こどもの脳プロジェクトリーダー 佐久間 啓

2026年3月7日に開催されたサイエンスカフェ「小児科医が教える人の体のしくみ」は、「心臓と循環」「肺と呼吸」をテーマに、大人から子どもまでが楽しみながら人体の不思議を学ぶ貴重な機会となりました。小児科医の佐久間先生を講師に迎え、飲食も可能なリラックスした雰囲気の中、イラストやクイズを交えながら私たちの身近な体の仕組みについて深く掘り下げました。
大学の医学部では、まずは健康な状態での体の働きについて学び、その後に病気について学ぶそうです。この講演ではこのような医学の教育プロセスを身近に体験することができると佐久間先生は説明されました。
講演ではまず、「心」と「心臓」の違いについて解説されました。「心」が感情を司る脳の働きであるのに対し、「心臓」は血液を全身に送り出すポンプとしての臓器です。心臓は絶えず収縮と拡張を繰り返し、血液を体中に循環させています。心拍数は体の大きさに応じて変化し、小さな動物ほど速く、人間でも子どもと大人では異なります。
講演ではまず、「心」と「心臓」の違いについて解説されました。「心」が感情を司る脳の働きであるのに対し、「心臓」は血液を全身に送り出すポンプとしての臓器です。心臓は絶えず収縮と拡張を繰り返し、血液を体中に循環させています。心拍数は体の大きさに応じて変化し、小さな動物ほど速く、人間でも子どもと大人では異なります。
心臓内部は4つの部屋に分かれ、血液は「体循環」と「肺循環」の二つのルートを通ります。酸素を豊富に含む血液と、酸素が少なくなった血液が心臓内で混ざらないよう、巧妙に分離されて流れる仕組みになっています。
血液が心臓から出ていく血管は「動脈」、心臓に戻る血管は「静脈」と呼ばれます。動脈は心臓の強い圧力に耐えるため壁が厚く、静脈には血液の逆流を防ぐ弁が備わっています。また、心臓の中にも弁があり、血液が一方向に流れるようコントロールしています。
驚くべきことに、心臓は脳からの命令がなくても自ら電気信号を発して拍動しています。この電気信号を記録したものが心電図であり、心臓の健康状態や不整脈などの異常を把握するのに役立ちます。
もしもの時に命を救うための心肺蘇生法についても言及されました。意識のない人を見つけたら、まず声をかけ、反応がなければ周囲に助けを求め、119番通報とAEDの手配を依頼します。呼吸がなければ胸骨圧迫を行い、AEDは音声ガイドに従えば誰でも操作できます。
さらに、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの心臓は、生まれた後とは異なる特別な血液の流れ方をしていることや、生まれつきの心臓病(先天性心疾患)についても解説があり、人体の奥深さに触れる内容でした。
次に、肺と呼吸の仕組みについて学びました。のどの奥では空気が通る「気管」と、食べ物が通る「食道」が分かれていますが、誤嚥を防ぐために「喉頭蓋」が飲み込む際に気管を閉じる役割を果たしています。
肺には「肺胞」という小さな袋が多数あり、ここで酸素を取り込み二酸化炭素を排出する「ガス交換」が行われます。肺自体には筋肉がないため、胸郭と横隔膜の動きによって空気の出し入れが行われます。私たちは酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するために呼吸をしています。吸う空気と吐く空気では酸素や二酸化炭素の量が異なり、植物や私たちの細胞一つ一つも「細胞呼吸」によってエネルギーを作り出しています。息苦しさの主な原因は、酸素不足よりも体内の二酸化炭素量の増加にあると説明されました。
赤ちゃんが初めて呼吸する際には、肺の中の羊水が空気と入れ替わり、「サーファクタント」という物質が肺の膨張を助けます。この物質が不足する早産児には、サーファクタントを薬として補充するという治療が施されることも紹介されました。
風邪やインフルエンザの原因となるウイルスや細菌、そして抗生物質が細菌には有効だがウイルスには効かないこと、不必要な抗生物質の乱用が耐性菌の増加を招くリスクについても触れられました。
私たちの体は、タンパク質や糖などの栄養素から酸素を使ってエネルギーを作り出し、その過程で二酸化炭素が生成され、呼気として排出されています。
講演の最後に佐久間先生は、「病気とは、体が本来持つ「正常な働き」が何らかの原因でうまくいかなくなった状態であり、健康な時の体の働きを知ることが病気を正しく理解し、適切な治療法を選択するための最も重要な基本であり、この講演が皆さんの体への理解を深め、健康に過ごすための一助となれば幸いです。」と締めくくりました。

