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開催報告などを掲載しています。


池田和隆研究員
松本俊彦先生
講演の様子

2020年2月12日(水曜日)

2019年度第8回都医学研都民講座「思春期の心の発達を理解する -生きる力を引き出すために-」

会場:一橋講堂

2月12日(水曜日)、当研究所では、一橋講堂において、「思春期の心の発達を理解する -生きる力を引き出すために-」と題して、第8回都医学研都民講座を開催しました。今回は、東京大学医学部附属病院精神神経科教授の笠井清登先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所心の健康プロジェクトの西田淳志プロジェクトリーダーが、「思春期の経験と環境がその後の人生に与える影響」と題してお話ししました。同プロジェクトが東京大学等と共同研究を行っている東京ティーンコホートでは、都内の3,000名を超す10代の子どもやその保護者を対象に、心の健康と成長を支える要因を解明する追跡研究を行っています。そのなかで明らかになってきたこととして、子どもが援助を求めることのできる人数が多いほど子どもの幸福感は増し、さらに、母親が援助を求めることのできる人数が多いほど、母親の幸福感が増すばかりではなく、子どもの幸福感も増すといったことをお話ししました。

続いて、笠井先生に、「思春期:どう生きるかをなやみ、ためす時期」と題して、ご講演いただきました。これまで思春期は、子どもと大人の間の時期と考えられてきましたが、最近では、単に大人になる前の未成熟で衝動的な時期ではなく、社会で長期的に人生を送るために必要な力を身につけ、引き出す、特別に大事な時期であることが分かってきました。これは、それまでの親子(垂直)関係から、仲間・社会(水平)関係への移行を通じて、自らの価値を形成していく時期であるということです。また、思春期は、心の不調が始まりやすい時期でもありますが、これは、生物学的な成熟と心理社会的な成熟のミスマッチが大きいことが一因であるといったことをお話しいただきました。

講演後のアンケートでは、「現在、思春期にある自分の子どもと接するにあたり、大変参考になった。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から、西田研究員、笠井清登先生、講演の様子

写真下:控え室にて(左から笠井清登先生、西田研究員)、質疑の様子

控え室にて質疑の様子





2020年2月10日(月曜日)

第9回都医学研シンポジウム「グリア細胞機能の新展開から脳機能のさらなる理解へ」

会場:東京都医学総合研究所

2月10日(月曜日)、当研究所では、第9回都医学研シンポジウムを当研究所の講堂において開催しました。今回は、「グリア細胞機能の新展開から脳機能のさらなる理解へ」をテーマに行いました。

グリア細胞は最初、細胞体を見分けることができず、神経細胞と神経細胞の間を埋めるものとだけ認識されていました。しかし、研究が進み、細胞として認識されてからは、形態等の違いからアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア等に分類され、それぞれ特徴のある機能も見つかってきました。これまでの脳研究では神経細胞間の理解が中心でしたが、この数年間のグリア細胞の研究から、神経細胞-グリア細胞間、さらにグリア細胞-グリア細胞間のコミュニケーションの理解が、脳機能の理解において不可欠なものと認識されるようになってきました。このため、今回のシンポジウムでは、グリア研究の最前線で活躍する研究者から、最新のグリア細胞機能の知見をご紹介いただきました。

まず、前半の部では、最初に当研究所学習記憶プロジェクトの宮下知之主席研究員からショウジョウバエを使い、連合学習に必要な電気ショックの情報を記憶中枢に伝達しているのが神経細胞ではなく、グリア細胞であることを明らかにしたことをお話ししました。次に、理化学研究所脳神経科学研究センター神経グリア回路研究チームの大江佑樹研究員から、シナプスと血管を被覆するアストロサイトによる記憶の定着についてお話しいただきました。さらに、神戸大学大学院医学研究科システム生理学分野の和氣弘明教授から、特殊な顕微鏡を用いて、動物を生きたまま観察し、ミクログリアがその突起を動かすことでシナプスを監視していることなどを明らかにしてきたことをお話しいただきました。

続く後半の部では、まず、山梨大学大学院総合研究部医学域薬理学講座の小泉修一教授から、アストロサイトが変化することで、本来独立している触覚及び疼痛のネットワークが混線し、神経障害性疼痛が起こることをお話しいただきました。次に、九州大学薬学研究院附属産学官連携創薬育薬センターの津田誠センター長から、触れただけで痛みが起こるアロディニア(異痛症)を発症するメカニズムでは、神経細胞によるものだけでなく、グリア細胞によるものが重要であることなどをお話しいただきました。

講演後のアンケートでは、「グリア細胞にも様々な種類・機能があり、それぞれが関連しあって学習や病気に作用していることがわかった。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から、宮下研究員、大江佑樹先生、和氣弘明先生、小泉修一先生、津田誠先生

写真下:会場の様子

会場の様子
池田和隆研究員
松本俊彦先生
質疑の様子

2020年1月18日(土曜日)

2019年度第7回都医学研都民講座「依存症に正しく向き合う -予防、治療、回復-」

会場:一橋講堂

1月18日(土曜日)、当研究所では、一橋講堂において、「依存症に正しく向き合う -予防、治療、回復-」と題して、第7回都医学研都民講座を開催しました。今回は、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所依存性薬物プロジェクトの池田和隆プロジェクトリーダーが、「依存症をめぐる最近の動き」と題してお話ししました。最近は海外だけでなく日本においても薬物乱用は深刻な問題となっています。また、世界保健機関がゲーム症を新疾患とし、また、IR法やギャンブル等依存症対策基本法が施行され、依存症や行動嗜癖への関心が高まっています。このようなことを背景に、自らが委員長を務める日本学術会議のアディクション分科会で、国への政策提言を検討するとともに、当研究所と国立精神・神経医療研究センター等との間で、依存症の治療薬の開発を進めていることをお話ししました。

