開催報告などを掲載しています。
会場:一橋講堂
12月16日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「脂の質がもたらすヘルスサイエンス」と題し、京都大学大学院医学研究科皮膚生命科学講座教授の椛島健治教授を講師にお迎えして、第6回都医学研都民講座を開催しました。
今回の講演では、当研究所の村上誠研究員から、最初に「脂質がどういうものか」について説明がありました。脂質は核酸、タンパク質、糖質と並ぶ生体構成成分であり、水に溶けにくく、有機溶媒(油)に溶ける生物由来の分子です。次に、メタボリックシンドロームの発症メカニズムに関する説明がありました。本来脂肪を蓄える場所ではない臓器に脂肪が蓄積されるとインスリンが効かなくなるとのことでした。インスリンは代謝の維持に必須のホルモンで、正常に働くことができなくなるとメタボリックシンドロームになります。近年、日本人は魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸よりも肉などに多いオメガ6脂肪酸を摂る機会が増し、メタボリックシンドロームや糖尿病、動脈硬化症の人が増えたということでした。
続いて、椛島教授から皮膚の役割についてお話がありました。皮膚は重要な免疫臓器であり、時には「かぶれ」や「アトピー性皮膚炎」としてアレルギー反応が表出します。研究の結果、「かぶれ」は真皮の血管周囲で免疫反応が誘導されていることがわかったとのお話でした。それから「アトピー性皮膚炎」などについてのご説明があり、なぜ喘息や鼻炎等の他のアレルギー疾患と関連するのか、なぜ痒いのか、そこで脂質はどのような働きをしているのかなどについて臨床医の視点から分かり易くお話しいただき、聴講者も熱心に耳を傾けていました。
今年度東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行い、今後2回開催予定です。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。
写真:上から、村上研究員、椛島教授
会場:東京都医学総合研究所
12月20日(日)、公益財団法人東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 血糖調節の仕組みとその異常」が開催されました。サイエンスカフェは、お茶や音楽とともに気楽な雰囲気の中で、身近なサイエンスについて研究者と自由に語り合う場です。
20回目のサイエンスカフェとなる今回は、血糖値について、当研究所の糖尿病性神経障害プロジェクトの三五さんご一憲研究員が話題提供をしました。まず血糖値とその変動パターン、75g経口ブドウ糖負荷試験などの説明後に、「血糖調節の仕組み」の解説がありました。食事により血糖値が上昇すると、膵臓のランゲルハンス島B細胞からインスリンが分泌され、血糖値を食前のレベルまで下げます。逆に血糖値が低下すると、ランゲルハンス島A細胞からグルカゴンが分泌され、血糖値を上昇させます。また血糖値の変化に伴い脳の視床下部が刺激され、上昇の際は副交感神経を介してインスリン分泌が促進されること、低下の際は交感神経を介してグルカゴンやアドレナリンの分泌が促進されることなどのお話がありました。それからインスリンの作用メカニズムや栄養素の血糖値への影響などを分かり易くご説明いただきました。
特にインスリン注射をしている糖尿病患者さんのケースで、「焼き肉はカロリーが高いから血糖は上がると思っていたが、実際には肉には糖質はほとんど含まれず、ご飯などの糖質を同時にとりながら食事をしないと血糖上昇が遅く、インスリンが早く効いて低血糖となる」というご説明には参加者が感心して聴き入っていました。 次に、世界の糖尿病の現状や我が国の糖尿病の現況、糖尿病の病型や「痩せた人が糖尿病にならないのは誤解」とのお話、糖尿病診断のための検査や糖尿病の臨床診断、糖尿病による合併症などについて、医師の視点から詳しいご説明がありました。
その後の体験実験では、参加者に手袋を着用して実験器具(ピペットマン※)を使ってもらい、7種類の試料を20~30分加熱処理して、メイラード反応(ブドウ糖とアミノ酸が作用して茶色く色づき様々な香り成分を生む反応)による溶液の色や香りを確認しました。メイラード反応は食品の調理や加工には有用ですが、糖尿病患者さんの体内で進行すると合併症の原因となります。
試料を加熱し、待っている間はミニコンサートが開かれ、ピアノ、バイオリンの美しい音色で参加者が癒されていました。別のコーナーではホットケーキ作成の実演(砂糖や卵を入れないとメイラード反応が進まず、白いホットケーキができる)、ポスターを使った研究概要の説明などを行い、参加者は熱心に見学していました。
他にも、研究員による血糖値測定のデモンストレーションを行い、血糖値の変化を参加者に見ていただいたり、アキレス腱の反射検査を行ったりと参加者が楽しめるイベントが盛り沢山でした。 工夫をこらした内容に、参加者からは「研究員の説明が分かり易く内容もとても面白かったです。」「研究者の方々の雰囲気が良かった。」「実験でピペットマンを実際に使わせてもらって嬉しかった。」「(ミニコンサートでの)音楽演奏が素晴らしかった。」といった声が多数寄せられました。
都民の皆さんの研究所として、今後ともこうした催し物を実施していきます。
※ピペットマン:上部のダイヤルを調節して、必要とする容量の液体を正確に測り取り、他の容器に移動させるための器具。