再⽣医療プロジェクト 安⽥有冴
学術支援室 笠原浩二
第 50 回サイエンスカフェ in 上北沢「光と視覚のサイエンス」を、協⼒スタッフを務めた 5 名の⼤学院⽣とともに講堂にて対⾯式で開催しました。第 50 回記念のサイエンスカフェであったためか 100 ⼈以上の⼩中学⽣の皆様⽅からの申込があり、東京都医学総合研究所⾳楽部の皆さんと正井所⻑によるピアノ、バイオリン、ギター、ベース、ドラムの⽣演奏でお出迎えし格調⾼いサイエンスカフェにすることができました。まずはじめに、太陽の光は太陽が放射する電磁波という電気と磁気がつくる波であることを説明し、ガラスや⽔の中を進むときは速度が下がることによって屈折し、波⻑の違いによって屈折率の違いから 7 ⾊に分かれることから、プリズムや空気中に浮かぶ⽔の粒から虹ができることを説明しました。その次に、⾚いライトと⻘いライトを重ねるとマゼンタ、同様に緑と⾚を重ねると⻩⾊、⻘と緑を重ねるとシアン、そして⾚緑⻘を重ねると⽩⾊になることを体験し、それぞれの強度を変えて重ねるとすべての⾊を作ることができるという光の3原⾊についてお話しました。そして網膜上に⾚、緑、⻘を感じる視細胞があり、光を受けると電気信号に変わり、電気信号が視神経を通って脳の視覚野に伝わり、3 つの電気信号の強度の⽐で⾊を認識するしくみを説明しました。そして、⾚⾊の●を 30 秒間じっと⾒続け、⽩地に視線をずらすとシアンの●の残像が⾒える体験をしてもらい、⾚を感じる視細胞が疲労して感じにくくなったため緑と⻘が⽐較的に強く感じられ残像がシアンに⾒えるという補⾊残像のしくみを説明しました。また、⾃分の盲点の確認実習、まわりの⾊の影響を受けて脳がちがう⾊として認識してしまう錯視や静⽌画が動いて⾒える錯視の観察も⾏いました。
後半は再⽣医療プロジェクトの東京科学⼤学⼤学院⽣の安⽥有冴さんが司会を担当し、ウミホタルの⽣物発光実習およびシュウ酸エステルの化学発光実習を⾏いました。すりつぶした乾燥ウミホタルに⽔を加え照明を消すと⻘⽩い光が観察され、ゆすることによって酸素を供給するとひときは光が明るくなり、「わあ!」っと⼤きな感動の声が上がっていました。化学発光実習では3原⾊に光る液をマイクロピペットを使って混ぜることによって、保護者様と⼀緒に⽩をはじめ7⾊に光る液作りを楽しんでもらいました。また、紫外線を当てることにより光るさまざまな蛍光を観察しました。陰⼲し⽤洗剤(⻩ばみを消す蛍光増⽩剤)、使⽤済ハガキ(光るバーコードによる仕分け⾃動化)が光る理由を説明し、⽣活に役⽴てられている話をしました。さらに、ピーマンやブロッコリーがクロロフィルを含むことから⾚⾊に、ビタミンBが⻩⾊に、蛍光管が⽩に光る観察を⾏いました。「私は理科など、実験がすきでこれてよかったです。またやってほしいです。」「ふだんできない実験などをさせてもらって楽しかったです。また実験にさんかしたいです。」との感想をいただきました。保護者様からは講義内容にも興味を持って下さったようで「へ〜、そうなんだ!」という声もいただきました。

