会場:東京都医学総合研究所
12月17日(日曜日)、当研究所の講堂において、再生医療プロジェクトリーダーの宮岡佑一郎研究員を話題提供者として、「サイエンスカフェin上北沢『遺伝子とDNA-遺伝の実体にせまる-』」を開催しました。今回、40名の方に御参加頂き、和やかな雰囲気の中でDNAの抽出実験や細胞の顕微鏡観察を体験し、研究者と自由に語り合いました。
親子は顔や体つきなどが似ていることが多く、遺伝はとても身近なものです。これは、私たちの特徴を決める遺伝子が、世代を超えて受け継がれている証です。今回のサイエンスカフェでは、遺伝及び遺伝子とは何か、遺伝物質としてのDNAの発見、DNA二重らせん構造の特徴、DNA複製と遺伝暗号の仕組みと、再生医療プロジェクトの研究内容をお話ししました。その後、参加者自らがバナナからDNAを取り出す実験を体験するとともに、ヒト培養細胞の核のDNAを試薬によって染色し、参加者が実際に蛍光顕微鏡を使って観察しました。
参加者の8割以上が小学生でしたが、「DNAについて聞くことはあるものの、どのようなものなのかを知らなかったため、知ることができて良かった。」、「実験器具を使ったDNA抽出実験が楽しかった。」といった御意見を数多く頂きました。バナナからのDNA抽出に成功した際の、参加者の歓声や目の輝きが印象的な、充実した会となりました。
写真:上から宮岡研究員、会場の様子
会場:一橋講堂
12月14日(木)、当研究所では、一橋講堂において、「今日のスギ花粉症に対する最新治療と研究」と題して、第6回都医学研都民講座を開催しました。
今回は、日本医科大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器科学分野教授の大久保公裕先生及び大分大学医学部耳鼻咽喉科講師の児玉悟先生を講師にお迎えしました。
まず、大久保先生からは、「花粉症の最新治療」と題してお話しいただきました。花粉症の治療には、薬物療法、手術療法及びアレルゲン免疫療法があります。このうち、アレルゲン免疫療法だけが、治癒又は長期寛解を期待できる根治療法ですが、これは、アレルギーの原因になる抗原を少量から投与することで体を慣らし、抗原に対する体質を変えるものです。この療法の中で舌下免疫療法は新しい治療法であり、効果が期待されているとのことでした。
続いて、児玉先生からは、「外科手術療法による花粉症治療」と題してお話しいただきました。花粉症の治療において手術療法を選択するのは、重症例や鼻閉型で鼻腔の形態異常を伴う症例の場合です。手術を行う場合、鼻閉の改善と鼻漏の改善を目的としたものに分けられますが、実際には複数の手技を組み合わせて行われるとのことでした。
最後に、当研究所花粉症プロジェクトリーダーの廣井隆親研究員からは、「今日のスギ花粉症に対する最新治療と研究」と題してお話ししました。近年、保険医療として導入された舌下免疫療法は、根本療法として捉えられていますが、3年以上の長期治療にもかかわらず30~40%の患者さんには効果がありません。このため、舌下免疫療法の作用メカニズムを明らかにし、事前に治療の効き具合を予測する技術を研究していることをご紹介しました。
講演後のアンケートでは、講演中に流れた外科手術の映像に関して、「話だけではなく、映像を見ることでイメージができて良かった。」等の御意見を頂きました。
写真右:上から、大久保先生、児玉先生、廣井研究員
写真下:控え室にて
会場:一橋講堂
10月26日(木)、当研究所では、一橋講堂において、「認知症に向き合うために」と題して、第5回都医学研都民講座を開催しました。
今回は、大阪市立大学医学部臨床神経科学講座の特任教授で、新潟県にある田宮病院の顧問をされている、森啓先生を講師にお迎えしました。
