SARS-CoV-2ウイルスに感染すると、まず自然免疫がウイルスに対して、非特異的な攻撃をして私たちの体を守ろうとします。次に炎症を誘導する一群のサイトカインが炎症反応を誘起し、より特異的な免疫反応である獲得免疫を誘導します。この第二弾の免疫応答では抗原特異的な免疫システムにより、ウイルスを除去します。
抗原特異的免疫応答では次の3つのリンパ球細胞が活躍します。
米国の La Jolla Institute for Immunologyの研究者グループは、抗原特異的免疫応答におけるこの3つの細胞の活性化とSARS-CoV-2ウイルス感染による症状重症化との関係を調べるために、症状の程度が異なる50人の患者から血液サンプルを集め、これらの3つの細胞の活性化状態を詳細に調べました。その結果、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞がウイルスの除去や、重症化を防ぐために重要であることが明らかになりました。
研究グループは、患者サンプルを用いて111個の種々のパラメーターの測定を行い、バランスのとれた獲得免疫を有している場合に、重症化のリスクが低くなることを見出しました。特に、SARS-CoV-2ウイルス特異的なT細胞応答が、重症化回避に重要であることがわかりました。逆に、重症化に関与すると言われている、いわゆるサイトカインストームなど新型コロナ感染による病理に、獲得免疫に関与する細胞群が関連しているという証拠は得られませんでした。入院患者および非入院患者の間において、CD8+ T細胞産生サイトカインや、CD4+ T細胞産生のTh2、Th17サイトカインの発現に大きな違いはありませんでした。むしろ、強いCD4+、CD8+T細胞応答と、軽微な症状はよく相関していました。
また、まだ抗原に遭遇したことのないナイーブT細胞の量が減少すると、新しい病原体に対する免疫応答が不全になります。一般に加齢とともにナイーブT細胞の量は減少することが知られており、このために高齢者はウイルスに応答できるT細胞が減弱し、重症化のリスクが増加します。
今回の研究から、抗体産生はSARS-CoV-2ウイルスの除去に重要な役割を担いますが、抗体産生とメモリーB細胞形成に必須のCD4+T細胞および抗原に対する防御機能を発揮するCD8+T細胞の両者の機能がより重要であることが示唆されました。
抗原特異的免疫応答に関与する3種類の細胞、(1)抗体を産生するB細胞、(2)ヘルパーT細胞、(3)キラーT細胞が協調して機能することが、新型コロナウイルスの急性感染期の生体防御に重要です(左)。加齢に伴い、ナイーブT細胞が減少し、これらの協調的作用が失われると、重症化のリスクが高まります(右)。
本研究の成果は9/16付のCell誌に掲載されました。
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