写真:上から、三五研究員、実験器具(ピペットマン)を説明、メイラード反応実験、ミニコンサート
会場:学校法人桜蔭学園
11月25日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は、学校法人桜蔭学園において「のぞいてみよう脳神経科学」と題し、「世界脳週間2015講演会」を開催しました。
「世界脳週間」とは、脳科学の科学的な意義と社会にとっての重要性を一般の方々に理解いただくことを目的として世界的な規模で行われるキャンペーンです。日本でもこの「世界脳週間」の意義に賛同し、「脳の世紀実行委員会(現・特定非営利活動法人 脳の世紀推進会議)」が主体となり、高校生を主な対象として講演会等の事業が行われています。当研究所も、世界脳週間参加事業に参画し、当研究所の研究員を講師とした講演会を開催しました。
今回の講演会では、最初に、長野慎太郎研究員が「昆虫からわかる記憶の仕組み」と題し、「学習記憶のメカニズムを知って記憶力を上げる」というテーマでお話がありました。まず学習記憶研究には昆虫を含む様々な動物が使われていること、記憶を保持し続けるためには遺伝子発現が必要であることなどの説明がありました。中でも、ハエと人の脳の形は全然違うが、脳を作る神経細胞の形や機能、発現している遺伝子はほとんど同じであるという説明には、高校生たちの意外そうな表情が伺えました。この他にも、記憶の保持を良くするためには、繰り返し学習し、よく睡眠をとることが重要である、といった話が披露されました。
佐久間啓研究員は「赤ちゃんの発達を科学する」と題し、講演を行いました。最初に、小児科医の仕事、乳児健診などについてお話がありました。発達には、乳児健診が重要であり、赤ちゃんの発達は驚くほど定型的で、みな同じ時期に同じ順序で発達していくとのことでした。次に、赤ちゃんの運動発達についてお話がありました。運動発達は体の上から下へ向かって進んでいくこと(首の筋トーヌス※1がしっかりすると首が座り、背骨の周りの筋トーヌスが現れると背筋が伸びて座れるようになり、足にまで筋トーヌスが現れると立てるようになる。)、つまり筋トーヌスが上から下へ出現することで、赤ちゃんの姿勢・運動が発達するとのことでした。また、赤ちゃんが発達する時の脳の中での変化についてご説明がありました。一般的に脳内の髄ずい鞘化しょうか※2は脊髄や脳幹から始まり、次第に周囲に広がっていき、この進み方が上から下へという脳の発達の順序に関係しているとのお話でした。
最後に反射のお話がありました。赤ちゃんの唇に指で触れると吸い付こうとするなどの原始反射の説明のほか、Moro反射※3、姿勢に関する反射のことなどのお話がありました。反射はとっさの時に自分の身体を守るためのもので、速さを必要とするため主に下位の中枢が関係している一方で、原始反射は上位の中枢が成熟する事で消失していくとのことでした。
高校生たちは、興味深く耳を傾け、最初から最後までメモをとり、講演終了後も質問が絶えず熱心な講演会となりました。
※1 筋トーヌス:筋の伸張に対する受動的抵抗、または筋に備わっている張力。
※2 髄ずい鞘化しょうか:神経細胞の軸索を包む円筒状の層が形成されること。髄鞘化が進むことによって軸索に流れる電気信号をより速く伝達することができる。
※3 Moro反射:赤ちゃん特有の原始反射のひとつで、顔を正面にして寝かせてから頭をささえて少し引き起こし、急に頭部を支えていた手を緩めてみると、赤ちゃんが手を前に突っ張る仕草をすること。
写真:上から長野 慎太郎 研究員、佐久間 啓 研究員会場:一橋講堂
11月12日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「第5回都医学研シンポジウム てんかん研究の最前線 原因遺伝子から最新治療まで」を開催しました。日本各地の研究者や医療技術関係者に加え、当研究所からも新井信隆副所長をはじめ、多くの研究者が参加しました。
主催者代表として新井副所長の挨拶の後、当研究所脳発達・神経再生研究分野 林雅晴分野長の「小児の難治てんかん 臨床と研究」から演題発表が始まりました。治療法の進歩により小児てんかんの予後※1は改善しましたが、いまだに難治てんかんの予後は不良であること、剖検脳※2や患者さんの生体試料を用いて、ナトリウムチャネル表出、GABA(ガンマ・アミノ酪酸)作動性神経、モノアミン・アセチルコリン神経異常、酸化ストレス、オートファジーに関する研究を試み、治療法開発に役立つ知見を得てきたとの話がありました。
横浜市立大学医学部の才津浩智准教授は、網羅的遺伝子異常検出系を駆使して、てんかん性脳症の原因遺伝子を多数報告してきた世界の第一人者であり、大変分かり易くその方法を説明して頂きました。全国から検体を集め、次世代シークエンサーを用いてすべてのエクソン(たんぱく質をコードしている遺伝子部分)を解析し、異常を検出する様子はまさに圧巻の一言でした。 当研究所の山形要人研究員からは、結節性硬化症という難病では神経細胞のシナプスに異常があり、そのメカニズムを明らかにしたという発表がありました。新しいメカニズムに基づいて、既存の幾つかの薬が記憶障害やてんかんに有効であること、これらの薬が他の難治性てんかんや知的障害にも効く可能性があることなどが示されました。