森先生は、「認知症は、地位や職業に関係なく、どんな人でもなる可能性があり、また残念ながら特効薬が無い。」という現状をお話しされました。認知症の症状は徐々に進行し、介護する家族は様々な負担を強いられます。中核症状である認知機能の障害に加え、特に「BPSD(行動・心理症状)」と呼ばれる症状は、周囲の人との関わりのなかで起きてくるものです。これには、易怒性、暴言、脱抑制、不眠、妄想、徘徊、弄便、失禁などの様々な症状があり、家族や介護者にとっては本当に大きな負担となります。森先生は、「まず認知症の知識を正確に知ることが、患者本人にとっても、看病で困っている家族にとっても重要であること。」、そして、「発症してから人生終末を迎えるまで、10年前後の苦しい介護が続くが、逆にそれ以上の時間はないので、大切に過ごすようにしたい。」と話されました。「一番苦しい時が一番良い時かもしれない。」というお話もあり、森先生の家族を思いやる、優しい気持ちが伝わってくる素晴らしい御講演でした。
講演後の質疑応答では、「自分や家族が認知症かもしれないがどうしたらよいか。」、「薬はいつまで飲むべきか。」、「患者に対してどのように対応したらよいか。」などの質問がありましたが、一つ一つの質問に対して丁寧にお返事していただきました。
写真右:上から、森啓先生、質疑の様子、会場
写真下:控え室にて(森啓先生と当研究所 認知症プロジェクトリーダー長谷川研究員)
会場:東京都医学総合研究所
今年も夏のセミナーを開催しました。マウスを用いた、神経系への遺伝子導入技術の実習です。内容は、脳の初代神経培養法、子宮内エレクトロポレーション法、アデノ随伴ウイルス作製法に加え、今年から、脳(海馬)へのウイルス微量注入法の四つです。神経系に外来遺伝子を導入することで、神経系での遺伝子の機能や脳の働き方を明らかにすることができます。参加者は4名で、企業の創薬研究者、大学の痛みに関する研究者、大学助教(神経内科医)、薬学大学院生です。こちらは、岡戸、平井、田中、高沢、神嵜が対応しました。子宮内エレクトロポレーション法では、子宮内の胎児の扱いに習熟を要するため、初めてのことで大変かと思いましたが、皆さん熱心に取り組んでいただきました。各人の研究テーマに関して話し合う機会もあり、私にはとても楽しく有意義でした。こちらの不手際もありましたが、本セミナーが、参加者に将来少しでも役立つことを願っています。
(神経細胞分化プロジェクト プロジェクトリーダー 岡戸晴生)
写真:実習の様子
会場:東京都医学総合研究所
平成29年7月24日から27日までの4日間、恒例の夏のセミナー・神経病理ハンズオンを行いました。今年は病理2名、法医学2名、神経内科3名、精神神経科2名で、比較的若手の初学者の方が参加されました。内部講師は解析室の新井信隆副所長が務め、4日間を通して様々な症例の講義や、標本観察のレクチャーを行いました。初日は実習前に解析室スタッフの私と関絵里香技術研究員がそれぞれデジタルパソロジー総論と、各種染色法と正常像についての講義を行いました。2日目以降は外部から特別講師をお招きし、各専門分野の講義をお願いしています。2日目は埼玉医科大学病理学の石澤圭介先生にアルツハイマー病、タウオパチー、運動ニューロン疾患、前頭側頭葉変性症について、濃密なレクチャーをしていただきました。3日目は大分大学小児科の宮原弘明先生に脳の発生プロセスや、各段階での障害における表現形の形成異常病変について包括的なレクチャーと標本解説をしていただきました。最終日は毎年、防衛医科大学法医学講座の原田一樹先生に来ていただき、頭部外傷についてレクチャーをしていただいています。受講者は空き時間などに興味のある標本を熱心に観察し、講師にも積極的に質問していました。このセミナーの特徴でもあるバーチャルスライドを搭載したデジタル教材は、セミナー終了後も自宅のパソコンなどから閲覧出来るようになっていますので、セミナーの復習にお役立て頂ければ幸いです。
最後になりましたが、受講者の皆様、講師の皆様、また、マルチモニターの会場設営を全面的に担当していただいている植木さん、八木さんに感謝申し上げます。
(神経病理解析室 技術研究員 小島利香)