難聴プロジェクトリーダー 吉川 欣亮
当研究所において第15回都医学研シンポジウムを開催いたしました。本シンポジウムは「次世代のヒト疾患モデル動物」をテーマに掲げ、学術界から広く一線の研究者を招聘し、最新の知見を共有するとともに活発な議論が交わされました。
医学研究の使命は、病気のメカニズムを解明し、画期的な治療薬を創出することにあります。その成否を握るのは、いかにヒトの病態を忠実に再現した「疾患モデル」を構築できるかという点に集約されます。
シンポジウム前半では、理化学研究所の天野先生より、慢性腎臓病、特に「アルポート症候群」に関する最新の研究成果が報告されました。ゲノム編集技術によって、患者の遺伝子バリアントをマウスで再現し、腎臓の血液ろ過フィルター機能を担う糸球体が崩壊していく過程を三次元で可視化した知見は、次世代治療法である「核酸医薬」の有効性検証において、極めて重要な道標となります。
また、千葉県がんセンターの奥村先生からは、日本固有の野生マウス(MSM 系統)を用いた「がん抵抗性」という、独創的な視点の研究が紹介されました。「なぜ病気になるのか」を追うだけでなく、「なぜ病気にならないのか」を解き明かすことで、がん予防や新たな治療戦略の構築に繋げる試みは、参加者からも高い関心を集めました。
昨今、動物実験に代わる手法として AI やオルガノイド技術(ミニ臓器)が注目されています。しかし、生命現象における「個体としての複雑な応答」を理解するためには、動物を用いた研究が不可欠です。
私たちは、高度なバイオリソースを適正に管理・提供する責務を負うとともに、インシリコ(コンピューター解析)、インビトロ(試験管内実験)、そしてインビボ(個体実験)を有機的に統合していく必要があります。これら最新技術の調和こそが、研究の再現性を高め、臨床への橋渡しを確かなものにすると確信しております。
本シンポジウムを通じて、次世代の疾患モデル動物が、単なる研究の手段ではなく、病に苦しむ人々へ光を届けるための「羅針盤」であることを改めて発信いたしました。
当研究所は、都民の皆様の健康を守る拠点として、今後も倫理的配慮と科学的厳密さを両立させ、医学の発展に寄与する研究に邁進してまいります。ご来場いただいた皆様、ならびに日頃より当研究所の活動を支えてくださる皆様に、深く感謝申し上げます。
認知症研究プロジェクトリーダー 野中 隆
「2025 年度第6回都医学研都民講座」は、ヤンセンファーマ株式会社の渡辺小百合プロジェクトリーダーを講師に迎え、「新薬の研究と開発」をテーマにお話しいただきました。
講師の渡辺さんは、かつて当研究所の長谷川成人副所長の研究室にて従事されていた経歴を持ちます。現在は製薬企業のプロジェクトリーダーとして、新薬を患者さんのもとへ届ける架け橋となっている「縁」を感じる講座となりました。
2新しい薬が誕生するまでには、10 年以上の歳月と約3,000 億円もの研究費が投じられます。数千の候補から承認にたどり着くのはわずか 0.003%。渡辺さんは「ホールインワンを狙い続けるような確率」と語ります。それでも開発を続けるのは、病気に苦しむ患者さんの「待っています」という声が原動力になっているからです。
渡辺さんが手がけているプロジェクトの一つは認知症をターゲットとした新薬の開発研究です。認知症は高齢社会における喫緊の課題であり、日本国内の患者数は2025 年に 700 万人を超えると予測されています。そうなりますと社会および医療システムへの影響は極めて大きくなることが予想されますが、未だ根本的な治療薬は存在していません。開発が遅滞している要因の一つとして、発症メカニズムの未解明が挙げられます。多くの認知症の患者脳では異常タンパク質の凝集体が形成され、病態の進行に伴い細胞間を伝播し、その蓄積が拡がることが知られています。したがって、これら凝集体の形成および細胞間伝播の抑制は、治療・予防戦略において極めて重要です。我々の認知症研究プロジェクトでは、患者脳における病変を詳細に解析するとともに、その特徴を忠実に再現する病態モデルを構築し、発症メカニズムの解明を目指しています。さらに、同モデルを用いて新規治療薬および予防薬の開発を目標にして、日夜研究を進めております。
最近では、アルツハイマー病の原因物質に直接働きかける新しいタイプの薬が日本でも承認され、大きなニュースとなりました。こうした新薬が「これまでの治療の選択肢を広げ、患者さんとご家族の希望になること」を強調されました。
当研究所としても、こうした民間企業とのネットワークを大切にしながら、認知症という大きな課題の解決に向けて、一歩ずつ着実に研究を深めていきます。
社会健康医学研究センター長 西田 淳志
2025年10月17日、東京都医学総合研究所にて第5回都民講座が開催されました。今回のテーマは、妊産婦のゆとり感を高める「パーソンセンタードケア」と、東京都アーリーパートナーシップモデルへの挑戦です。そこでは、孤立しがちな育児の現場をデータと対話の力で変えようとする、当研究所の最新の研究成果が報告されました。
まず私より、虐待死亡事例の多くが生後3ヶ月以内に集中している実態を提示しました。
これは親の資質の問題ではなく、出産直後の大変な時期に助けを求めにくい環境が背景にあります。「問題が起きてから支援するのではなく、妊娠中から『味方』として繋がることが大切だ」と、当研究所が開発したモデルの意義を話しました。
続いて、当研究所の元主席研究員である馬場香織先生(聖路加国際大学)が、都内自治体と共同開発した「東京都アーリーパートナーシップ(EP)モデル」を報告しました。この支援の核は、母親を「評価・指導」するのではなく「共に歩む」姿勢です。保健師が「今、生活にどれくらい『ゆとり』がありますか?」と問いかけます。この言葉は、完璧な親であろうと張り詰めたママ・パパの心を、否定することなく受け止めるためのものです。
このモデルの特長は、アドバイスに留まらず、具体的な困りごとを一緒に解決することにあります。お金の不安があれば窓口へ同行したり、ファイナンシャルプランニングを手伝ったり、生活の悩みにも共に解決策を探る。実践の結果、このサポートを受けたグループは産後うつの割合が半減し、心のゆとりが保たれることが証明されました。
「かつて人間は 10 人の大人で1人を育ててきました」という進化生物学者で都医学研の客員研究員である長谷川眞理子先生の言葉を引用して締めくくられた本講座。都医学研は、誰もが当たり前に周囲を頼れる社会を目指しており、一人ひとりの暮らしに寄り添う確かなエビデンスを、発信し続けます。
副所長・認知症研究プロジェクト 長谷川 成人