新宿神経クリニック 渡辺雅子院長からは「高齢発症のてんかん」についてのお話しがありました。高齢者のてんかんは記憶の障害を呈することが多いため、認知症と診断され、治療が遅れるケースがあること、正しく診断されれば少量の抗てんかん薬で治療が可能なこと、などが発表されました。高齢者のてんかんも増加していると言われていますので、認知症との鑑別が重要であることを痛感させられました。
NTT東日本関東病院脳神経外科の川合謙介部長からは、てんかん外科治療は限局性病変に最も有効であること、最近は発作が消失しないケースも増えており、そのような症例に対して頭蓋内電極の改良・画像診断の向上・術式の改良が行われていること、さらに外科適応にならない症例に対しては迷走神経刺激療法などが始まっていること、などが発表されました。新しい治療法の開発が期待されます。
講演者はそれぞれの分野の第一人者であり、講演後は時間ぎりぎりまで質疑応答が続くなど、大変充実したシンポジウムとなりました。
公益財団法人東京都医学総合研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとしたシンポジウムを今後も毎年開催していく予定です。
※1 予後:病気や手術の後、どの程度回復するかの医学的見通し。
※2 剖検脳:死因、病変などを追及するために解剖、検査するための病死した患者の脳。
写真:上から林 雅晴 研究員、才津 浩智 准教授、山形 要人 研究員、渡辺 雅子 院長、川合 謙介 部長
会場:一橋講堂
11月6日、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、東京医科歯科大学眼科学分野 大野京子 教授、東京慈恵会医科大学眼科学教室 野呂隆彦 助教を講師にお迎えし、講座を開催しました。
今回の講演では、最初に都医学研の原田高幸 参事研究員が、「目を老化から守るために」の講演主旨を説明しました。我が国における視覚障害者は160万人を超えており、高齢化社会の進行によってさらにその人数が増えること、視覚障害による社会損失額は8兆円以上にのぼることが紹介されました。特に緑内障は、先進諸国の失明原因の1~3位に位置づけられ、日本では40歳以上の罹患率が5.6%になっているとのことです。
次に、「いつまでも良く見えるために」と題し、大野教授から、加齢に伴う目の病気のお話をしていただきました。まず外界の情報の80%は見ることにより得ており、見えなくなった場合には社会的、心理的に大きなダメージとなるとのお話がありました。視覚障害は年齢とともに増加し、中高年者の失明原因のうち視力0.1以上0.5未満のロービジョン※1の原因は、白内障の割合が高いとのことでした。白内障は加齢や薬物、先天性などにより水晶体が混濁する病気で、白髪と同じように加齢に伴い多かれ少なかれほとんどの人に生じます。白内障の手術は、視力低下や自覚症状を説明できる程度で網膜や視神経など他の組織に病気がない場合に行えるとのお話がありました。さらに近年患者数が増加している黄斑変性症や日本人に多い強度近視の原因や最新の治療についてお話がありました。
続いて、「緑内障から目を守るには?」と題し、野呂助教から眼科に掛かる際の準備、緑内障と言われたらどうするか、不治の病に打ち勝つためにどのような研究が行われているかのお話がありました。まず、受診の際は初めてだと時間がかかり、散瞳検査※2後は帰りの運転が困難なことから、車で病院へは行くべきでないことや、目は全身状態と密接に関与するため検診や人間ドッグの結果を持っていくと良いとのお話がありました。また、緑内障発作を起こす可能性のある薬として、睡眠薬や抗うつ剤、麻酔薬、鼻づまり治療薬、総合感冒薬※3などがあるとのことです。
次に、緑内障と言われたら早期なのか中等度なのか重度なのかを確認することが重要であるとのお話がありました。進行判定には複数回の判定が必要であり、治療は根気よく行うことが大切であるとのお話がありました。目薬の使用目安は1か月に1本で、目薬は1度に1滴で十分とのことで、目薬が苦手な方にも様々な点眼補助器具があるとのことでした。
また、野呂助教は都医学研の協力研究員として研究に参画していることから、不治の病に打ち勝つために、都医学研では網膜の神経保護や視神経再生治療の研究を行っている事や、納豆やヨーグルトなどの食品にも含まれるポリアミンが神経再生を促進することなどのお話がありました。
講演終了後のアンケートでも「専門的な内容だったが分かり易かった。」「加齢に伴う目の病気について基礎的な話を聞くことができた。」「検診の大切さがよくわかった。」といった声が寄せられるなど、充実した講演会となりました。
※1 ロービジョン:視機能が弱く、矯正もできない状態。
※2 散瞳検査:強制的に瞳を広げる目薬をつけ、眼の奥の状態を詳しく調べる検査。
※3 総合感冒薬:頭痛、発熱、咳、くしゃみなどいわゆる風邪の諸症状の緩和に効果を出すように複数の成分を配合した医薬品。
写真:上から大野 京子 教授、野呂 隆彦 助教、原田 高幸 分野長
会場:一橋講堂
9月3日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「iPS細胞等を用いた再生医療の最前線」と題し、第4回都医学研都民講座を開催しました。外部講師には、慶應義塾大学医学部長の岡野栄之先生をお迎えしました。
