ADの病理学的な特徴は、アミロイド蛋白(Aβやtau)の凝集とグリア系細胞の活性化を伴った慢性炎症です。これまでは、遺伝子変異やストレスにより蛋白凝集が誘発され、それにより炎症が引き起こされると考えられていましたが、最近では、炎症が蛋白凝集を促進すると思われる論文も目立ちます。後者を支える理由の一つとして、炎症を伴う慢性的な疾患;アレルギー疾患(「アトピー性皮膚炎はADの危険因子になる!」〈2024/1/11掲載〉)II型糖尿病などのメタボリック症候群ADと合併するとADの進行を有意に促進することが明らかになって来ましたことが挙げられます。今回は、米国ウィスコンシン大学のヘンソン博士らが、腸内炎症がADのリスクを上げることを示してScientific Reports誌に報告していますので(文献1)、この論文を取り上げます。このように、蛋白凝集と慢性炎症は、単純な因果関係にあるのではなく、両者の相互作用が神経病理学的に重要な役割をしているのではないかと思われます。実際、これまでのADの臨床治験においては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)の作用は認められず、最近、抗Aβ免疫療法の弱い効果が認められたに過ぎないのが現状ですが、Aβ蛋白凝集と慢性炎症のそれぞれを単独ではなく、同時にターゲットにすることにより、相乗的な治療効果を生み出す可能性が期待出来るかも知れません。
文献1.
Gut inflammation associated with age and Alzheimer’s disease pathology: a human cohort study. Henson, M. B. and Ulland, T. K. Scientific Reports,volume 13, Article number: 18924 (2023)
高齢疾患は、加齢に伴う炎症老化(inflammaging)*3 を特徴とすることが知られている。これに一致して、老化やADを含む高齢疾患は、腸内細菌の変化と体循環における腸内細菌の構成要素が増加していることがわかってきた。しかしながら、腸内の炎症の役割は必ずしも明らかとは言えない。従って、高齢化、ADの進行と腸内の炎症が相関するかどうか評価することが本論文における研究目的である。
本研究結果より、腸の炎症は病初期から脳の病理にリンクしており、さらに、ADの進行を増悪させることが示唆された。