COVID-19 抗体の疫学調査
新型コロナウイルスに対する抗体の疫学調査
都立病院・公社病院の一般外来受診者を対象とした抗体調査
新型コロナウイルス感染症は 2019年に中国で発生して以降、瞬く間に世界中に広がりました。東京においても、2020年 1月には最初の感染患者が報告されて以降、感染者の報告数は右肩上がりに増えていきました。感染者の診断は、症状のある方や感染者の濃厚接触者を対象としてPCR診断が行われていました、無症状の感染者も多くいると考えられており、実際の新型コロナウイルス感染者がどれほどいるかは明らかではありませんでした。私たちは、都内の新型コロナウイルス感染歴がある人の数を推定するために、新型コロナウイルスに対する抗体の保有状況を解析しました。対象は、都立病院・(公財)東京都保健医療公社 14病院の一般外来受診者で、発熱外来や新型コロナウイルス陽性者は除外しました。調査は 2020年 9月から 2021年 3月にわたって実施し、延べ 23,234人の検体が解析されました(図1)。
抗体陽性率は 2020 年 9 月では 1.83%だったのが、2021 年 3 月の抗体陽性率は 2.7%に上昇しました。年齢・性別・地域で補正した結果、2021 年 3 月時点での東京都における抗体陽性者は 470,778 人と推定されました。これは、2021 年 3 月末時点での東京都の検査陽性者である 120,986 人の 3.9 倍にあたり、多くの無症状の感染者がいることが示唆されました(図2)。
日本におけるこのような大規模な調査は行われておらず、都立病院・公社病院すべてと本研究所が連携して行われた本研究は、新型コロナウイルスの流行状況を把握するうえで重要な研究成果となりました。


<発表論文>
- Sanada T, Honda T, Yasui F, et al. J Epidemiol. 2022. 32(2):105-111.
- Sanada T, Kohara M. J Epidemiol. 2023. 33(2):109.
東京都の医療従事者における新型コロナウイルスワクチン接種後の抗体応答の評価
新型コロナウイルスに対する mRNA ワクチンは日本をはじめ、世界中で接種されています。mRNA ワクチン接種後、時間の経過とともにワクチンの効果が減弱していくため、追加接種が勧められていますが、追加接種による抗体応答の推移は明らかではありませんでした。
そこで、本研究では東京都内の医療従事者を対象に、ファイザー社の mRNA ワクチン接種後の抗体応答の推移について解析しました。mRNA ワクチン 3 回目の接種により、抗体価の上昇がみられ、2 回目接種後の同時期よりも抗体価が高く維持されていました(図3)。またワクチン 2 回目接種後では年齢が高いほど抗体価が低くなる傾向がみられましたが、3回目接種以降では年齢による差は認められませんでした。また 4 回目の追加接種をおこなうことで、抗体価がさらに高くなることもわかりました。
本研究により、mRNA ワクチンを 3 回接種することで、2 回接種よりも抗体価が高く、長期にわたって維持されていることが明らかとなりました。これらの結果は、新型コロナウイルス mRNA ワクチンの追加接種の効果解明に有用であると考えられ、ワクチンの接種間隔の最適化に繋がることが期待されます。

<発表論文>
- Sanada T, Honda T, Higa M, et al. J Infect Chemother. 2023. 29(3):339-346.
mRNA ワクチン接種後の抗体価の推移モデルの構築
社会におけるワクチンの効果を推定するうえで、効果の強さ・持続期間・個人間のばらつきを考慮する必要があります。そこで、ワクチン接種後の抗体価の推移モデルを構築しました。推移モデルには、東京都医学総合研究所の職員および東京都内医療関係者1,346 人 3,059検体の抗体価のデータを使用しました。
ワクチン接種回数ごとの抗体価の減衰モデルを作製したところ、ワクチン接種回数を重ねるごとに減衰係数が有意に減少していき、抗体価が減衰しにくくなることが明らかとなりました(図4)。また推移モデルでは、ワクチン 2 回目接種者は接種後 700 日経過すると、半数が中和抗体陰性化しますが、3 回以上の接種者においては 3 年経過しても 95%以上の接種者が中和抗体陽性を維持されることが予想されました。また年齢別による解析においては、2 回目接種後、高齢者において、2 回目ワクチン接種後の抗体価が他の年齢グループより低いのは、減衰しやすいのではなく、接種後の上昇が低いため(抗体価のピークが低いため)であることが明らかとなりました。一方で、3 回目以降のワクチン接種においては年齢間での差はみられなくなりました。
本研究によって、改めてワクチンの追加接種の有効性が示されました。3 回目以降のワクチン接種を行うことで、免疫の減衰がしにくくなり、さらには年齢による違いもみられなくなるなど高齢者においても有効でした。また抗体価の推移モデルを構築することで、集団としてのばらつきを予測できることができ、どれぐらいの人がどの程度の抗体価をどれくらい維持できているかを予測することも可能となりました。本研究は、都民の SARS-CoV-2に対する免疫状態の予測に寄与し、行政の施策の決定などに貢献できるものと考えられます。

<発表論文>
- Sanada T, Honda T, Kohara M. Vaccine. 2024. 42(21):126146.