続いて、松本先生に、「人はなぜ依存症になるのか -依存症からの回復のために必要なもの-」と題して、ご講演いただきました。依存症になる場合、一般的には快楽を享受するために薬物を使用すると考えられがちですが、むしろ苦痛を抱えている人の方が依存症になりやすく、回復しにくいとの調査結果があるそうです。それは、薬物依存症患者の55%に精神障害があり、そのうちの9割は薬物乱用開始前から存在していることから、精神障害による心理的苦痛が背景にあることが考えられます。また、患者にとって、薬物や酒をやめることはできても、なにより難しいのは、やめ続けるということや、患者を孤立させないように地域社会が見守り、治療・支援体制を構築していく必要があるといったことをお話しいただきました。

講演後のアンケートでは、「依存してしまう背景に、快楽ではなく、苦痛の緩和を求めることが原因にあることを知り、勉強になった。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から、池田和隆研究員、松本俊彦先生、質疑の様子

写真下:控え室にて(左から松本俊彦先生、池田和隆研究員)

控え室にて
尾崎紀夫先生
新井誠研究員
講演会場

2019年11月29日(金曜日)

2019年度第6回都医学研都民講座「こどもと母のメンタルヘルス」

会場:一橋講堂

11月29日(金曜日)、当研究所では、一橋講堂において、「こどもと母のメンタルヘルス」と題して、第6回都医学研都民講座を開催しました。今回は、名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野教授の尾崎紀夫先生を講師にお迎えしました。

日本では2018年に成育基本法が公布され、子どもと母の心身の健康を確保するための施策を推進することとしましたが、都の妊産婦の死亡原因に関する調査では、最大の死亡原因は自死で、うつ病等のメンタルヘルスの不調が多くの割合を占めていることがわかりました。尾崎先生からは、妊娠出産は、喜ばしいことであるものの、ホルモンの変化等が脳に影響をもたらし、育児への不安を感じているうちに、精神的に不調になり、うつ病等を発症することがあることから、妊娠出産に伴うメンタルヘルスの不調とその対処法をお話しいただきました。例えば、脳の扁桃体は不安や恐怖を感じた際に眠らないように働くものですが、育児への不安を抱くことで眠れなくなることがあるため、夜間は家族に育児を任せ、睡眠を確保することが大事であるといったお話しがありました。また、うつ病になった場合には、励ましや気晴らしといった精神的な休息の確保は難しく、かえって逆効果になることを周囲に理解してもらう必要があるとのことでした。

講演後のアンケートでは、「自分がいま妊娠中のため、出産に向けて知識を得られてよかった。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から、尾崎紀夫先生、新井誠研究員(司会)、講演会場

写真下:控え室にて(左から尾崎紀夫先生、新井誠研究員)

会場の様子
久恒智博主席研究員


2019年11月28日(木曜日)

世界脳週間2019講演会「覗いてみよう脳神経科学」

会場:桜陰高等学校

11月28日(木曜日)、当研究所では、桜陰高等学校において「覗いてみよう脳神経科学」と題し、世界脳週間2019講演会を開催しました。

「世界脳週間」とは、脳科学の科学的な意義と社会にとっての重要性を一般の方々にご理解いただくことを目的として世界的な規模で行われるキャンペーンです。わが国でも「世界脳週間」の意義に賛同し、「特定非営利活動法人 脳の世紀推進会議」が主体となって、高校生を主な対象とした講演会等が各地で行なわれています。

最初にシナプス可塑性プロジェクトの久恒智博主席研究員が、「脳とカルシウム」をテーマにお話ししました。生体内にあるカルシウムの99%は骨や歯を形成していますが、残る1%はカルシウムイオンとして存在し、細胞内において情報伝達物質として働いています。このカルシウムイオンは、神経伝達物質の分泌や記憶に必要なもので、カルシウムイオンがないと脳の働きが悪くなることを説明しました。また、カルシウムチャネルのひとつであるIP3受容体がなくなると、小脳の機能に重大な影響を及ぼし、ヒトの場合は脊髄小脳変性症を発症することがわかっているそうです。このため、カルシウム濃度を測定して、脳機能の理解・脳疾患治療薬の開発に向けて研究しているとお話ししました。

続いて、認知症・高次脳機能研究分野の長谷川成人分野長が、「認知症の発症、進行機構」をテーマにお話ししました。原因が不明で有効な治療薬がない変性性認知症について、プリオン病(※)における異常型プリオンと同じように、その多くが異常型に変化したタンパク質が病気の発症や進行の原因であるという認知症の新しい考え方を紹介しました。また、この考え方は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、異常タンパク質病変を伴う様々な神経変性疾患の発症や進行機序について説明できると共に、認知症の診断や治療薬開発にとっても大きなヒントを与えるものであるとのことでした。

今回の講演会は、桜陰高等学校において理系を選択している高校生が対象だったため、難しい話であるにもかかわらず、ちょうど授業で勉強した後だったこともあり、みなさん熱心に聴講していました。

※ 脳内に存在する正常型プリオン蛋白が異常型プリオン蛋白に変換されて蓄積し、神経細胞を障害することによって発病する進行性かつ致死性の神経変性疾患。


写真右:上から、久恒智博研究員、長谷川成人研究員、熱心に質問をする生徒さんたち

写真下:講演会場の様子

会場の様子
安井文彦


2019年11月23日(土曜日)