今回の講演ではまず、当研究所の原孝彦研究員から「iPS細胞を用いた血液再生医療」というテーマで、都医学研の取組について概説しました。人間の体を流れている血液細胞、造血システムの成り立ち、造血幹細胞発見までの歴史、造血幹細胞の培養といった背景説明に続いて、造血幹細胞は通常骨髄内腔のニッチと呼ばれる場で分裂静止状態を維持しており、貧血や感染症等によってそれらがニッチから離脱すると増殖分化を開始することが説明されました。その後、胎児期に造血幹細胞が誕生する時期と場所、そしてヒトiPS細胞から造血幹細胞を作り出す研究の進捗状況についての紹介がありました。ヒトiPS細胞から造血幹細胞を作れるようになれば、骨髄バンクや臍さい帯血バンクの代替として造血幹細胞移植治療に役立つだけでなく、血液難病に対する治療薬の開発にも有用と期待されています。
次に、「世界一やさしいiPS細胞の授業」と題して、岡野先生からお話がありました。まず、慶應義塾大学医学部の建学の精神、超高齢化社会と重症難病疾患への挑戦についてなどの説明がありました。次に、傷ついた脳は甦るのかというお話しの中で、過去に実施されたパーキンソン病患者への胎児脳細胞移植治療の実例が紹介されました。この方法は、ヒト胎児組織の供給量、移植細胞の標準化、純度などの問題によって中止となり、その後ES細胞に目が向けられました。しかし、ES細胞は移植後の拒絶反応問題があるため、iPS細胞からドーパミン産生細胞を作り出すことが研究目標になった、とのお話がありました。最後に、我が国におけるiPS細胞を用いた再生医療研究の進捗状況と、次の重点課題が認知症対策と先制医療※であるという、お話がありました。アルツハイマー病患者から樹立したiPS細胞を使えば病態を試験管内で再現できること、そしてこの方法によって発症年齢よりずっと前の時点での診断と治療が可能となる、という最新の研究成果が紹介されました。会場の受講者全体が将来への期待に胸を膨らませた1時間半でした。
今年度、東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行い、今後4回実施予定です。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。
会場:東京都医学総合研究所
8月5日(水)と8月20日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所において「都立高校生のための都医学研フォーラム」を開催しました。
「都立高校生のための都医学研フォーラム」は、医科学・生物学研究に興味を持つ都立高校の生徒たちに、当研究所の研究成果を分かりやすく伝え、研究室や中央の機器室等で簡単な実験や機器操作を実際に体験してもらうことにより、将来の進路選択の一助となるよう、昨年度から東京都教育庁と協力して開催しています。
午前中に、ゲノム動態プロジェクトリーダー 正井久雄 副所長から「ゲノムの増えるしくみとその起源・進化」というテーマで、DNAとゲノム、染色体、細胞周期などについて、認知症プロジェクト 野中隆 副参事研究員からは、「認知症を科学する:その原因解明と治療を目指して」というテーマで、認知症の主な症状や記憶の種類、認知症のモデルの作製と治療への応用などについて、講演が行われました。
午後は、前頭葉機能プロジェクト研究室において、前頭葉機能で起こる錯視・錯覚を利用した図形の観察や模型を使った実験、染色された神経回路を形成する細胞の顕微鏡観察をしました。また、神経病理解析室では、脳病理標本作成及びデータベース化技術の紹介とデータベースコンテンツの閲覧をしました。電子顕微鏡室では、電子顕微鏡を操作して小腸粘膜や大脳の神経細胞の画像を見て10億分の1のナノの世界を観察し、その後、高い技術を要する微細な試料作成のデモンストレーションを見学し、依存性薬物プロジェクト研究室では、遺伝子解析を行うための装置及び解析用チップの観察、ピペットの操作体験を行うなど、簡単な実験や機器操作を実際に体験しました。
その後、講演をした研究者、見学をした研究室、中央機器室のリーダーを交えた意見交換会が行われました。大変活発な質疑応答が交わされ、終了後も残って研究員に質問をしている生徒の姿も見受けられました。
参加した生徒からは、「生命科学や医学について理解を深めて、知らなかったこともわかるようになりました。」「最先端の医療や技術を体験できました。難しい内容が分かり易く説明され、理解できました。」「脳の標本や研究室など、普段は見られないものを見られました。」「プリズムなどを使った実験では自ら錯覚を体験することができました。」といった声が寄せられました。
当研究所では、来年度以降も東京都教育庁と協力して「都立高校生のための都医学研フォーラム」を実施していく予定です。
会場:東京都医学総合研究所 講堂
8月2日(日)、公益財団法人東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 あなたの油(脂)は大丈夫ですか?」が開催されました。サイエンスカフェは、お茶や音楽とともに気楽な雰囲気の中で、身近なサイエンスについて研究者と自由に語り合う場です。
19回目のサイエンスカフェとなる今回は、私たちの周りに日常的にある油(脂)について、当研究所の村上研究員が話題提供をしました。まず前半では、「脂質ってなに?」というテーマで、脂質がどのようなものかイラスト、写真などを交えて解説がありました。自分たちに身近な中性脂肪や食用油における脂肪酸、コレステロールの体内での流れなどの説明を、参加者は熱心に聴講されていました。
