感染制御プロジェクト|インフルエンザ・デング熱及び肝疾患に対する予防と治療

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HCV & lipids

C型肝炎ウイルスと脂質の関わり

C型肝炎ウイルスとスフィンゴ脂質

C型肝炎ウイルスの複製を抑制する化合物としてセリンパルミトイルトランスフェラーゼを同定
図1

私たちは、HCVレプリコン細胞を使用した天然物スクリーニングから、HCV複製を抑制する天然物としてセリンパルミトイルトランスフェラーゼの阻害剤であるNA255を同定しました。

このセリンパルミトイルトランスフェラーゼは、セラミド・スフィンゴミエリンなどスフィンゴ脂質と呼ばれるリン脂質を合成する経路の酵素でした。


図2


セラミド・スフィンゴミエリンなどのリン脂質は、形質膜などの構造を形成するに必要とされています。その合成経路は、右の図にあるようにERでセラミドが合成され、CERTによりゴルジ体へ運ばれ、そこでスフィンゴミエリンを合成するというものになります。セリンパルミトイルトランスフェラーゼは、ERでのセラミド合成の最上流酵素でした。

SPT阻害剤の抗HCV効果

SPT阻害剤であるミリオシンを使用し、HCVレプリコン細胞での抗HCV効果を検討しました。すると、濃度依存的に複製が抑制されることがわかりました。また一方で、細胞毒性はほとんど見られませんでした。

次に、蛍光抗体法にて確認を行いました。すると、SPT阻害剤投与によりHCV蛋白質の減少を認めました。

図3 図4


in vitroでの結果を受けて、in vivoでの検討を行いました。 使用したのはヒト肝臓型キメラマウスです。

図5図6

すると現行の治療薬であるPEG-IFNの20倍量とほぼ同等の効果を得ました。さらに両者を併用することで相乗効果を示し、3個体中2個体がHCV-RNAが消失しました。

スフィンゴミエリンがHCV複製にどのように寄与しているのか?

我々は、阻害剤を使用した実験から、SPT阻害剤が合成を抑制するもののうちスフィンゴミエリンがHCV複製にかかわっていることを見出しました。

それでは、このスフィンゴミエリンはどのようにしてHCV複製にかかわっているのでしょうか?

スフィンゴミエリンはコレステロールとともに脂質ラフトを構成することが知られています。一方で、HCVは脂質ラフトにおいて複製をおこなっていることがいくつかの研究結果から明らかとなっています。

そこで、SPT阻害剤が脂質ラフトに与える影響を解析しました。脂質ラフトは、生化学的にdetergent resistant membrane fraction(DRM分画)として抽出することができます。

図7

(図7)

右の図(図7)は、DRM分画における変化を、SPT阻害剤の有無で検討したものです。すると、SPT阻害剤の投与によりDRM分画のsphingomyelinが減少しているのがわかります。また、それと同時にHCV-RNA polymeraseであるNS5Bが減少しています。一方で、HCV非構造タンパク質であるNS3は変化がありません。そこで、さらにスフィンゴミエリンとNS5Bの関係を調べるためにBIAcoreを使用し、Binding Assayを行いました。

するとNS5B-peptideは濃度依存的にスフィンゴミエリンとの結合量を増加することがわかりました。

そこで我々は、次のようなモデルを考えています。

図8図9



HCV動物モデル HCV model

C型肝炎ウイルスの in vitro、 in vino におけるモデル