2025年9月19日(金)、社会医療法人崇徳会 田宮病院顧問で長岡崇徳大学特任教授の森 啓 先生を講師にお招きし、第4回都民講座「認知症の新しい取り組み 2025」が開催されました。今回は、2024 年に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(通称・認知症基本法)」の理念と意義を中心に、法律の成立はゴールではなく、魂を吹き込むのは国民一人ひとりの理解と行動であることの重要性についてお話していただきました。
講演では、アルツハイマー病の基礎的理解と最新の医療研究について紹介され、脳内のアミロイドβの蓄積が発症の 20 年以上前から始まり、脳が徐々に萎縮して進行する病気であること、2024 年にはアミロイドβを減らす新薬レカネマブやドナネマブが承認されたこと、病気の進行を遅らせる効果が認められた一方で、副作用や高額な医療費などの課題についてもお話されました。

続いて、認知症基本法成立の経緯に話が移りました。これまで国の施策は省庁主導のプランにとどまり、法的裏付けがなかったところに、認知症の人と家族を社会全体で支える仕組みの必要性を痛感し、議員や厚労省関係者への働きかけを重ねたことなど、森先生しか知らないようなお話をしていただきました。過去の痛ましい出来事を例に挙げ、「家族だけに介護の責任を押し付けるのではなく、社会全体で支え合う」という考え方が、いかにしてこの法律に結びついたかを熱く語ってくださいました。これは、国民の願いが込められた、大変意味深い法律だと感じます。成立の陰には、政治的な功名を求めず、地道に調整を続けた議員や官僚たちの努力があったことを付け加えられました。
法律の理念として掲げられるのは「新しい認知症観」で、認知症になっても、その人の個性と尊厳を尊重し、地域のつながりの中で自分らしく生き続けられる社会を目指すという考え方が重要であると強調し、社会全体で支え合う共生の仕組みが不可欠だと訴えられました。
最後に、講師は「私たちが日本に生まれてよかったと思える社会はまだ遠いが、この法律を理解し努力することで必ず実現できる」と話を結びました。本講演は、医療・法律・倫理の各側面から認知症を考え直し、共に生きる社会への一歩を促す貴重な機会となったと思います。