写真:セミナーの様子
会場:東京都医学総合研究所 他
今年のテーマは「すすめよう! 難病保健活動 ―難病を持つ人々が住み慣れた地域で暮らし続けられるために―」。
これまで我が国の難病施策は、「難病対策事業」として実施してきましたが、平成27年1月に「難病の患者に対する医療等に関する法律(通称「難病法」)が施行され、法のもとに難病施策が実施されることとなり、今年で3年目となりました。
法施行前の難病施策は、全国の都道府県あるいは保健所設置市(含む特別区)ごとにその取り組みに大きな相違がありました。法制化によって、これら取り組みの相違が少しでも解消され、難病をもつ人々の療養環境が改善することが期待されますが、そのためには「都道府県および保健所設置市(含む特別区)」に所属する保健師のみなさんの活動が大変重要となります。
プログラムは、国や都道府県における難病施策、各地域における難病保健活動に関する実践報告、難病保健活動に必要な知識や技術の習得に関する講義や演習で構成しています。毎年北海道から沖縄まで、全国の都道府県・保健所設置市(含む特別区)に所属する行政職保健師のみなさんがご参加くださいます。日頃の難病保健活動にかかる資料を持ち寄って、今後の活動の方向性について討議する場もあり、セミナー後のアンケートでは、プログラム全体について、高い評価を得ています。
「難病法」は「難病になっても、尊厳をもって、安心して住み慣れた地域で暮らし続けることができることをめざす」法律です。夏セミの1週間を終え、御参加のみなさまとわたしたちとであらたなネットワークを築きました。 難病をもつみなさんに安心して生活していただけるケアシステムの実現をめざして今後も活動していきましょう。
最後になりましたが、多くのみなさまにご指導、ご協力をいただき、セミナーを無事終えることができました。心より御礼申し上げます。
※受講生:51名 (6月12日公開プログラムの参加者:130名)
(難病ケア看護プロジェクト 主席研究員 小倉朗子)
写真右:上から、川村佐和子氏、小倉研究員
写真下:参加者によるグループ発表
会場:一橋講堂
9月21日(木)、当研究所では、一橋講堂において、「知っておけば大丈夫 インフルエンザの基礎知識と対応策」と題して、第4回都医学研都民講座を開催しました。
今回は有隣病院院長(前国立国際医療研究センター国際感染症センター センター長)の工藤宏一郎先生を講師にお迎えしました。工藤先生は、日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラムにおいて、プログラムオフィサー(PO)として活躍しています。
前半は、当研究所分子医療プロジェクトリーダーの芝崎太専門参事から、「どこまで知ってる?インフルエンザ」というテーマでお話ししました。最初に、基礎的な内容として、ウイルスの発見の歴史や特徴、例えば、細菌は自ら増殖することができるが、ウイルスは宿主に依存するといったことをお話ししました。加えて、インフルエンザの分類や、ウイルスが感染・増殖するメカニズム等についてもお話ししました。
後半は、工藤先生から、「ここまで知れば大丈夫!インフルエンザとパンデミック」というテーマでお話しいただきました。20世紀以降、4回パンデミックがありましたが、このうち、1918年のスペインかぜでは、世界で約4000万人、日本で約40万人が亡くなったのに対し、2009年の新型インフルエンザでは、世界で約20万人、日本で約200名と激減しました。この背景には、医学・医療の進歩に加え、時代的背景や患者受診行動等が関与していることが分かっています。ただし、新型インフルエンザは、季節性インフルエンザと異なり、いつどこで発生するか分からず、基礎免疫がなく、また、ワクチンもないことからパンデミックを引き起こしかねません。そのため、各個人が、新型インフルエンザが発生した場合に、パニックに陥らず、適正な情報収集を行い、接種可能になったらワクチンを接種することが必要です。また、急な発熱など、感染が疑われたら、迅速に医療機関へ行き、仕事や学校を休むといった他人にうつさない行動を取ることで、恐れられている高病原性インフルエンザにも十分に対処でき、想定死者数を大幅に減らすことが可能との内容でした。
