エムポックス
その他急性感染症研究(エムポックス)
エムポックスとは
エムポックスは、エムポックスウイルス感染により引き起こされる急性発疹性疾患です。エムポックスウイルスの自然宿主としてはアフリカに生息するげっ歯類が疑われており、感染動物による咬傷、あるいは感染動物の血液・体液・皮膚病変への接触により人が感染すると考えられています。エムポックスウイルスには大きく分けてクレードIとクレードIIの2つの系統が存在し、クレードIはクレードIIに比べて高い病原性を示します。従来、エムポックス患者は主にアフリカ中央部から西部で報告され、流行地外での発生は流行地からの渡航者等に限局していましたが、2022年5月以降に欧米を中心にクレードIIbのエムポックスウイルスのヒト-ヒト伝播による感染症例が急増し、大きな社会問題となっっています。これまでに、全世界で10万7千人以上が感染し、230人以上が死亡していると報告されています。患者の多くは男性同性間性的接触者(MSM; men who have sex with men)ですが、小児及び妊婦の感染例も報告されています。通常、2から4週間で自然に回復しますが、小児や妊婦、免疫不全者では重症化する場合があります。
コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo; DRC)では以前からエムポックスウイルスクレード Iによる感染流行が継続していましたが、2023年に過去最大の感染者数と死亡者数が報告され、DRC国内では男女間及び同性間での性的接触、家庭内感染により感染が拡大しています。2024年7月にDRCに隣接するブルンジ、ルワンダ、ウガンダや近隣のケニアにおいてエムポックスウイルスクレード Ibの感染事例が初めて報告され、更に、スウェーデンやタイでMPXVクレードIの輸入症例と考えられる感染事例が検出されるなど、DRC及び周辺国のみならず、世界的な感染拡大が懸念されています。
予防ワクチンの開発
このような現状から、免疫抑制者や免疫不全者も含め、不特定多数の接種者を対象とするエムポックスワクチンは、有効性と安全性を併せ持つワクチンであることが重要です。痘そうワクチンであるワクシニアウイルスは天然痘のみならず、エムポックスに対しても予防効果があると考えられています。現在、痘そう及びエムポックスワクチンとして、欧州と北米では非増殖型の高度弱毒株であるMVA株が承認され、日本では増殖型の弱毒化株であるLC16m8株が承認されています。DIs株は、1961年に大連1株から鶏卵培養法によって樹立した殆どの哺乳動物細胞では増殖しない非増殖型高度弱毒化ワクシニアウイルス株であり、1970年代に約50名の小児に接種されて安全性が確認されています。このDIs株は日本オリジナルの非増殖型エムポックスワクチンとして非常に有用であると考え、現在開発を進めています。