後半の体験では、どの油が変敗※しやすいか実際に実験していただきました。まず、班の代表者が手袋と白衣を着て、試料A、B、C、Dが入った試験管に油脂変性試薬を加え、混ぜます。その後、スタッフが試験管を沸騰したお湯で30分加熱し、取り出して冷まし反応を停止させます。
試料を加熱し、待っている間はミニコンサートが開かれ、ピアノ、バイオリン、チェロの美しい音色で参加者が癒されていました。
次に、試験紙全面に油が付くように浸し、取り出して3分間置き、試験紙の発色を待ちます。その発色した色により試料A、B、C、Dがどの油に相当するかをクイズ形式で回答してもらい、会場全体で盛り上がりました。
他にも、普段、研究所でどのような研究を行っているのか参加者が理解できるように、パネル展示を行い、研究員から分かり易く内容を説明し、多くの参加者が熱心に聞き入っていました。また、肌の水分の蒸発量を測定できる機器展示の前には行列ができていました。工夫をこらした内容に、参加者からは「研究員の方が分かり易く資料を作られ、実験も丁寧に進めてくれたり、補助してくれたり、楽しい時間を過ごすことができました。」「実験して班の皆さんで話し合ったのが楽しかった。」「とても面白い企画で、内容が工夫されていました。」「音楽がとても和やかな雰囲気作りに役立っていました。」といった声が多数寄せられました。
※変敗:食品の味や色が変わってしまって食用には適さなくなること。
会場:一橋講堂
7月15日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「歩行の科学からみた認知症とパーキンソン病~高齢者の脳の健康と転倒予防のために~」と題し、第3回都医学研都民講座を開催しました。会場いっぱいの聴衆を前に、東京医科大学医学教育分野学部 教授 三苫 博先生、順天堂大学医学部附属静岡病院 脳神経内科教授 大熊泰之先生を迎えて行われました。
今回の講演では、三苫教授からは認知症と歩行に関して講演が行われました。歩行運動の指令が脳によって形成され、脳が歩行を調節している仕組みや歩きにくくなってきた場合、脳に障害が潜んでいることの説明がありました。次に、認知症ではどのような歩行の変化が起きるのか解説があり、まず歩行能力が低下しバランスを崩しやすくなる。その後、力が低下し足関節の動きが小さくなり、つまづきやすくなる。いずれも転倒の恐れが大きくなる変化です。認知症の症状の初期においては、この歩行能力の低下を受け入れて、ゆっくり静かに注意深く歩くのですが、症状が進行すると歩行能力の低下を受け入れられなくなって健康時と同じように早く勢いよく歩くようになります。このことが転倒事故を起こしやすくする原因とのことでした。認知症の方の、このような変化を理解して、事故が起きないように見守ることが大切であり、私たちも加齢と向き合い、歩行機能を維持するための工夫をしていきましょうとのお話しでした。
次に、大熊教授からパーキンソン病と歩行について講演が行われました。パーキンソン病は人口10万人につき約150人で、高齢者では100人に1人、日本全体には約15~20万人と推測されます。また、パーキンソン病の四大症状である安静時振戦(手足が震える)、固縮(手足の筋肉がこわばる)、無動・寡動(動作がスローになる)、姿勢反射障害(バランスが悪くなる)について動画でわかりやすいご説明をされました。モハメドアリ、岡本太郎など有名人の中にもパーキンソン病の方が多くいることなどのお話しがありました。次に、歩行障害についてパーキンソン病の姿勢・歩行、すくみ足などの様子を動画で分かりやすくご説明されました。現在は良い薬も開発されているため、薬が効いている時は普通に歩けるが、薬が切れると歩行が困難になる様子についても紹介されました。
最後に、パーキンソン病の患者さんがなぜ転びやすいのか、また、転倒を予防するために目印を床につけるなど、住環境における大切なポイントなどのお話しがありました。
講演終了後の質疑応答では、疾病に関する熱心な質問があるなど時間一杯まで途切れることがなく、とても充実した講演会となりました。
今年度東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行い、今後5回の開催を予定しています。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。
会場:一橋講堂
6月4日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「マウスと日本人」と題し、当研究所 米川博通研究員を講師として、第2回都医学研都民講座を開催しました。
今回の講演では、米川研究員から最初にネズミは害獣である旨の説明があった。その後、マウスの名前の由来、系統、なぜ実験に利用されるかなど分かり易くお話しされました。
次に、毛変わりマウスのいろいろな種類の説明、実験用マウスの改良とその成果、野生マウスから実験用マウスまでの道筋などの専門的な説明がありました。近交系(※1)マウスを作るために兄弟交配を繰り返すと、世代が進むにつれて遺伝子がホモ化してゆくそうです。同じ系統に属する個体の遺伝子の組成は全て同一であり、一卵性双生児と同じ状態を作り出せるとのことでした。
また、突然変異についての説明があり、非常に強い突然変異は近交系かどうかにかかわらず表現型(※2)として出現し、他の遺伝子は無関係であるとのことでした。研究や実験に重要な役割を果たす無菌マウスは、妊娠マウスを帝王切開し新生仔を取り出し、ビニールのアイソレータ(※3)の中で保育することにより無菌状態のまま成長させるとのことでした。