アンケートでは、聴講者のみなさんから、「インフルエンザの歴史や新型インフルエンザと季節性インフルエンザの違いが理解でき、参考になった。」という御意見等をたくさん頂きました。
次回は、10月26日(木)に一橋講堂において、「認知症に向き合うために」と題して行います。
写真右:上から、工藤先生、芝崎専門参事、会場の様子
写真下:控え室にて
会場:東京都医学総合研究所 講堂
8月20日(日)、当研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢『記憶とシナプス 記憶の仕組みを科学する』」を、当研究所のシナプス可塑性プロジェクトの山形要人研究員を話題提供者として開催しました。今回、33名の方が集い、和やかな雰囲気の中でシナプスの観察等を体験し、研究者と自由に語り合いました。
テーマであるシナプスは脳にありますが、脳は多数の神経細胞(ニューロン)からできていて、神経細胞はシナプスを介して信号を伝えています。すなわち、シナプスは神経細胞間で信号の受け渡しを行う場所のことですが、繰り返しの刺激によってダイナミックに変化し、記憶形成に関わっています。この神経細胞やシナプスを蛍光タンパク質で光らせ、蛍光顕微鏡を使って、参加者が実際に観察しました。また、マウスを用いた記憶実験映像の視聴や実体顕微鏡を使った脳切片の観察も行いました。
参加者の約半数が小学生や中学生でしたが、内容がやや難しいにもかかわらず、参加したみなさんからは、「シナプスや神経細胞を観察できて良かった。」、「マウスの実験がとても興味深かった。」、といった御意見を数多く頂きました。
写真右:上から、山形研究員、会場の様子、研究員による演奏
写真下:実験や観察に取り組む参加者の様子
会場:東京都医学総合研究所 講堂
8月2日(水)、3日(木)の2日間、東京都教育庁の協力の下、当研究所において、「都立高校生のための都医学研フォーラム」 を開催しました。
このフォーラムは、医学・生物学研究に興味を持つ都立高校の生徒に、当研究所の研究成果を分かりやすく伝え、研究室等での実験や機器操作を実際に体験してもらうことによって研究への理解を深め、将来的には進路選択の一助となることを目的としています。今回は、都立高校17校から38名が参加しました。
午前は、当研究所学習記憶プロジェクトの上野耕平研究員から「記憶という謎への挑戦」というテーマで、最新の脳科学のテクニックを駆使した記憶研究の成果を中心に、現在の科学が記憶の仕組みをどこまで理解しているのかをお話ししました。また、講演の最後には、どのようにすれば記憶に残りやすいのかといった、高校生のみなさんにとって興味のある話題にも触れていただきました。次に、感染制御プロジェクトの安井文彦研究員から、「ウイルス感染症の制御を目指して」というテーマで、感染症研究の歴史から振り返り、かつて感染症は制圧できるとの認識があったものの、最近では新興感染症やバイオテロ対策として、感染症研究の必要性が高まっているとのお話をしました。また、インフルエンザ及び肝炎ウイルスに対する治療法の開発に向けた現在の研究の状況について紹介しました。
午後は、認知症プロジェクト研究室、哺乳類遺伝プロジェクト研究室、神経回路形成プロジェクト研究室及び神経病理解析室の4ヶ所の研究室をそれぞれ40分ずつ順番に見学して、脳神経疾患のデジタル画像や共焦点顕微鏡による観察等を体験してもらいました。
この後、講演をした研究者に対し、生徒からいくつもの興味や疑問に基づく質問が出され、大変活発な質疑応答が交わされました。
写真右:上から、上野研究員、安井研究員、講演会場
写真下:講演会の様子及び所内見学