第32回 サイエンスカフェ in 上北沢
「ウイルスって何? -ウイルスが引き起こす病気について-」

会場:東京都医学総合研究所

11月23日(土曜日)、当研究所の講堂において、感染制御プロジェクトの安井文彦研究員を話題提供者として、第32回 サイエンスカフェ in 上北沢「ウイルスって何? -ウイルスが引き起こす病気について-」を開催しました。

最初に、安井プロジェクトリーダーから、病気を引き起こすウイルスについての説明がありました。ウイルスは、自分自身では増えることができませんが、他の生物の細胞内に入り込んで増殖することができ、また、増殖すると様々な病気を引き起こすことがあります。この仕組みを動画を使って紹介するとともに、インフルエンザワクチンを例に、侵入したウイルスを排除する体の防御システムについて説明しました。最後に、これからの季節に流行するインフルエンザを予防するのに有効な方法についてもお話ししました。

説明後には、参加したみなさまで、実際に医療現場で使われているインフルエンザの検査キットを使って、不活化したウイルスを用いて、A型やB型のインフルエンザウイルスを測定しました。さらに、光学顕微鏡では見ることのできないインフルエンザウイルスを、電子顕微鏡で撮影倍率を5万倍に設定して、観察していただきました。

参加したみなさんからは、「実際の検査キットを使って、インフルエンザウイルスを検出することが体験できて面白かった」といった御意見が数多く寄せられました。


写真右:上から、安井文彦研究員、実際に体験・観察をする参加者の様子

写真下:会場の様子

会場の様子



2019年11月21日(木曜日)

2019年度 第22回 都医学研国際シンポジウム
「”Evidence- and community-based approach for people living with dementia: a synthesis of global research findings”(認知症の人のための根拠や地域に基づいたアプローチ:グローバルな研究や知見の統合)」

会場:東京都医学総合研究所

11月21日(木曜日)、当研究所は、講堂において、「認知症の人のための根拠や地域に基づいたアプローチ:グローバルな研究や知見の統合」と題して、第22回都医学研国際シンポジウムを開催しました。今回、海外からの3人を含む、4人の研究者をお招きしました。

まず、当研究所の西田淳志研究員が開催の挨拶を兼ねて「日本の認知症施策:開発と実装」をテーマに講演し、次に、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのClaudia Cooper先生から、「リスクの低減と社会的包摂:世界的な認知症予防の研究が社会に及ぼす影響」をテーマに、認知症予防が全ての人の身体と心の健康向上につながるというメッセージと、アップルツリー・プログラム(認知症のリスクのある人に向けた生活・行動習慣の向上)をご紹介いただきました。続いて、オランダライデン大学医療センターのJenny T. van der Steen先生から、「認知症の緩和ケア:疾患が始まる初期段階からの支援とアドバンス・ケア・プランニング」をテーマに、認知症の診断後早期からご本人とご家族を支える認知症緩和ケアの基本的な考え方をご紹介いただきました。

昼食後、カナダシャーブルック大学のMarcel Arcand先生から、「終末期における認知症の人と家族へのケア:ケアの質を高めるための取り組み」をテーマに、人生の終末期にある認知症の人のみならず家族介護者を支えることも終末期ケアでは重要であること、そこでご本人とともにご家族の満足度を高める支援のあり方をご紹介いただきました。続いて、当研究所の中西三春主席研究員が「ユニバーサルなプライマリ・ケアとしての認知症ケア:基本となる緩和ケアの東京版在宅介護プログラム」と題し、東京都の認知症ケアプログラムを紹介しました。最後に、国立がん研究センター東病院の小川朝生先生から、「認知症にやさしい病院:一般急性期病院における質の高い認知症ケアに向けての国家戦略」をテーマに、日本の一般急性期病院で認知症を合併した患者さんのケアの質を高める取り組みをご紹介いただきました。最後のパネルディスカッションでは、会場からの質問に答える形で、各国での状況や施策について、活発に議論が交わされました。


写真右:講演の様子

写真下:参加者集合写真

参加者集合写真



2019年10月10日(木曜日)

2019年度第5回都医学研都民講座「睡眠と心の関係 —豊かな生活のために-」

会場:ニッショーホール

10月10日(木曜日)、当研究所では、ニッショーホールにおいて、「睡眠と心の関係 —豊かな生活のために-」と題して、第5回都医学研都民講座を開催しました。今回は、久留米大学医学部神経精神医学講座教授の内村直尚先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所睡眠プロジェクトの本多真プロジェクトリーダーが、「眠気のしくみとその対処法」と題してお話ししました。この50年間で、日本人の生活は夜型化と短時間睡眠化が進み、その結果、睡眠時間は約1時間短縮しています。睡眠不足により、過剰な眠気が起こると、イライラしたり、やる気が低下したりするだけではなく、判断力が低下することで、学業成績や仕事に影響し、さらには事故にもつながり、日常生活の質に関わる大きな問題となることをお話ししました。

続いて、当研究所うつ病プロジェクトの楯林義孝プロジェクトリーダーが、「ストレスと睡眠障害」と題してお話ししました。ストレスと睡眠は密接な関係にあり、質の良い睡眠をとることがストレス軽減、パフォーマンス向上にもつながります。一方で、不眠または過眠といった睡眠の異常が2週間以上続き、日常生活に支障が出るようになると、うつ病につながることもあることをお話ししました。

最後に、内村先生に、「睡眠はこころとからだのバロメーター -睡眠を制する者が人生を制する-」と題して、ご講演いただきました。睡眠不足や不眠は、全身倦怠感、集中力低下や不安・イライラばかりではなく、さらに、肥満、糖尿病、高血圧等の生活習慣病や癌、認知症の誘因や増悪因子となることをお話しいただきました。ぐっすり眠れているかどうかは、健康を維持する上で重要であることから、ぐっすり眠るため方法をご紹介いただき、例えば、就寝1時間前から照明を落とし、明るい光を避けるとよい、といったことをご説明いただきました。