次に腸内細菌についてのお話しがありました。ヒトや動物の腸の内部に生息している細菌は、一人当たり100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息している。その構造は、ビタミン合成、消化・吸収、感染制御、免疫刺激などの有用性に働くもの、腸内腐敗や細菌毒素、発がん物質の産生などの有害性に働くもの、病原性に働くものなどで構成されているとのことでした。大腸菌の菌数は糞便1gあたり100万個前後存在するとのお話しもありました。
最後に、マウスに関する江戸時代の古書やマウスの飼育法、野生マウスは4郡に分かれることなどマウスに関する様々な歴史、データを披露されました。
講演終了後のアンケートでも「わかりやすかった」「とても参考になりました」といった声が寄せられるなど、充実した講演会となりました。
※1近交系…兄妹交配を繰り返し、形質の異なる個体を分離する事によって作りだされた遺伝的に均一な動植物の個体群
※2表現型…生物の持つ遺伝子型が形質として表現されたものであり、形態、構造、行動、生理的性質などを含む
会場:東京都医学総合研究所 講堂
第1回都医学研都民講座は、4月24日(金)、都医学研において昭和大学発達障害医療研究所 加藤進昌所長を講師にお迎えし、当研究所の上野太郎研究員とともに、「睡眠研究の最前線」と題し、講座を開催しました。
今回の講演では、最初に上野研究員から少子高齢化など現代日本社会の課題と対策についてお話しがありました。24時間社会となり、日本人は年々睡眠時間が減少し、世界的に見ても睡眠時間が短くなっていること、睡眠障害による日本の経済損失が年間3.5兆円に上ることなどの説明をいただきました。また、不眠による健康への影響や、不眠症は高血圧症、うつ病のリスクとなるとのお話しがありました。
次に、過眠症状を示す疾患であるナルコレプシーの理解に基礎研究が果たしてきた役割や、睡眠の行動学的定義やショウジョウバエを用いた睡眠の遺伝学的研究についてのご説明がありました。
最後にゲノム解析・編集により、更に進歩し、医療に繋がることを目指す次世代型睡眠研究についてのご発言で終わりました。
その後、「大人の発達障害を研究する」を題目に加藤先生からお話がありました。まず、大人の発達障害として広汎性発達障害(PDD)や学習障害(LD)、睡眠障害としてナルコレプシーなどの非器質性睡眠障害、睡眠・覚醒スケジュール障害などについて、わかりやすいご説明がありました。
また、ADHDの病態生理として1900年代に行動障害を持つ児童に対して中枢刺激薬で治療を行ったところ半数に目覚ましい改善が見られ、その後動物実験により改善原因の追究を行ったというご説明や、中枢刺激薬の有効性が30年近い臨床使用の実績や100を超える臨床試験成績によって示されていること、日本ではリタリンが使用できずコンサータが発売されたことなどのご説明がありました。
講演会終了後、希望者を対象に、6グループに分かれ、研究室を見学していただきました。見学者からは、「普段、入ることの出来ない研究室が見学出来てとてもよかった。」「熱心に説明いただき、貴重な体験となった。」等、とても満足していただきました。
※リタリン・コンサータ…中枢刺激薬の一種。
会場:日本科学未来館
4月18日(土)、4月19日(日)の2日間、(公財)東京都医学総合研究所では、日本科学未来館において、「君と僕を区別するもの 遺伝子DNA 見てみよう 調べてみよう 作ってみよう」と題し、実験、観察、工作教室を行いました。
この行事は、「-Tokyoふしぎ祭サイエンス-」をキャッチフレーズに、東京都各局や首都大学東京、各研究・教育機関等が一堂に会して研究・技術について分かりやすく紹介するものです。
京都医学総合研究所からは、「見てみよう」、「調べてみよう」、「作ってみよう」という3つのテーマで、来場者に直接実験等に参加していただく「体験展示」を実施しました。
『君にはDNAが見えたかな?』では、タラの白子からDNAを取り出す実験をしました。参加者全員が、研究員の説明に真剣に耳を傾け、途中、研究員の手助けも受けながら、なんとか慣れない実験をやり遂げました。結果、DNAを取り出し、記念写真を撮ってその写真が配られると、白衣に身を包んだ小学生等からは満面の笑みがこぼれ、驚きの声が響きました。
『のぞいてみよう!アレルギーの世界!!』では、身近であるが肉眼では見えずらい花粉とダニやアレルギーに反応するリンパ球などを、鮮やかに映し出す蛍光顕微鏡を使用してモニターで観察しました。普段研究に使用している顕微鏡も別に3台使用し、動いているダニを見た参加者からは「動いてる!」との喜びの声が響きました。また、時期的に参加者の関心が高い花粉症について研究員に熱心に質問している参加者の姿が見受けられました。
『遺伝子ってなぁに?DNAのひみつ』では、DNAが体の設計図であること。60兆個の細胞一つひとつに、約2mのDNAが入っていること等を学んだあと、DNAの形を模したストラップ作りに挑戦しました。集中して親子で協力し、熱心に作業している姿が印象的でした。
担当した研究者は、前日からの実験準備に始まり、息つく暇もないほどの慌ただしさではありましたが、普段は直接、接することの少ない都民の皆様に研究内容を披露する貴重な機会となり、当財団にとって有意義なイベントとなりました。
会場:東京都医学総合研究所 講堂