会場:一橋講堂
7月27日(木)、一橋講堂において、「ものわすれ、脳とこころの楽屋裏」 と題して、第3回都医学研都民講座を開催しました。
今回は、東京大学名誉教授の大井 玄 先生を講師にお迎えしました。
前半は、当研究所脳病理形態研究室室長の内原 俊記 研究員から、「暮れなずむ脳の内景~顕微鏡でみる加齢とアルツハイマー病~」 というテーマでお話ししました。生前にアルツハイマー型認知症と診断された方の脳を亡くなった後に検査すると、生前の診断が正しかったケースは、60~70%程度であり、3分の1程度は正しく診断できていませんでした。これは世界的にも同じような割合となっています。なぜ、このような数値にとどまるのかというと、例えば、がんの場合は、病変を取り出して検査することで診断できますが、認知症の場合は、脳から取ってくることができず、症状から診断することしかできないためとのことです。このため、剖検を通じて、臨床診断精度の向上を図っているとのことでした。
後半は、大井先生から、「老耄(ろうもう)の意味を考える~自然の配慮という視点~」 というテーマでお話しいただきました。大井先生は、以前、松沢病院に勤務していた際、認知症高齢者はだんだん症状が重くなってくると、自分という感覚が鈍くなってくることに気付いたそうです。このため、自我意識が薄れてくることで、痛みも感じにくくなってくるのではないかと考え、松沢病院のがん患者について過去の記録を調べたそうです。この結果、認知症の人のがんが発見されるきっかけは、痛みにより自ら医療機関に受診したためではなく、突然の出血や検診が多いこと、また、入院しても痛みを訴えることは少ないこと、そして、薬の必要量も少ないことが分かったそうです。さらに、生物の一生の必然の過程は、加齢であり、これに伴い老化は進み、種々の精神・身体症状が現れるのは自然であり、認知能力が落ちるのは自然なことであるそうです。
今回の講演のテーマは認知症であり、また、多くの著書を上梓されている大井先生に御講演いただいたことから、多くの方からお申し込みいただきました。アンケートでは、聴講者のみなさんから、「認知症に対する見方が変わり、参考になった。」という御意見を多く頂きました。
次回は、9月21日(木)に一橋講堂において、「知っておけば大丈夫-インフルエンザの基礎知識と対応策」と題して行います。
写真右:上から、大井先生、内原研究員
写真下:控室での様子、講演会場
会場:一橋講堂
第2回都民講座は、6月15日(木)、一橋講堂において、「遺伝病の発症と症状を予測する」と題して開催しました。
今回は、国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部部長の松永 達雄 先生を講師にお迎えし、当研究所の哺乳類遺伝プロジェクトリーダーの吉川 欣亮 研究員とともに講演しました。
講演の前半は、松永先生より、「遺伝子検査で遺伝性難聴の発症を予測して備える」というテーマでお話いただきました。遺伝子検査では、生まれた子どもが難聴であった場合、その次の子どもも難聴となる可能性やその症状をある程度は予測でき、また、小児期や成人後の難聴でも、今後の症状や難聴以外の症状の発生可能性をある程度は予測でき、これらの症状が重くなるのを最小限に食い止めることができるとのことでした。
後半は、吉川研究員より、「モデル動物が遺伝病発症と病態を予測する」というテーマでお話いただきました。遺伝子に異常を持つ、あるいは、遺伝子を破壊した疾患モデル動物が、人間の病気の発症メカニズムや治療法の解明のため、重要な役割を担っており、また、このモデル動物の作製が、近年のゲノム編集技術により、短期間で可能となったとのことでした。
今回の講演のテーマは遺伝病ということで、あまりなじみのないテーマではありましたが、アンケートからは、聴講者のみなさんにとって初めて聞く内容が多く、参考になったというご意見を多くいただきました。
写真右:上から、松永先生、吉川研究員、講演会場