講演後のアンケートでは、「子育て支援の中で睡眠の大切さを学んでいたが、睡眠が眠りの問題だけでなく、脳や体(健康)と深い関係があることを改めて実感した。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から本多研究員、楯林研究員、内村先生、講演の様子

写真下:控え室にて(左から本多研究員、内村先生、楯林研究員)




2019年10月15日(火曜日)

第21回都医学研国際シンポジウム
「Overcoming neuropsychopharmacology crisis(神経精神薬理学上の危機の克服)」

会場:東京都医学総合研究所

10月15日(火曜日)、当研究所では、講堂において、「Overcoming neuropsychopharmacology crisis(神経精神薬理学上の危機の克服)」と題して、第21回都医学研国際シンポジウムを開催しました。国際シンポジウムは国内、国外の研究者を招聘し、医学に関連する各種研究分野の最先端の研究成果について発表し、討議することを目的とします。今回は、諸外国から12人の研究者をお招きしました。

シンポジウムは、研究所の紹介を挟みつつ、三つの大きなテーマで進行し、まず、「抗精神病薬」をテーマに、ノースウェスタン大学のHerbert Y. Meltzer先生からご講演いただきました。第二部では、「抗うつ薬」をテーマに、オックスフォード大学のAndrea Cipriani先生、キングス・カレッジ・ロンドンのAllan H. Young先生、ミュンスター大学のBernhard T. Baune先生とオタワ大学のPierre Blier先生からお話しいただきました。昼食を挟み、所内の見学の後、当研究所の研究内容を10名のプロジェクトリーダーがご紹介しました。最後に第三部では、「CINP/AsCNP(国際神経精神薬理学会/アジア神経精神薬理学会) セッション」をテーマに、ウィーン医科大学のSiegfried Kasper先生(CINP理事長)、ソウル国立大学のJun Soo Kwon先生(CINPカウンシラー)、台北市立病院・精神医学センターのShih-Ku Lin先生(CINP副理事長、AsCNP副理事長)とハサヌディン大学のAndi J. Tanra先生(AsCNP前理事長)からご講演いただきました。各部の座長もシンガポール大学のChay Hoon Tan先生(AsCNP次期理事長)など当該領域のリーダーにお務めいただき、シンポジウム全体を精神行動医学研究分野の池田和隆分野長(CINP執行役員、AsCNP理事長)と井手聡一郎主席研究員が企画、進行しました。

うつ病、統合失調症、脳の発達障害や神経変性疾患等の精神神経障害は、人のあらゆる病気の中で最大の負担となっています。これは、精神神経障害のための治療法や医薬品が、他の病気に比べて不十分であるためです。また、数多くの巨大製薬企業は、最近立て続きおきている開発の失敗から、中枢神経系の医薬品の研究や開発から撤退しています。これには、精神神経障害におけるバイオマーカーが不十分で、生物学的な診断ができないという問題が背景にあります。この背景にある問題を解決して危機を克服するために、精神神経薬の研究者は、学界と産業界における関連分野の研究者と臨床医とともに研究を進めています。今回のシンポジウムでは、このような危機に打ち勝つため、特に薬物療法を改善することを目的として開催しました。

今後も当研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとし、最先端の情報収集を行い、研究成果の国際的な発信を目指して国際シンポジウムを開催していく予定です。


写真下:集合写真、写真右:講演の様子




2019年9月27日(金曜日)

2019年度第4回都医学研都民講座「自閉症の理解と回復を目指して」

会場:烏山区民会館ホール

9月27日(金曜日)、当研究所では、烏山区民会館ホールにおいて、「自閉症の理解と回復を目指して」と題して、第4回都医学研都民講座を開催しました。今回は、昭和大学発達障害医療研究所所長の加藤進昌先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所シナプス可塑性プロジェクトの山形要人プロジェクトリーダーが、「知的障害を伴う自閉症のしくみを探る」と題してお話ししました。自閉症は他の人とうまくコミュニケーションがとれなかったり、興味が偏ったりする特徴があり、子どもでは知的な遅れを伴うことが多いのが実情です。この知的障害を伴う自閉症(カナー型自閉症)の原因を探るため、患者と同じ遺伝子変異があるマウスを用いて、シナプス(神経細胞の情報伝達のための接触構造)が異常になるメカニズムを明らかにし、治療薬の開発に着手していることをお話ししました。

続いて、加藤先生に、「アスペルガー症候群※とは何か -脳内メカニズムの解明からリハビリテーションまで-」と題して、ご講演いただきました。加藤先生は、発達障害外来で診察を行う傍ら、カナー型から知的に高いアスペルガー症候群までの自閉スペクトラム症(ASD)を、人工知能によりMRI画像で見分ける技術を開発しました。また、ASDの人を対象としたデイケアでは、利用者の中断率が1割以下であったり、無職の人のうち55%が3年以内に就職したりするなど、大きな成果が上がっていることが発表されました。

講演後のアンケートでは、「デイケアの成果を聞いて、この取り組みが全国に広がるとよいと感じた。」といった御意見を多く頂きました。

※アスペルガー症候群:
発達障害の一つ。言語発達は良好だが、他人とコミュニケーションをとることが苦手で、周囲の人と共感する感情が乏しい。自分が関心を示す分野への拘りが強いあまり、熱中し過ぎることで、周囲の人とトラブルを引き起こすことがある。



写真右:上から、山形要人研究員、加藤進昌先生、会場の様子

写真下:控え室にて(左から加藤先生・山形研究員)

控え室にて(加藤先生・山形研究員)