3月8日(日)、公益財団法人東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 ウイルスを見てみよう」が開催されました。サイエンスカフェは、お茶や音楽とともに気楽な雰囲気の中で、身近なサイエンスについて研究者と自由に語り合う場です。
第18回のサイエンスカフェとなる今回は、肉眼ではもちろん、一般の顕微鏡を使っても見ることができないウイルスについて、当研究所の大岡静衣研究員が話題提供をしました。まず前半では、「ウイルスは生物か?非生物か?」というテーマで、ウイルスが持つ特徴についてイラストを交えて解説がありました。
後半の体験では、インフルエンザウイルスが感染伝播する様子を、「感染伝播シミュレーション」を通じて、体感していただきました。全員が手袋をして(ひとつの手袋だけに蛍光物質が付着していますが、自然光の下では見えません)、任意の人と握手をしていきます。そして、UV光源の下で、手袋が光るか確認するというシミュレーションです。蛍光物質がついた手袋を最初にしていた人(疑似的な感染源)が明らかになると、熱心に伝播の仕方(蛍光物質が握手で他人に移っていく様子)を追跡するなど、会場全体で盛り上がりました。
次に、ウイルス観察では、「電子顕微鏡自体うまれて初めて見ました。」、「ウイルスがくっきり見えた。」など、1万倍に拡大された世界に驚いていました。インフルエンザウイルス感染診断の体験や、インフルエンザの診断時間を半減させることに成功した機器の紹介など、工夫をこらした内容に、参加者からは「研究員の方が丁寧に分かり易く説明してくださったので、楽しい時間を過ごすことができました。」、「計測器が病院に広まって、迅速診断ができるようになってほしいです。」、「これからも是非続けてください。」といった声が多数寄せられました。
都民の皆さんの研究所として、今後もこうした催し物を実施していきます。
会場:東京都医学総合研究所 講堂
2月20日(金)、「バイオメディカル光イメージングの進歩」をテーマに第11回 都医学研国際シンポジウムを開催しました。主催者は、公益財団法人東京都医学総合研究所ヒト統合脳機能プロジェクトリーダーの星詳子副参事研究員です。星研究員は、神経機能イメージング法である近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、脳磁図(MEG)を相補的に用いて、知覚情報処理、感情生成・制御、認知活動に関与する脳領域を同定し、それらの領域の機能連関を明らかにして感情の神経基盤モデルの構築を目指す研究を行っています。
今回のシンポジウムには、世界各地から多くの研究者の参加を得て、活発な討論、意見交換が行われました。当研究所の飛鳥井望副所長から「3つの研究所が統合し、その高い研究成果を世界に向け発信するため、年数回、国際シンポジウムを開催しています。第11回の今回、” バイオメディカル光イメージングの進歩”というテーマで、多くの世界的に高名な専門家に来ていただき開催できることに感謝します。シンポジウムが、参加する全ての人にとって意義深く、価値あるものになることを祈っています。」と挨拶がありました。
第1セッションは、星研究員、慶應義塾大学理工学部電子工学科の岡田英史教授を座長に「生体内における光伝播について」、第2セッションは、ワシントン大学のJoseph P. Culver准教授、ドイツの物理工学研究所のHeidrun Wabnit上席研究員を座長に「CW-拡散光トモグラフィについて」、第3セッションは、ロンドン大学のRobert Cooper助教、電気通信大学電気通信学部知能機械工学科の山田幸生教授を座長に、「時間領域拡散光トモグラフィについて」、第4セッションは、北海道大学電子科学研究所の西村吾朗助教、ベルリン脳卒中研究センターのJens Steinbrinkセンター長を座長に「革新的バイオフォトニクス技術について」と、国内外の研究者(14名)から、臨床応用を目指した光イメージング技術に関する新しい知見が報告され、活発な議論が展開されました。
当研究所では、研究者や医療従事者等を対象に、最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとした国際シンポジウムを今後も毎年複数回開催していく予定です。
会場:東京都医学総合研究所 講堂
2月9日(月)、「ホスホリパーゼA2および脂質メディエーター」をテーマに第10回 都医学研国際シンポジウムを開催しました。主催者は、公益財団法人東京都医学総合研究所・脂質代謝プロジェクトリーダーの村上誠参事研究員です。村上研究員は、メタボリックシンドローム・自己免疫疾患等、さまざまな疾患の分子病態を解明し、新たな創薬への展開を目指す研究を行っています。
今回のシンポジウムには、世界各地から脂質を専攻する研究者や医療技術関係者の数多くの参加を得て、活発な討論、意見交換が行われました。村上研究員から「第10回の記念となる今回、”ホスホリパーゼA2および脂質メディエーター”に関して、今日の、旺盛な研究動向を踏まえて意義あるシンポジウムにしたいと思います。全部で4つのセッションをセットいたしました。それぞれセッションで多くの世界的に高名な専門家(海外から12名、国内から2名)に講演いただけることに感謝します。」と挨拶がありました。