写真下:松永先生と一緒に
会場:東京都医学総合研究所 講堂
5月17日(水)、当研究所は、第16回都医学研国際シンポジウムを開催しました。担当は、当研究所学習記憶プロジェクトリーダーの齊藤実参事研究員です。齊藤研究員は、脳がどのようにして必要な情報を記憶して保持し、必要に応じて読み出すのかを、記憶を担う神経回路と分子経路の働きから明らかにする研究を行っています。
今回のシンポジウムは、神経機能を調整する神経修飾因子に関するもので、その作用メカニズムや生理機能について、国内外の第一線で活躍されている研究者が集まりました。
ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどのモノアミンやアセチルコリン、インスリンなどは、高次機能から運動機能までの様々な脳機能を調節していると考えられています。モノアミンなど修飾因子の持つ神経調節機能は、霊長類から線虫までの幅広い動物種において共通する部分が多く、進化の過程でも重要な神経伝達物質であることが容易に想像できます。一方で高等動物では複数のモノアミンが同時に働くことで高等動物特有の複雑な行動が生まれ、その破綻は重篤な病気を起こします。機能の多様性ゆえに完全に理解するにはほど遠いのが現実です。このため、修飾因子の放出機構や、受容体分子機能、シナプスの機能変化、回路の変化、そして行動の変化、さらに病態に至るまで、様々な研究者が一同に会するこのようなシンポジウムの開催は、重要な意味を持つものであるといえます。
当研究所では、研究者や医療従事者等を対象に、最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとした国際シンポジウムを今後も開催していく予定です。
写真右:上から、齊藤研究員、講演会場
写真下:参加研究者の皆さんと一緒に
会場:東京都医学総合研究所 講堂
第1回都民講座は、4月26日(水)、当研究所において、順天堂大学大学院 認知症診断・予防・治療学講座 先任准教授 本井ゆみ子 先生を講師にお迎えし、 「認知症-予防も備えもしましょう-」 と題して開催しました。
今回の講演では、前半は、認知症は加齢とともに発症の割合が増加し、85歳以上になると30%もの方が症状を呈すること、日本では2020年に患者が600万人にまで増加すると推計されていることの他に、認知症の前段階である軽度認知機能障害の段階では、進行を予防することで、回復が可能であることなどをお話いただきました。
後半は、認知症にならないための予防や備えとして、適度な運動、バランスのとれた食事、控えめな飲酒、禁煙、ストレスをためないことなどの生活習慣が大事であり、さらに興味と好奇心と生きがいを持ち続けることが大切であることなどをお話しいただき、聴講者のみなさんは熱心に聴き入っていました。
講演終了後、希望者を対象に、6グループに分かれ、研究室を見学していただき、 「普段見ることのできない研究室が見学できてよかった。」 等、とても満足していただきました。
写真右:上から、本井ゆみ子先生、長谷川研究員(認知症プロジェクトリーダー)、見学の様子
写真下:講演会場
会場:日本科学未来館
4月22日(土)、23日(日)の2日間、「脳のはたらきと遺伝子DNA」 と題し、日本科学未来館において、実験教室等を行いました。この行事は、「Tokyo ふしぎ祭 (サイ) エンス」 をキャッチフレーズに、首都大学東京、各研究・教育機関等が一堂に会して研究・技術についてわかりやすく紹介するものです。
当研究所からは、「見てみよう」、「調べてみよう」、「作ってみよう」 という3つのテーマで、来場者に直接実験等に参加していただく 「体験展示」 を実施しました。
「チャレンジ!DNAを取り出してみよう」 では、バナナからDNAを取り出す実験を行いました。参加者は研究員の説明に真剣に耳を傾け、途中、研究員の手助けも受けながら、実験用ゴム手袋を付けた慣れない手つきで実験をやり遂げました。結果、DNAが取り出せると、白衣に身を包んだ小学生等からは満面の笑みがこぼれ、驚きの声が響きました。