脳神経回路形成プロジェクトリーダー丸山千秋
2025年7月30日(水)から8月1日(金)にかけて、「神経細胞を可視化し大脳新皮質の層構造の成り立ちを探る」をテーマに、意欲ある高校生6名を対象とした集中セミナーを実施しました。
本コースでは、複雑な思考を司る哺乳類(マウス)の大脳新皮質の6層構造に注目し、進化的な比較対象として鳥類(ニワトリ)の脳を併せて検証しました。参加者は、研究員の直接指導のもと、学校ではまず体験できない最新の方法で神経細胞を染色し、各層における細胞の特徴を自分の目で確かめる本格的な実習に取り組みました。
さらに、高度な発生学研究の技術である「子宮内・卵内エレクトロポレーション」の実験を見学し、研究の最前線を間近で知る機会となりました。
実習後は、得られたデータを基に、「神経細胞が『いつ生まれて』『どこに移動したのか』」という発生の根幹に関わる謎について、研究室メンバーと熱のこもった発表と議論を行い、深い考察を重ねました。
参加者からは、2024 年度と同様、「普段は交流できない最前線の研究者の方から直接指導を受けられてとても貴重な経験でした」との声が寄せられました。都医学研は、今後も科学や脳の持つ奥深さと面白さを伝えるため、未来の研究者を志す皆さんが本物の体験と発見を得られる場を提供してまいります。来年度の開催にもぜひご期待ください。

社会健康医学研究センター 難病ケアユニット 小倉朗子
“難病”って何?!日々の生活はどうなるの?...。「発病の機構が明らかでなく、希少な疾患で、治療法未確立!」これが“難病”です。国が指定する“難病”は現在 348 疾患。全国で約 112 万人。都内でも 11 万人の患者さんがいらっしゃいます。
“難病”でも、私らしく尊厳のある生活。そのためには保健、医療、介護、福祉など様々な支えが必要です。そして私たちの住むこの地域で、それらを適切に、効果的に利用できることが大切であり、それらの仕組みの総称が“地域ケアシステム”です。
行政職である保健所等の保健師の皆さんは、関連する法制度に基づき、患者さまやご家族を支援し、またそれぞれが担う各地域の難病の地域ケアシステムをよりよいものとするために、関係機関・自治体のみなさまとともに日々活動しています。
本セミナーの目的は、難病の地域ケアシステムの課題を研究室作成のツールを共通に用いて浮き彫りにし、また各地の活動の取組を共有し、その対策を検討するもので、難病保健活動の推進、そしてそれらを通じて全国各地のケアシステムの向上に寄与することです。
今年度は東京都を含む全国 73 自治体、総勢 265 名の保健師のみなさんに、セミナーにご参加いただき、“個々の患者さまを支える保健師の役割”や“災害対策”について考えました。多くの外部講師のみなさま、そしてご参加保健師のみなさまの日々のご活動に心より感謝を申し上げます。
そして稿を終えるにあたり、患者さまお1人お1人の様々な状況における、お心持、ご努力を思い出すとき、私達自身が勇気や力をいただき、感謝の思いを強く持ちます。
これからも、研究の立場から、“難病”のみなさま、支援のみなさまとともに歩みます。

体内時計プロジェクトリーダー 吉種 光

先日開催いたしました 2025 年度第3回都民講座にてまず私、吉種からは「時をカウントする体内時計の仕組み」と題し、私たちの体に備わる「体内時計」についてお話しさせていただきました。この体内時計は、単に朝起きて夜眠るリズムだけでなく、食事の消化、運動能力、学習の効率、さらにはお薬の効果にまで深く関わっています。専門的な「ゲノム DNA」という言葉は、まるで「料理本の全体」のように、そしてその中にある「遺伝子」は「一つ一つの料理のレシピ」のように、私たちの体の設計図が書かれていると例えて、皆様に体内時計の仕組みを解説しました。体内時計のリズムに合わせて生活する「時間治療」の考え方を取り入れることで、健康的なダイエットや学習効果の向上、そして病気の予防にもつながることをご紹介し、参加者の皆様が熱心に耳を傾けてくださったことが印象的でした。

講師の永井先生は、ホタルが持つ「発光タンパク質」やオワンクラゲが持つ「蛍光タンパク質(ある色の光を当てると別の色に光る不思議な物質)」の研究を長年続けてこられました。そして、この生物が放つ微弱な光の仕組みを研究することで、「ナノランタン」という電気を使わずに非常に明るく光る物質を開発されました。このように永井先生は次々と生物が持つ力を利用して新しい技術を開発してきましたが、最近では植物の光合成のエネルギーを使って植物自体が光る「LEP(Light Emitting Plant)」を生み出すことに成功したという、お話をしていただきました。
この「光る植物」は将来的には室内の照明として利用可能であり、街灯を設置しなくても自ら光る街路樹が並ぶ美しい通りができるかもしれません。電力消費を抑え、地球温暖化問題の解決に貢献できる可能性を秘めています。大阪万博のヘルスケアパビリオンで展示した際は、「未来のわびさび」をコンセプトに、電源なしで光る植物が日本の伝統的な空間を彩る様子を披露し、多くの来場者の方々に感動を与えました。遺伝子組み換え生物を扱う上での法規制や、太陽光パネルと比較した環境への影響についても触れ、私たち研究者が社会と向き合いながら、より良い未来を築いていきたいという熱い思いを共有されていました。
今回の講座を通して、お伝えしたかったポイントは以下の3点です。