2019年8月24日(土曜日)

第31回 サイエンスカフェin上北沢「ねむりのしくみ ーぐっすり眠る工夫ー」を開催しました

会場:東京都医学総合研究所

8月24日(土曜日)、当研究所の講堂において、当研究所の睡眠プロジェクトの本多真プロジェクトリーダーを話題提供者として、第31回 サイエンスカフェ in 上北沢「ねむりのしくみ -ぐっすり眠る工夫-」を開催しました。

まず本多真プロジェクトリーダーが、眠りの仕組みについて説明しました。続いて、脳波の形で睡眠段階や、覚醒した状態とリラックスした状態の判断ができることも説明しました。また、日常生活でよい眠りをとる工夫についてお話ししました。夜によく眠るためのポイントとして、寝る前に明るい光を浴びると脳が興奮し、体内時計が遅れてしまうため、寝る1時間前はスマートフォンを使わないようにすることや、深部体温が下がると眠りが準備されるため、寝る直前に激しい運動をしたり、熱い風呂に入ったりすることは避けた方がよいことを紹介しました。

説明後には、脳波を検出して、集中・緊張した状態とリラックスした状態を判定する猫の耳の形をした機械を使って、脳波の違いを体験していただきました。この機械は、集中・緊張した状態だと耳がパタパタと動き、一方、リラックスした状態だと耳の動きが止まり、垂れ下がるというものです。数独等の課題を解いている間は集中した状態になるため、耳がパタパタと動きましたが、逆に、音楽を流してリラックスしやすい環境でも、なかなか耳が垂れ下がるようなリラックスした状態となるのは難しいようでした。

参加したみなさんからは、「脳波の違いにより、機械の動きが変わったのを体験できて面白かった」といった御意見を数多く頂きました。


写真右:本多 真 研究員

写真下:会場の様子

会場の様子



2019年7月30日(火曜日)

第20回都医学研国際シンポジウム
「Principles of Neocortical Development and Evolution(大脳新皮質の発達と進化の原理)」

会場:東京都医学総合研究所

7月30日(火曜日)、当研究所は、講堂において、「Principles of Neocortical Development and Evolution(大脳新皮質の発達と進化の原理)」と題して、第20回都医学研国際シンポジウムを開催しました。国際シンポジウムは国内、国外の研究者を招聘し、医学に関連する各種研究分野の最先端の研究成果について発表し、討議することを目的とします。今回は、国内の5人の研究者の他に、諸外国から5人の研究者をお招きしました。

シンポジウムは四つの大きなテーマで進行し、まず、「ニューロンとグリア細胞をつくりだすトリック」をテーマに、早稲田大学のCarina Hanashima先生、ドレスデン工科大学のFederico Calegari先生と慶応大学のKazunori Nakajima先生からご講演いただきました。第二部では、「大脳皮質におけるサブプレート・ニューロンの知られざる機能」をテーマに、当研究所のChiaki Ohtaka-Maruyama研究員が講演し、その後、オックスフォード大学のZoltan Molnar先生からお話しいただきました。続く第三部では、「適切な行動のための適切な神経回路形成」をテーマに、メリーランド大学のPatrik Kanold先生、東京大学のGentaro Taga先生と大阪大学のNobuhiko Yamamoto先生からご講演いただきました。最後に、「進化的観点から見た大脳皮質の発生」をテーマに、クィーンズランド大学のLinda Richards先生、京都府立大学のTadashi Nomura先生とミゲル・エルナンデス大学のVictor Borrell先生からお話しいただきました。

脳については、その発生、発達の機序について未解明な部分が多く残されています。これらを明らかにしていくことは、私たちが自分自身のことをよりよく理解することにつながり、意識とはどういうものなのかという問題を解くことにもなります。さらに、神経発達障害等の病気を理解し、その克服に向けて取り組むことを可能にします。これらを背景に、脳の発達の基本的な仕組みに関する最先端の研究について講演し、議論していただきました。

今後も当研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとし、最先端の情報収集を行い、研究成果の国際的な発信を目指して国際シンポジウムを開催していく予定です。


写真右:講演の様子

写真下:第20回都医学研国際シンポジウム ポスタープレゼンテーションの様子、集合写真

第20回国際シンポジウム 第20回国際シンポジウム集合写真


2019年8月1日(日曜日)

高校生のための都医学研フォーラムを開催しました

会場:東京都医学総合研究所

8月1日(木曜日)、当研究所において、「高校生のための都医学研フォーラム」を開催しました。

このフォーラムは、医学・生物学研究に興味を持つ高校生に、当研究所の研究成果を分かりやすく伝え、研究室等での実験や機器操作を実際に体験してもらうことにより、研究への理解を深め、将来的には進路選択の一助となることを目的としています。今回は、15校から31名が参加しました。

前半の講演は、統合失調症プロジェクトの新井 誠プロジェクトリーダーから「生命科学研究者という将来に向けた歩み:やりがいのある仕事って?」というテーマで、自分自身の体験を交えながら、研究の実態や研究者という仕事について、お話ししました。

後半の研究室見学は、参加者が希望するコースに基づき、分子医療プロジェクトと運動障害プロジェクト、再生医療プロジェクトと糖尿病性神経障害プロジェクト、感染制御プロジェクトと細胞膜研究室、哺乳類遺伝プロジェクトとカルパインプロジェクトの4コースに分かれ、見学しました。見学先では、研究内容紹介の他、インフルエンザウイルス検査の体験や蛍光顕微鏡による細胞の観察等を行いました。

参加者のアンケートでは、講演については、研究者になるにはどうしたらよいのか知ることができた、といったご意見や、研究室見学については、高校にはない実験器具を見たり、使ったりすることができてよかった、といったご意見をいただきました。