「脳って何? 何しているの?」 では、各参加者がモニター上に現れたマークの動きに従って、腕を動かすことで脳のはたらきを体験するものです。このマークの動きは一様ではなく、動きが早くなったりするのに合わせて、腕を素早く動かす必要があります。これにより、どの程度、素早く反応できるのかを見るもので、この反応の程度が得点化されるため、みなさん集中して取り組んでいました。
「遺伝子ってなぁに?」 では、DNAが体の設計図であることや、人体にある60兆個の細胞の一つひとつに、約2mのDNAが入っていること等を学んだ後、DNAの形を模したビーズストラップ作りに挑戦しました。集中して親子で協力し、熱心に作業している姿が印象的でした。
担当した研究者にとって、普段は接することの少ない都民の皆様に研究内容を披露する貴重な機会となり、当研究所にとって有意義なイベントとなりました。
写真右:上2枚:DNAを取り出してみよう、真剣に実験に取り組む子供たち、 下2枚:脳のはたらきを体験する可愛い参加者の様子
写真下:遺伝子ってなぁに?、 ビーズストラップ作り
会場:東京都医学総合研究所 講堂
3月5日(日)、(公財)東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 目の病気になったらどうなる?どう見える?」を開催しました。今回のサイエンスカフェは、32名の方が集い和やかな雰囲気の中で科学のトピックを体験し、研究者と自由に語り合いました。
本年度3回目のサイエンスカフェは、「目の病気になったらどうなる?どう見える?」がテーマです。ドライアイは涙の量が不足したり、涙の質のバランスが崩れ、涙が均等に行き渡らなくなり目の表面に傷が生じる病気です。目が疲れやすい、目が乾く、かすんで見えるなどの症状を伴います。実際に当研究所スタッフにドライアイの検査を行い、聴講者にその様子を見ていただきました。エアコンの風量が強すぎたり、パソコンやゲームのやりすぎがドライアイをもたらすリスクを増やすとのことでした。
アレルギー性結膜炎については、アレルギーの定義や、原因物質などの説明後に、簡易キットを使ってアレルギー検査を行いました。
次に、加齢による目の病気として、白内障と緑内障のご説明が披露されました。白内障は、水晶体が混濁し、透明性が失われる病気です。初期の症状としては、かすんで見える、二重、三重に見えることなどがあります。点眼薬は進行を遅らせるためのもので、根本的な治療法は手術となります。聴講者には「白内障メガネ」をかけてもらい、白内障を疑似体験してもらいました。次に、緑内障についてですが、緑内障は日本における失明原因のトップで、4分の1を占めています。眼圧上昇により視神経が障害され、見える視野が欠けてきますが、少しずつ進行するので自覚が難しい疾病です。聴講者には緑内障の見え方も体験してもらいましたが、この視野の障害は治らないので、早期発見・早期治療が非常に重要とのことでした。また、日本では実に緑内障患者の約7割が正常な眼圧で緑内障を発症しており、この治療研究が急務となっています。当研究所では、世界で初めて正常眼圧緑内障モデル動物の開発に成功し、更にその動物を使って視神経再生にも成功し、治療研究を推進しているとの講演でした。
終了後も熱心な聴講者から質問が絶えず、充実した講演会となりました。
写真右:上から原田高幸研究員、眼球の説明をするスタッフ、視覚障害者の誘導法等
写真下:講演の様子
会場:都庁大会議場
2月16日、公益財団法人東京都医学総合研究所は都庁大会議場において、国立精神・神経医療研究センター部長 三島和夫 先生を講師にお迎えし、当研究所の本多 真 研究員とともに 「現代社会と睡眠障害~よい眠りをとるために~」 と題し講座を開催しました。