質量分析室 西村友枝
学術支援室 笠原浩二
第 49 回サイエンスカフェ in 上北沢「香りの科学」を、協力スタッフを務めた 5 名の大学院生とともに講堂にて対面式で開催しました。猛暑日にも関わらず、正井久雄所長によるピアノ生演奏が流れるなか多くの参加者の皆様方が来所されました。はじめに香りのイントロダクションとして、古代エジプト女王のクレオパトラがバラの花びらを浮かべた風呂に入っていたと言われていること、時代が進み水蒸気蒸留という方法で香り成分を精油として抽出できるようになったことを紹介しました。そして実際にライム、オレンジ、シナモン、バニラの精油の香りを嗅ぎ、それらをすべて混ぜるとコーラに似た香りになることを体験してもらいました。精油にはいくつかの香り物質が入っているので、ペパーミント精油中の香り物質の一つとしてメントールの香りをかいでもらいました。またオレンジの皮にはリモネンという香り物質が存在し、実際にオレンジの皮を絞って風船を割ったり発泡スチロールを溶かしたりして、香りと同時に化学的性質も知ってもらいました。また鏡像異性体である(+)リモネンと(-)リモネンとで香りがまったく違うことを体験してもらい、嗅覚受容体が立体構造を見分けることを理解してもらいました。休憩をはさみ後半では、精油はアロマセラピー、虫よけや抗菌、消臭にも使われることを紹介し、実際に 11 種類の精油をかいで、好きな香りを選んでもらいアロマスプレーを作りました。「自分好みの香りを作れて楽しかったです。」「学校の宿題で使えそうなのでぜひ使います。とても楽しかったです。」や「脳の仕組みや香りが健康に関係していることが分かりました。今後の人生にプラスになる情報をありがとうございました」などの感想をいただきました。また後日「残った精油とスポイトを持ち帰ることができ、『科学者になった気分でテンション上がる』と家でも喜んでいました。貴重な体験に参加することができとても良かったです。」との感想も寄せられました。「サイエンスカフェ in 上北沢」は次回で第 50 回を数え広く認知されるようになったためか、今回初めて時事通信文化特信部子どもニュースから取材を受け「身近なテーマで科学しよう 夏の自由研究」というコーナーで小学生の夏休み自由研究のテーマ選びの参考になるイベントとして紹介されました。

感染症医学研究センター 感染制御ユニットリーダー 安井文彦

「2025年度第2回都医学研都民講座」は、鳥インフルエンザウイルスへの理解を深めることを目的に、北海道大学大学院獣医学研究院の迫田義博教授を講師に迎え、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。高病原性鳥インフルエンザウイルスは、鶏などに大きな被害をもたらすため、畜産業界にとって深刻な感染症の一つです。また、1997年に中国でヒトへの感染例が初めて報告されて以来、まれではあるものの、世界中で継続的にヒトの感染が報告されています。まず、私から「高病原性鳥インフルエンザウイルス感染に対する予防と治療の基礎研究」と題して、当ユニットで進めている研究について紹介しました。日本では、2016 年度から高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染流行に備え、流行予測株を選定してプレパンデミックワクチンを備蓄しています。しかし、既存のプレパンデミックワクチンは高い安全性を持つ一方で、ワクチン作製に使用したウイルス株とは異なる変異株に対する予防効果が減弱することに課題はあります。そこで、我々は高度弱毒化ワクシニアウイルスベクターを用いた鳥インフルエンザワクチンを新規ワクチン候補として開発し、動物モデルを用いてそのワクチン効果の長期持続性と異なるウイルス株に対する幅広い有効性について報告しました。また、新規治療薬開発に関する研究では、既存のインフルエンザ治療薬とは異なる作用機序を持つ特殊環状ペプチドを開発し、ウイルス感染後の日数が経過した場合でも治療効果を示す可能性があることをお話ししました。