写真右:研究室見学の様子

写真下:講演の様子

講演
丸山研究員
多賀先生
質疑応答

2019年7月14日(日曜日)

2019年度第3回都医学研都民講座「赤ちゃんの脳をすくすく育てる」

会場:調布市グリーンホール

7月14日(日曜日)、当研究所では、調布市グリーンホールにおいて、「赤ちゃんの脳をすくすく育てる」と題して、第3回都医学研都民講座を開催しました。今回は、東京大学大学院教育学研究科教授の多賀厳太郎先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所神経回路形成プロジェクトの丸山千秋プロジェクトリーダーから、「脳はどのようにしてできるのか? -ニューロンから脳へ-」と題してお話ししました。ヒトの大脳皮質は6層構造であり、胎児期にできますが、この層構造に乱れがあると、重い場合には脳梁欠損等の脳形成障害が現れ、軽い場合でも神経回路の形成不全により、統合失調症等の精神疾患を発症するとのことでした。また、妊娠中のストレスが胎児に与える影響として、栄養失調の場合には、生活習慣病や統合失調症等の発症リスクが増大し、精神的ストレスの場合にも、自閉症等の精神疾患発症のリスクの高まることがわかってきているとのことでした。

続いて、多賀先生から、「赤ちゃんと脳 -発達脳科学から知の起源を探る-」と題してお話しいただきました。近年、近赤外分光法(NIRS)等の脳の計測技術が発展してきており、これらを使って、赤ちゃんの脳の構造やネットワークが発達していく様子を計測できるようになってきたそうです。これにより、生後3ヶ月の赤ちゃんでも、物を見ているときには、後頭葉の視覚野が活動し、言葉を聞いているときには、聴覚野が活動しており、視覚や聴覚の情報が大人と同様の脳部位でそれぞれ処理されていることがわかったそうです。さらに、赤ちゃんに話しかける場合、普通の話し方と抑揚のない話し方とでは、脳の活動に大きな差が見られるとのことでした。

講演後のアンケートでは、「妊娠中のストレスが胎児に与える影響は大きく、孫の世代にまで影響を及ぼすことがあると知り、驚いた。」といった御意見を多く頂きました。



写真右:上から丸山研究員、多賀先生、質疑の様子

写真下:控室にて(左:多賀先生  右:丸山研究員)

控室にて
岡戸研究員
池谷先生
質疑応答の様子

2019年6月8日(土曜日)

2019年度第2回都医学研都民講座「脳を知ろう」

会場:調布市グリーンホール

6月8日(土曜日)、当研究所では、調布市グリーンホールにおいて、「脳を知ろう」と題して、第2回都医学研都民講座を開催しました。今回は、東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷裕二先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所神経細胞分化プロジェクトの岡戸晴生プロジェクトリーダーから、「脳の発達を決める遺伝子と発達期環境」と題してお話ししました。脳の発達においては、遺伝子と発達期の環境から大きな影響を受けているのではないかと考えているとの話がありました。このうち、特に発達期の環境については、母子分離、あるいはショ糖(※)過多食がその後の成長にどのように影響を及ぼしているのかを研究しているとのことでした。

続いて、池谷先生から、「脳の潜在知覚を拓く」と題してお話しいただきました。知覚は人によって異なり、例えば、赤色を感じる遺伝子は複数あり、どの型の遺伝子を持つのかによって、赤色の見え方が人によって左右されるそうです。また、ヒトは動物に比べ、身体の性能が劣るがゆえに、脳が発達したとのことでした。さらに、そもそも地球上において、脳を持たない生物の方が、生物重量比で99%以上にもなるとのことでした。

講演後のアンケートでは、「自分が頭の中で念じていることを人工知能で解読して、自分がしゃべる代わりに話すスピーカーが開発されていると知ってびっくりした」といった御意見を多く頂きました。

※ 砂糖の主成分で、スクロースともいう。



写真右:上から岡戸研究員、池谷先生、質疑の様子

写真下:控室にて(左:岡戸研究員、右:池谷先生)

控室にて


2019年4月16日(火曜日)

2019年度第1回都医学研都民講座「こどもの脳の難病を治す ‐遺伝子治療の幕開け‐」

会場:東京都医学総合研究所

4月16日(火曜日)、当研究所の講堂において、「こどもの脳の難病を治す ‐遺伝子治療の幕開け‐」と題して、第1回都医学研都民講座を開催しました。今回は、自治医科大学小児科学教授の山形崇倫先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所こどもの脳プロジェクトの佐久間啓プロジェクトリーダーから、「こどもの稀少神経難病に対する取り組み」と題してお話ししました。稀少難病とは人口2千人に1人未満の稀な頻度で発生し、治療方法が確立しておらず、長期の療養を要する病気です。この稀少難病の一つである先天代謝異常症の根治療法として期待される、細胞治療についての研究内容をお話ししました。

続いて、山形先生から、「小児神経疾患への遺伝子治療の開発 ‐AADC欠損症※1に対する遺伝子治療‐」と題してお話しいただきました。神経疾患の治療法として、近年、ウイルス等から作られたベクター※2を使って、遺伝子を脳に導入する遺伝子治療が開発され、治療効果が得られてきました。このうち、山形先生たちは、AADC欠損症の患者さんたちに遺伝子治療を行ったところ、寝たきりだった患者さんたちが、歩行器を使った歩行ができるまでに回復したことなどについてお話しいただきました。