セッションの内容として、第1セッションは、村上研究員を座長に「ホスホリパーゼA2について」、第2セッションは、理化学研究所統合生命医科学研究センター・メタボローム研究チームリーダーの有田誠研究員を座長に「リピドミクス(脂質の網羅的分析)について」、第3セッションは、順天堂大学大学院の横溝岳彦教授、熊本大学大学院の杉本幸彦教授を座長に、「エイコサノイド(アラキドン酸代謝物)について」、第4セッションは、東北大学大学院の青木淳賢教授を座長に「リゾリン脂質について」、であり、国内外の研究者(14名)から、脂質メディエーターの代謝制御と作用に関する新しい知見が報告され、活発な議論が展開されました。
当研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとした国際シンポジウムを今後も毎年複数回開催していく予定です。
会場:都庁大会議場
2月4日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は都庁大会議場において、「認知症高齢者への対応のコツ」と題し、鈴鹿医療科学大学教授の葛原茂樹先生(右写真)を講師にお迎えして、第8回都医学研都民講座を開催しました。
今回の講演では、葛原先生から、最初に、「認知症増加の背景と実態」について説明がありました。2025年には、患者数が700万人を超えると予想されること、認知症とは高次認知機能(記憶、試行、見当識、理解力、計算、学習能力、言語、判断力)が障害されること、一時的ではなく、半年は続いていること等の解説がありました。
次に、「認知症の中核症状と周辺症状」について、お話がありました。中核症状とは、脳の高次機能障害に起因する症状であること。例えば、後頭葉・頭頂葉の連合病変が相貌失認(人の顔を見てもその人が誰か認識しにくくなる脳障害による失認の一種。俗に失顔症とも呼ばれる。)を惹き起こすこと等について説明がありました。また、周辺症状(うつや妄想・幻覚といった精神症状、徘徊や介護への抵抗等の行動異常)は、中核症状から派生したものであることについて、中核症状と関連付けて解説いただきました。
最後に、「認知症高齢者への対応のコツ」について、多くの臨床例を交え、紹介いただきました。問題行動(周辺症状)は、「介護者にとって異常な症状の多くは、患者側から見れば真っ当な行為」であること。異常に見える言動にも理由があることが多いので、その意味と理由を考えて、認知症者の立場から理解することについて、具体的なケースを通して、お話しいただきました。
介護において、患者を変えるのは至難の業だが、家族と介護者が変わることは可能であること。患者の「行動」は変わらないが、介護者が工夫をして「問題」を解消すること。患者と介護者の良い関係を築くのは、「こころ」の理解であるとのお話に、多くの聴講者が深く頷いていました。
講演終了後のアンケートでも「当事者の家族として、今後の参考になりました。」、「わかりやすかった。」といった声が寄せられるなど、充実した講演会となりました。
来年度も、当研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行う予定です。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。
会場:津田ホール
1月16日(金)、公益財団法人東京都医学総合研究所は津田ホールにおいて、東京薬科大学生命科学部応用生命科学科教授の山岸明彦先生(左上写真)を講師にお迎えし、当研究所の正井久雄研究員(右下写真)とともに、「ゲノムの増えるしくみとその起源・進化」と題し、講座を開催しました。
今回の講演では、最初に、「ゲノムの増える仕組み」と題し、正井研究員より、生物の定義や、DNAが4種類の塩基で構成されていること、ゲノム(DNAすべての遺伝子情報)の複製などについて概要説明がありました。30億もの塩基対からなるゲノムの複製を極めて正確に行えるのは、誤った塩基対を正す校正機能があること、その校正機能をすり抜けても、ミスマッチを修復する機能があるためであるというお話がありました。ゲノムの複製メカニズムは、大腸菌とヒトでは異なっていると考えられてきましたが、最新の研究結果から、大腸菌にもヒトと同じようなゲノム複製の仕組みがあることが分かってきたそうです。
次に、「ゲノムの進化、地球外生命」と題して、東京薬科大学の山岸先生より、地球外生命の可能性についてお話がありました。大気圏微生物採集実験により、高度48㎞の成層圏にさえ細菌が存在していることが明らかになっており、さらに高い高度の宇宙空間である高度100㎞以上でも、微生物が存在する可能性があるとのことです。ロケットを打ち上げ、宇宙空間において微生物を捕集する計画があること、火星における生命探査の提案など、壮大なスケールでの研究紹介がありました。火星では、地下数㎝潜れば、微生物が生存可能とのことで、40億年前には(想像できないほど昔ですが)火星に海があったこと、今でも氷のかたちで水が存在することなどから、現在も微生物が生きている可能性があるそうです。ロマンあるお話に、会場が圧倒された1時間半でした。
講演終了後のアンケートでも「専門的な話が聴けてよかった。」、「少々難しかったが、最新の研究成果に触れることができよかった。」といった声が寄せられるなど、充実した講演会となりました。
今年度当研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行っています。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。