続いて、迫田教授から鳥インフルエンザウイルスの基礎、疫学調査、そして応用研究に至るまで幅広い内容でご講演いただきました。鶏に感染した場合に高い致死性を示す「高病原性」鳥インフルエンザウイルスの特性、その鳥インフルエンザウイルスが渡り鳥によって運ばれて世界中に広がっており、日本では渡り鳥の飛行ルートに沿ってウイルスが持ち込まれている現状についてお話しいただきました。この環境中のウイルス量が増加することで、養鶏場内の鶏や他の動物種などに感染リスクが高まるため、養鶏場などでの衛生対策を徹底することが感染リスクを下げることに繋がるとご説明されました。また、鶏や鴨にワクチンを接種している国がある一方で、日本ではなぜ殺処分で対応しているかについて、水面下でのウイルス感染拡大リスクや市場経済上の難しさなどを例に大変分かりやすく詳細に解説していただきました。さらに、迫田教授の研究室でキタキツネから分離したウイルス株が現在のプレパンデミックワクチン株に認定された事例が紹介され、基礎研究がワクチン製造へと発展した貴重な例として示されました。最後に、絶滅が危惧されている希少鳥への対策として、抗インフルエンザ薬によるオジロワシの治療研究を紹介いただきました。講演内容に対して複数のご質問をいただき、講演後のアンケートでも本講演が好評だったことを知り、迫田教授に講師をお引き受けいただけたことに改めて感謝しております。鳥インフルエンザは、私たちの生活に直接的・間接的な影響を与える重要な課題です。この講演が、皆様の理解を深める一助となれば幸いです。

依存性物質プロジェクトリーダー 池田 和隆

「2025年度第1回都医学研都民講座」は、若年層のメンタルヘルス向上を目指し、精神医療の第一線で活躍する水野雅文院長を講師に迎え、開催しました。近年、若年層における精神疾患の罹患率と自殺率の増加が社会的な課題となっており、早期発見と適切な治療の重要性が高まっています。本講座で私は、依存症の多様な対象(インターネット、ギャンブル、買い物などの行動、アルコール、薬物、市販薬などの物質)や、その問題の深刻度(軽微なものから犯罪レベルまで)について解説しました。また、依存症が生物の根源的な性質である「好む」という感情と深く関わっている点を説明しました。さらに、遺伝的要因が依存症リスクに影響を与えることから、遺伝子検査が早期発見に貢献する可能性について言及し、ゲノム解析の進歩により、個人の遺伝子タイプに基づいたテーラーメイド医療の実現が近づいている現状を紹介しました。

続いて水野先生からは、日本のメンタルヘルスの現状について、詳細なデータに基づいた解説がありました。驚くべきことに、現在、精神科の患者さんは全国で600 万人を超え、特に10代の若年層で心の不調を訴える方が増えています。水野先生は、若年層の精神疾患は学業や社会生活に大きな影響を及ぼすこと、そして自殺という悲しい結果につながるケースがあることを指摘されました。また、コロナ禍における女性の自殺増加など、社会情勢が心の健康に与える影響についても深く掘り下げられ、早期発見・早期治療の重要性を強く訴えられました。講演後のアンケート結果では、「自分が若いころは精神疾患は特別な病気のように考えていましたが、同時に家族性があるとも感じていました。情報が発達し、個別化が進んでいる現在、誰でも発症リスクがあるのではと考えるようになっていますが、中でも高校生~大学生の女子で希死願望が強いというデータに不安を覚えました。親が扱うには難しい年代の子供達であること含め教育の場での協力を切に願います。」などの感想が多数寄せられ、皆様からの関心の高さが伺えました。今回の講演を通じて、心の病に対する理解が深まることを期待しています。