講演後のアンケートでは、「AADC欠損症の患者さんが、遺伝子治療後に歩くことができるようになったのをみてびっくりした。」といった御意見を多く頂きました。

講演終了後、希望者に研究室を見学していただき、「なかなか見ることのできない研究室が見学できてよかった。」等、満足していただきました。

※1 AADCは、神経伝達物質の合成に必須の酵素で、AADC欠損症は、生まれつきAADC遺伝子に変異があることで、AADCが働かなくなる疾患である。この欠損により、発汗や血圧の調整等の自律神経機能が働かない等の症状が現れる。
※2 遺伝子組み換え操作で使われ、挿入する遺伝子の断片の大きさや挿入目的によって、様々な特徴を加えた媒体である。このうち、ウイルスベクターは、ウイルスの病原性に関する遺伝子を取り除き、外来の目的遺伝子を組み込んだものである。



写真右:講演の様子(上から、佐久間研究員、山形崇倫先生)

写真下:講演終了後の1枚(左:山形先生、右:佐久間研究員)、講演会場の様子

講演終了後、講演会場


2019年4月13日(土曜日)、4月14日(日曜日)

科学技術週間特別行事に参加しました

会場:日本科学未来館

4月13日(土)、14日(日)の2日間、当研究所では、日本科学未来館において、「DNAと脳の仕組み」と題し、実験教室等を行いました。この行事は、「Tokyoふしぎ祭(サイ)エンス」をキャッチフレーズに、首都大学東京、各研究・教育機関等が一堂に会して研究・技術についてわかりやすく紹介するものです。

当研究所からは、「見てみよう」、「調べてみよう」、「作ってみよう」という3つのテーマで、来場者に直接実験等に参加していただく「体験展示」を実施しました。

企画1の「バナナからDNAを取り出そう」の参加者は、最初にDNA等についての説明を受けた後、バナナからDNAを取り出す実験を行いました。参加者は実験の手順について真剣に耳を傾け、実験用ゴム手袋を付けた慣れない手つきで実験をやり遂げました。最後にDNAが取り出せると、白衣に身を包んだ小学生等からは満面の笑みがこぼれ、驚きの声が響きました。企画2の「DNAの二重らせんを作ろう」の参加者は、DNAの形を模したビーズストラップ作りに挑戦しました。集中して親子で協力し、熱心に作業している姿が印象的でした。企画3の「錯視を体験しよう」の参加者は、3種類の図形に、シールを貼ったり、ハサミで切ったり、あるいは、線を描いたりするなどの工作を通じて、錯視を体験しました。脳が見せる錯覚について説明を受けながらも、不思議そうに図形を見つめていました。

担当した研究者等にとって、普段は接することの少ない都民の皆様に研究内容等を披露する貴重な機会となり、有意義なイベントとなりました。



写真:錯視体験をする子供達の様子

平成31年3月10日(日曜日)

第30回 サイエンスカフェin上北沢「こころとからだのメンテナンス -からだのなかの電気のリズム-」を開催しました

会場:東京都医学総合研究所

3月10日(日曜日)、当研究所の講堂において、うつ病プロジェクトの楯林義孝プロジェクトリーダーを話題提供者として、榛葉俊一協力研究員の協力のもと、第30回 サイエンスカフェ in 上北沢「こころとからだのメンテナンス -からだのなかの電気のリズム-」を開催しました。

まず楯林義孝プロジェクトリーダーから、脳波、心電図及び汗を計測することで、自律神経の状態がわかることを説明しました。また、強いストレスがかかると、自律神経が乱れ、質の良い睡眠をとることができなくなること、さらに、榛葉協力研究員から、リラックスする方法として、脳の場合は目を閉じること、心臓の場合は深呼吸すること、汗をかかないようにするには何も考えないようにすること、といった話がありました。

説明後には、脳波、心電図及び汗の3つの計測を体験して頂きました。脳波の計測では、目を閉じてリラックスした状態になると、規則正しい波形が現れ、α波が出てくることが確認できます。心電図の計測では、深呼吸すると、脈の間隔が広がり、副交感神経の活動も高まることがわかります。汗の計測では、一般的にはうそ発見器で利用されている技術ですが、何も考えない状態から、何かを考える状態になると、波形が大きく乱れることが確認できます。3つともうまく計測できたり、1つしかうまく計測できなかったりと様々でしたが、楽しんで頂きました。

参加したみなさんからは、「汗によって自分の中で何が起きているのか知ることができて楽しかった」といった御意見を数多く頂きました。



写真右:楯林義孝研究員

写真下:会場の様子

会場


平成31年2月15日(金曜日)

平成30年度 第8回都医学研都民講座「緑内障から目を守るために」

会場:一橋講堂

2月15日(金曜日)、当研究所では、一橋講堂において、「緑内障から目を守るために」と題して、第8回都医学研都民講座を開催しました。今回は、東京慈恵会医科大学眼科学講座主任教授の中野匡先生を講師にお迎えしました。

まず、中野先生から、「放っておくと怖い緑内障!早く見つけるためには?」と題してお話しいただきました。緑内障は、視神経が眼圧等により障害されることで、徐々に視野が狭くなる病気で、中途失明原因としては一番多いものです。この病気の特色としては、病状がかなり進行しない限り気付かず、自覚症状が乏しいことが挙げられます。視野障害は、10年以上かけてゆっくりと進み、末期に至るまでは視力は良く、視野の中心が欠けてきて初めて自覚することから、未発見潜在患者のうち、9割もの方が気づいていないといわれているそうです。このため、症状の初期のうちに緑内障を発見し、毎日点眼し、症状の進行を遅らせることが重要とのことでした