初めに、三島先生が 「ナゼ眠るのか、ナゼ眠らなくてはならないのか―睡眠と健康の深~い関係―」 と題し講演を行いました。睡眠障害は事故や生産性低下をもたらし、その社会経済的損失は年間3兆5千億円と推計されています。社会が24時間化する中で個人レベルでの問題としても睡眠障害が顕著になり、睡眠不足による健康影響、また、夜間勤務などの交代勤務は長期的に発がんリスクを高める可能性が示唆されました。社会的なジェットラグ(時差ぼけ)とは、体内時計と社会生活で求められる時計がずれて(同調せず)、不安定な睡眠・覚醒リズムを恒常的に繰り返す状態を言いますが、中長期的に持続した場合、生活習慣病や気分障害のリスクを上げる可能性があることも示されました。
次に、「居眠りするにはわけがある」 と題し、本多研究員が講演を行いました。眠気の基本法則として、眠りと目覚めが様々な体内情報によって調節されていること、光・体温・食事・ホルモンのバランスをとることがよい眠りにつながること、そして眠りと眠気を改善するためには昼寝の効用も紹介されました。眠気の原因は、夜間睡眠の量的不足、夜間睡眠の質の悪さ、睡眠覚醒中枢の機能異常が考えられます。病的に眠気をきたす例としては睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー特発性過眠症が紹介されました。不適切な時間に居眠りを反復する、睡眠時間が極端に長いなど、病的眠気を疑ったら専門の病院で相談すること、周囲も相談を促すように協力が呼びかけられました。
講演終了後も受講者からの熱心な質問が続き、充実した講演会となりました。
来年度も、東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行います。詳細はホームページをご参照下さい。
写真右:上から三島先生、本多研究員、都庁大会議場の様子
写真下:講演前のひと時
会場:一橋講堂
1月31日、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、横浜市立大学附属病院の青山久美 先生を講師にお迎えし、当研究所の池田和隆 研究員とともに、「身近な依存のリスクに気を付けて!」 と題し、講座を開催しました。
今回の講演では、最初に 「退職後にアルコールにはまらないように」 と題し、池田研究員から講演を行いました。お酒の功罪として、心筋梗塞など虚血性疾患の低下に寄与することもあるが、うつ病、認知機能障害など精神・神経の病気を引き起こす原因にもなりうる。依存症になると、その3割がうつ病を併発し、うつ病性障害とアルコール使用障害が重なると自殺リスクが上昇するとのことです。アルコール依存の治療法には心理療法・精神療法と薬物療法があり、専門医療機関もありますのでご相談くださいとのご講演でした。
次に、「『やめなさい』でいいのか?変化するゲーム・ネットとはまる子ども達」 と題し、青山先生からご講演がありました。ゲームがやめられない中学生の実例を挙げて、近年青少年のインターネット利用率が大幅に上がり、それに伴い犯罪の温床、睡眠不足などの問題も出てきているとのことです。インターネット端末が発するブルーライトは体にも脳にも悪影響を及ぼし、睡眠障害を引き起こすことが懸念されています。新たな依存症として 「ネット・ゲーム依存」 が提唱され、病的な使用者が全国推計で50万人以上いるとのことです。予防するには、端末を渡す際に事前の話し合いと使用制限をかけることが重要です。依存症になってしまったら、やめさせるというよりも、まず共感し、本人の危機意識を持たせ、変わろうとする自発性を引き出すことが大切です。あくまでも本人が主体とならないと何も始まらず、周りは応援団。本人が自ら率先して止めることが重要であるとの話が披露され、聴講者は熱心に聞き入っていました。
講演終了後も熱心な受講者からの質問が絶えず、大変充実した講演会となりました。
写真右:上から池田和隆研究員、青山久美先生、講演場内
写真下:控え室にて