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2022/7/19

オミクロンの新しい変異株(BA.2.12.1、BA.4/-5)の免疫逃避について

文責:橋本 款

最近、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株の新しい変異株が流行しています(図1)。昨年の12月からオミクロンBA.1株が流行し、その亜種であるBA.2に置き換わり、現在、世界中でBA.2.12.1、BA.4/-5(BA.4とBA.5はスパイク蛋白の配列が同一である)といった、オミクロンの新たな系統への置き換わりが急速に進んでいます。我が国においてもBA.5への置き換わりにより、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は第7波に入ったようです。東京都においても7月15日の時点で約1.9万人、8月上旬には5万人を超えるだろうと推定されています。オミクロン株は症状が軽度だから、感染者数の増加自体はそれ程大した問題では無いのでは?と思われがちですが、一つの懸念材料は、これらオミクロンの新しい変異株は免疫逃避*1>の性質が強まっている可能性があることです。今回は、BA.2.12.1、BA.4、BA.5といった新系統の亜種が、ワクチンと感染による免疫から逃避する可能性があることを示し、最近NEJMに掲載された論文(文献1)を紹介致します。


文献1.
Hachmann NP, et al., Neutralization Escape by SARS-CoV-2 Omicron Subvariants BA.2.12.1, BA.4, and BA.5. The New England journal of medicine. 2022 07 07;387(1);86-88.


【背景】

昨年末からオミクロンBA.1株が流行し、その亜種であるBA.2に置き換わり、現在、米国ではオミクロン株BA.2.12.1、南アフリカではBA.4やBA.5といった、オミクロンの新たな系統への急速な置き換わりが進んでいる。これら新種のオミクロン変異株は感染力が高いだけでなく、免疫逃避の性質を獲得した可能性がある。

【目的・方法】

この可能性を検討するため、本研究では、ファイザー製ワクチンを2回接種し、その後ブースター接種した27例と、オミクロン株BA.1またはBA.2に感染した27例において、パンデミック初期に米国で初めて分離された従来株(WA1/2020株)、およびオミクロン株BA.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.4、BA.5に対する中和抗体価*2を測定し、比較検討した。

【結果】

  • ワクチン接種グループにおいて、6ヵ月後の中和抗体価は、WA1/2020株に対して124U/mLであったが、すべてのオミクロン株亜種に対しては低値(20U/mL未満)であった。ブースター接種後2週間の時点における中和抗体価は、WA1/2020株に対して5,783U/mL、BA.1に対して900U/mL、BA.2に対して829U/mL、新系統のBA.2.12.1に対して410U/mL、BA.4またはBA.5に対して275U/mLとなり、いずれもブースター接種後は中和抗体価が大きく増加した。しかしながら、WA1/2020株に対する中和抗体価と比較すると、BA.1やBA.2は6~7分の1に低下した一方で、BA.2.12.1は14分の1、BA.4とBA.5は21分の1に中和抗体価が大幅に低下した。
  • オミクロン株BA.1またはBA.2に感染の既往歴があるグループの中和抗体価は、WA1/2020株に対して11,050U/mL、BA.1に対して1,740U/mL、BA.2に対して1,910U/mL、BA.2.12.1に対して1,150U/mL、BA.4またはBA.5に対して590U/mLであった。WA1/2020株に対する中和抗体価と比較すると、BA.1は6.4の1、BA.2は5.8分の1、BA.2.12.1は9.6分の1、BA.4とBA.5は18.7分の1に低下した。

【結論】

本研究により、オミクロン株新系統のBA.2.12.1、BA.4、BA.5は、ワクチン接種と感染による免疫から逃避しやすいことが示された。したがって、ワクチン接種や、BA.1やBA.2の感染既往のある集団においても、BA.2.12.1、BA.4、BA.5への感染が増加する可能性が考えられた。

用語の解説

*1. 免疫逃避
本来、ワクチンを接種した後は、中和抗体の量が増えて”盾”のようにウイルスから体を守る役目を果たすが、免疫逃避とは、その中和抗体が十分に働かなくなることをいう。
*2. 中和抗体価
ウイルスを失活させる作用があるものを特に中和抗体と呼び、血液検査で測定できるこの中和抗体の量をウイルス抗体価と呼ぶ。コロナウイルスを例に取れば、ワクチンを接種した後のコロナウイルス感染への抵抗力を見るためには、その中和抗体であるSタンパク質抗体の抗体価を測定すれば良いということになる。

今回の論文のポイント

  • 現時点ではオミクロン株亜種;BA.2.12.1、BA.4、BA.5, の重症度、致死率に関するデータは、まだ、出ていません。いずれにせよ、変異が繰り返されていくうちに、感染力が高く、重症度、致死率が高い変異株でワクチンを免疫逃避するものが登場する可能性があることを念頭に置くべきでしょう。
  • ワクチンや抗体などの免疫学的方法でSタンパク質と受容体(Angiotensin converting enzyme; ACE)の融合を阻害する(図1)ことが主な治療戦略ですが、それ以外の治療法を開発する必要があると思われます。

文献1
Hachmann NP, et al., Neutralization Escape by SARS-CoV-2 Omicron Subvariants BA.2.12.1, BA.4, and BA.5. The New England journal of medicine. 2022 07 07;387(1);86-88.