続いて、当研究所視覚病態プロジェクトの原田プロジェクトリーダーから、「最新の研究からわかったこと〜緑内障とうまくつきあうには?」と題してお話ししました。日本人では緑内障患者のうち、約7割が正常眼圧緑内障のため、そのモデル動物を開発したうえで、緑内障以外の病気に対して既に使われている薬やあるいは食品のなかに、緑内障に対しても効果を持つものがないか探しているとのことでした。さらに視神経再生に関する最近の研究成果が紹介され、患者さんには「希望を持って治療を継続して下さい」というメッセージが伝えられました。

当日は粉雪が舞い散るような寒さにも関わらず、参加者で会場がほぼ一杯となり、講演後のアンケートでは、「緑内障の研究が進んでいて勇気づけられた」といった御意見を多く頂きました。



写真右:上から中野匡先生、原田高幸研究員、会場の様子

写真下:控室にて(左:中野先生 右:原田研究員)

会場
Schizophrenia Research Leader Makoto Arai

平成31年2月8日(金曜日)

第19回都医学研国際シンポジウムを開催しました

会場:東京都医学総合研究所

2月8日(金)、当研究所は、講堂において、「Preventive medical research in areas of psychiatry, health, and social welfare: Beneficial life course intervention in critical and sensitive periods for glycation, oxidative stress, and nutritional epidemiology(精神医学、健康と社会福祉の領域の予防的な医学研究:糖化反応、酸化ストレスと栄養的な疫学のための重大で繊細な時期における有益なライフコースへの介入)」と題して、第19回都医学研国際シンポジウムを開催しました。国際シンポジウムは国内、国外の研究者を招聘し、医学に関連する各種研究分野の最先端の研究成果について発表し、討議することを目的とします。今回は、国内からの6人の研究者の他に、諸外国から8人の研究者をお招きしました。

今回、シンポジウムは二つの大きなテーマで進行し、まず、「健康・福祉と栄養に関する疫学」をテーマに、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのMarcus Richards先生と東京大学のSatoshi Sasaki先生からお話しいただきました。続いて、「テクノロジー、食品科学、病気」をテーマに、カタール生物医科学研究所のPaul J. Thornalley先生、東海大学のRyoji Nagai先生、 リール大学のFrédéric J. Tessier先生、サウス・カロライナ大学のNorma Frizzell先生、佐賀大学のAkira Monji先生、ウォーリック大学のNaila Rabbani先生、金沢大学のMoeko Shinohara先生、国立台湾大学のChih-Kang Chiang先生、東京大学のReiko Inagi先生、コロラド医科大学のRam H. Nagaraj先生、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクのMonika Pischetsrieder先生、金沢大学のYasuhiko Yamamoto先生からご講演をいただきました。

近年、終末糖化産物(AGEs)(※1)と酸化ストレス(OS)(※2)が、精神や身体の機能障害と密接に関係していることが明らかになってきています。AGEsとOSは、多様な構造を持ち、さらに、多くの生物学的プロセスにおいても極めて重要なものです。しかし、これらは、加齢や病状の進行を通じてダイナミックに構造が変化するため、それらを正確に特徴づけることは難しいものです。今回、生物学、遺伝学や栄養学といった様々な分野から先生方にお集まりいただき、AGEsとOSがどのように精神や身体に影響を与えるのかといった多くの最新成果を発表していただきました。

今後も当研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとし、最先端の情報収集を行い、研究成果の国際的な発信を目指して国際シンポジウムを開催していく予定です。


※1:タンパク質の糖化反応(メイラード反応)によって作られる生成物の総称で、身体の様々な老化に関与する物質である。

※2:酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用で、細胞が傷つけられてしまうものである。


写真右上:新井 誠 統合失調症プロジェクトリーダー(Organizer)

写真下:集合写真、会場の様子

集合写真
七田崇研究員
北園孝成先生
会場

平成31年1月17日(水曜日)

平成30年度第7回都医学研都民講座「脳卒中の世紀」

会場:一橋講堂

1月17日(木曜日)、当研究所では、一橋講堂において、「脳卒中の世紀」と題して、第7回都医学研都民講座を開催しました。今回は、九州大学大学院医学研究院院長の北園孝成先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所脳卒中ルネサンスプロジェクトの七田崇プロジェクトリーダーから、「燃えさかる!?脳卒中後の炎症の正体」と題してお話ししました。脳卒中は、ある日突然発症し、脳が傷つく病気で、脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れて出血する脳出血及びクモ膜下出血の3つに分けられます。脳卒中になると、身体が傷ついた時と同じように、脳の傷口が腫れ、炎症が起こります。脳が腫れてしまうと、脳卒中の症状や病気は悪くなってしまいますが、炎症は1週間程度で次第に治まり、傷口は治り始めるそうです。つまり、脳が損傷すると、白血球が傷口を感知し、脳内に侵入してひとしきり炎症を起こし、その後、炎症を起こす物質を排除して、修復の機能を持つ細胞に転換するとのことでした。

続いて、北園先生から、「脳卒中にならないための健康管理」と題してお話しいただきました。脳卒中になる要因として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈(心房細動)等が挙げられますが、あらかじめこれらの危険因子をきちんと治療することで、発症を抑えることが可能とのことでした。これ以外にも、例えば、塩分の摂取は1日に6グラム未満となるようにしたり、1日に1万歩は歩いたりするように心がけることも、脳卒中の予防にとって大切であるといったお話がありました。また、不幸にして脳卒中を発症してしまった場合には、一刻も早く病院に行くことが必要で、これにより麻痺等の後遺症の重さが左右されるとのことでした。

講演後のアンケートでは、「不整脈をチェックするために、毎日脈を計ることを習慣にしていきたいと思った。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から七田崇研究員、北園孝成先生、会場の様子。

写真下:控え室にて(左:七田研究員 右:北園先生)。

左:七田研究員 右:北園先生