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2025/6/16

血液のDNAから「がん」を見つける新しい方法

by Masatoshi Muraoka

がんは早く見つけて、早く治すのが大事です。

でもそのためには、早く見つけられる検査が必要です。体に負担の少ない方法が望ましいので、血液や尿などを使った検査が注目されています。

今回は「上咽頭(じょういんとう)がん」(鼻の奥の部分にできるがん)を、血液に含まれるDNAを調べて早く見つける方法を紹介します。

血液の中にあるDNA

血液を詳しく調べると、壊れた細胞から出た「cfDNA(細胞の外にあるDNA)」が見つかります。がん細胞も増えるときにたくさん死ぬので、そのDNAも血液に出てきます。これを「ctDNA(がんから出たDNA)」といいます。

このDNAは少ししかなくても「PCR」という方法で見つけられます。PCRは新型コロナの検査にも使われました。さらに、「次世代シークエンサー」などの機械を使えば、DNAの中身を短時間で詳しく調べられます。

これらの技術を使って、がんを早く見つけたり、薬が効いているかを調べたりする研究が進んでいます。今回の研究では、上咽頭がんが起きる前にそれを予測できる可能性があることがわかりました(1)。

上咽頭がんの原因とウイルス

上咽頭がんには「EBウイルス」というウイルスが関係していることがあります(2)。このウイルスは日本では多くの人(20代で90%以上)が 感染歴を持っていると言われています(3)。日本の上咽頭がんの患者の8〜9割で、このウイルスが見つかっています(4)。

研究の内容

研究は香港のグループが行いました。対象は中国人の男性約2万人(40〜62歳)です。血液を集めてEBウイルスのDNAがあるかをPCRで調べました。数年後にも再検査をして、誰ががんになったかを調べました。

最初に検査したときの血液を保存しておき、がんになった人とならなかった人で、血液中のウイルスDNAの量や性質を比べました。

研究の結果

数年後(約3年半後)、同じ人を検査した結果、最初の検査でPCR陽性だった人のうち、約0.8%が上咽頭がんになりました。一方、陰性だった人でがんになったのは0.1%でした。

次世代シークエンサーを用い、ウイルスのDNAの特徴(大きさや配列など)を詳しく調べると、もっと精度よく予測できることが分かりました。特に、最初の検査でウイルスDNAが見つかり、次世代シークエンサーを用いた詳しいDNA検査でがんの特徴があった人の約9%が数年以内に上咽頭がんになったのです。

感想と今後

今回の結果から、ctDNAの解析によって将来的な上咽頭がんの発症を予測できる可能性が示唆されました。これは、内視鏡などの従来の検査では発見が困難な、微細ながん由来のDNAを最先端の技術によって検出した成果と考えられます。今後、この手法が他のがん種にも応用できるかどうかについての研究が期待されます。