄高含有餌により模倣することで肝細胞癌が早期かつより高頻度に起こる事(文献6;Furutani, et al. Gasteroenterology 2006)などが相次いで報告された。Cre/loxP/HCV-MxCre Tgマウスでは発現誘導から一年以上経過すると、肝細胞の脂肪変性や肝線維化、肝細胞癌、リンパ腫などを発症することがわかった(図2)。

図2



HCVと脂質の関わり HCV&lipids

C型肝炎ウイルスと脂質の関わり、さらにそれを利用した anti-HCV drug の可能性