
先生、今日は、新型コロナウイルスがどうやって増えるのか教えてください。

その前に新型コロナウイルスの遺伝情報は何か知ってる?

えっ?DNAじゃないんですか?

実はRNAなのよ。
しかも、二重らせんではなく、1本の鎖からできています。
しかも、その長さは30,000個の文字(3万塩基)からなる、長いRNAです。

まず、新型コロナウイルスがどうやって細胞の中に入って増えるのか見てみましょう。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、ウイルスの殻(から)のまわりに棘(とげ)をいっぱい持っていることを知っていますか?

ええ、新聞などでも、よくこのような絵や写真を見ます。
この棘は何をしてるのですか?

この棘が、細胞の表面にある受容体と呼ばれるアンテナを見つけて細胞の中に入っていきます。(①吸着②侵入)

細胞の中に入ると、殻からRNAが外に出てきます。(③脱殻)
細胞の中でRNAがコピーをつくり(④素材の合成)、ウイルスのRNAがどんどん増えていきます。

増えたRNAは、細胞の中でどうなるのですか?

RNAは、ウイルスの殻の中におさめられて感染できるウイルス粒子となり(⑤組立・成熟)、
細胞を殺して、細胞の外に出てきます(⑥ウイルスの放出・出芽)。

どのくらい、細胞の中で増えるのですか?

一つの細胞から、1,000個くらいのウイルスができてくると想像されています。

そんなに沢山!
でも、まだわからないのは、どうして沢山の変異株がうまれてくるのですか?

それを知るためには、
どうやってRNAが自分のコピーを作るかを勉強しましょう。

さっき言ったように、
新型コロナウイルスの遺伝情報は1本の鎖のRNAです。
この鎖を+(プラス)の鎖と言います。

ウイルスが感染すると、細胞の中では、
まずこの+の鎖を鋳型として、相補鎖(ー(マイナス)の鎖)が作られます。

相補鎖って何ですか?

+の鎖のA、C、G、Uに対してペアをつくる、U、G、C、Aを持つ鎖のことです。

まず、+の鎖をお手本にして、相補鎖であるー鎖が合成されます。
そのあと、できたー鎖をお手本にして+鎖を合成します。


どうしてそんなに面倒くさいことをするのですか?

それは、ウイルス増殖に必要なタンパク質を作るためのmRNAを
たくさん合成しなければならないからよ(Aの経路)。
mRNAは+の鎖なので、これをつくるためには、まず-の鎖を作る必要があるの。

最初の質問に戻りますが、
新型コロナウイルスはなぜ、変わり身が早いのですか?
RNAが増えてゆくことと関係してますか?

その通り。
ーの鎖から、3万塩基の長い、ウイルスゲノムRNA(+鎖)も合成され(Bの経路)、細胞の中でたくさんのウイルス粒子が形成されます。
この過程で、RNAのコピーをつくるのは、RNA依存性RNA合成酵素というタンパク質です。

そのタンパク質は、間違いやすいのですか?

そうなの。でも新型コロナウイルスは、
前回説明した『校正者』も持っているから、
間違いをする確率は、1/20くらいまで下がります。

それでも、間違えてしまうのですか?

残念ながら、新型コロナウイルスの間違えたRNAを修復してくれる『修繕屋』さんは、ありません。そのため、間違いが、比較的頻繁に起こってしまいます。

それに、新型コロナウイルスは30,000文字も遺伝情報を持つので、文字のどこかが変化する可能性は高くなります。

どのくらいの頻度の間違いが起こっているのですか?

1回の感染で約1,000個の子孫ウイルスがつくられます。
したがって、それらの中には何らかの変異ウイルスが含まれると予想されます。

でも、たいてい変異すると増殖できなくなってしまうので、生き残ってくるのはわずかです。生き残ったウイルスでは2週間に1箇所の頻度で、機能に影響を与える変化が生まれていると想像されています。
マスクの着用、手洗いをしっかりしよう!