学術支援室 笠原 浩二
東京都は「科学技術週間」の間、小・中学生を対象として科学技術に親しむイベント『Tokyo ふしぎ祭(サイ)エンス2025』を日本科学未来館で開催しました。青少年やその保護者等、都民の科学技術に対する更なる関心と理解を深めるとともに、科学技術の振興を図ることを目的として、「みて、さわって、わくわくサイエンス!」のキャッチコピーのもと、25の団体が出展しました。東京都医学総合研究所は「DNAの形を見ながら、生命の仕組みを学ぼう」と題して、以下の3つの企画を行いました。企画1「ブロッコリーからDNAを取り出そう」では、ブロッコリーをすり潰しDNAを抽出し、エタノールを加えるとDNAが白い沈殿として見えてくる実習です。DNAが見えたときにお子さん以上に親御さんの方がリアクションが大きく、「DNAってこんなに簡単に見られるんだ!」とおっしゃっていました。また、「このDNAを顕微鏡で見たら二重らせんに見えるのですか?」という質問を何回も受けました。最後にDNAの沈殿をさわり、お子さんだけでなく親御さんも一緒に楽しんでいる姿が印象的でした。企画2「DNA鑑定で犯人を捕まえよう」では、宮岡佑一郎プロジェクトリーダーと再生医療プロジェクトの大学院生スタッフ安田有冴さんと篠﨑佳代子さんが解説し実習を進めました。ストーリー仕立てで、実際にサンプルを電気泳動して光るDNAを観察し、犯人を当ててもらいました。参加した小学生のみなさんから歓声が上がっていました。初めて使うピペットマンでしたが、見事に参加者全員実験に成功しました。「難しかったけど、楽しかった!」という声をたくさんいただきました。企画3「DNAの二重らせんを作ろう」では、ビーズでDNA二重らせんのストラップを作りました。ご参加いただいた皆様方が、少しでも科学に興味を持っていただけたら幸いです。

脳神経回路形成プロジェクトリーダー丸山 千秋
2025年4月15日(火)から16日(水)に第30回都医学研国際シンポジウムを開催いたしました。脳科学における革新的な知見を共有し、国際的な研究交流を促進することを目的とし、国内外のトップランナー研究者をアメリカ、イギリス、フランス、スペイン、ブルガリア、台湾と様々な国より招聘しました。3月より医学研に滞在していた Oxford 大学の Zoltán Molnár 教授も当シンポジウムのオーガナイザーとして加わっていただき、活発な議論をリードしました。
私たちの脳、特に大脳新皮質の精巧な構造とその進化メカニズムの解明は、長年の研究課題です。胎児期に神経細胞が秩序正しく配置され、神経回路が形成されるプロセスは、脳・神経疾患の理解にも不可欠です。本シンポジウムは、2019 年に開催された前回に続く第2弾として、脳の発達メカニズム、進化の謎、分子レベルの洞察に焦点を当てた議論が展開されました。シンポジウムは2日間にわたり、招待講演、ショートトーク、ポスターセッションで構成され、脳科学の最前線を垣間見ることができました。
「1. 脳の進化と多様性」のセッションでは、神経発生プロセスの種差と共通性やヒト脳の特異的発達メカニズムに焦点を当てた発表がありました。ネアンデルタール人由来の GLI3 遺伝子変異をマウスに導入すると、骨格・神経細胞密度に大きな影響があったという興味深い内容や、ヒト特異的 Notch2NL 遺伝子が脳サイズ増大に寄与し、その変異が小頭症と関連する可能性等の発表がありました。「2. 脳発生における細胞動態と大脳皮質形成」セッションでは、神経幹細胞の多様なサブタイプとそれぞれの細胞での遺伝子発現調節が皮質の拡大としわ形成のパターンを制御することや、「3. 転写因子と神経分化」のセッションは、大脳皮質の発達における転写因子 COUP-TFI、Zbtb20、 NFI ファミリーの役割に焦点を当て、脳領域特異性と境界形成、神経細胞分化の分子メカニズムに関する発表がありました。「4.大脳皮質の発達における一過的な細胞の役割」のセッションではサブプレート(SP)層の進化的な拡大と遺伝子、カハールレチウス(CR)細胞の生と死のメカニズムと病態への影響、成体残存 SP 細胞の役割と認知障害についての知見を共有しました。最後に「5. 神経活動と外部環境因子」のセッションで脳発達の多角的な調節メカニズムに焦点を当て、脳脊髄液の役割と脳進化、神経 -ミクログリア相互作用の活動依存性と性差等について議論しました。
本国際シンポジウムは、脳の発生・進化に関する最先端研究の発表と、世界をリードする研究者間の密接な意見交換の場として実り多きものとなりました。参加者からは、「分野のトップランナーの研究に触れ、深く議論できた貴重な場であった」「2日間の交流を通じて国際的な共同研究の可能性が広がった」といった声が多数寄せられました。
都医学研は今後も、このような国際的な学術交流を通じて、医学研究のさらなる発展と、その成果の社会実装に貢献してまいります。ご登壇、ご参加いただいた皆様に心より感謝申し上げます。

