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一般向け 研究者向け 査読前論文

2022/8/9

抗ウイルス薬パクスロビドによるCOVID-19治療後のリバウンドについて

文責:橋本 款

Paxlovid(パクスロビド)*1 は、米国Pfizer(ファイザー)社から販売されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口抗ウイルス治療薬です(COVID-19の経口治療薬; 2022 1/27)。パクスロビドは、米食品医薬品局(FDA)から緊急使用の承認を得たCOVID-19治療薬の中でも、重症化を防ぐ効果があり、副作用も少なく多く処方されています。しかしながら、最近、パクスロビドによる治療を受けた患者さんに、かなりの頻度でCOVID-19の再燃化 (リバウンド) *2 が見られたことが問題になっています(図1)。アメリカのバイデン大統領もリバウンドを経験した一人です。大統領は先月21日、新型コロナ陽性となり軽い症状があったため、パクスロビドを服用した結果、27日の検査では陰性となりましたが、30日に再び陽性と確認されました。体調はよく、ホワイトハウス内で隔離されながら執務を続けていると報告されています。パクスロビドは、日本でも今年2月に特例承認されており、我々にも影響があると思われます。そこで、今回は、米退役軍人省所管の医療機関とコロンビア大学などの研究者からなるチームがパクスロビドを服用した後にリバウンドした患者さんについて調査した結果のCase reportがリサーチスクエアにプレプリント(査読前論文)(文献1)として掲載されましたので報告いたします。


文献1.
Michael Charness et al., Rapid Relapse of Symptomatic Omicron SARS-CoV-2 Infection Following Early Suppression with Nirmatrelvir/Ritonavir, Research Square Posted May23rd 2022


【要約】

パクスロビドを服用して治癒後にリバウンドした患者さん10人(31~71歳、免疫機能に異常なし、ワクチン・ブースター接種済)について調査した。ほとんどの患者さんは、パクスロビド服用後に急速に治癒(PCR陰性、症状改善)したように見えたが、9-12日目にはリバウンド(PCR陽性、症状再燃)した。リバウンドの症状は、ほとんどの場合、感冒様と述べられたが、何人かは疲れやすさと頭痛の再燃を経験した。全ての場合、さらに抗ウイルス剤を追加する事なく、解決した。ウイルス量は最初の感染時と同程度で、3人の患者さんから得られたシークエンスのデータは、治療により出現した変異では無く、さらに、異なる種のウイルスが感染したものでもないことを示していた。発症した患者さん1人、また、発症前の患者さんより、リバウンド期間に家族に伝染したことが確認された。以下に、何人かの例を述べる。

  • 間欠的な喘息発作のある71歳の男性;ある日、鼻漏、喉の痛み、喘息、咳、倦怠感、不安感、悪心、発熱(38.4°C)の症状が出てSARS-CoV-2抗原検査陽性となり、パクスロビドを12時間おきに5日目の朝まで服用した。0~1日目フルチカゾン(コルチコステロイド)440 μgを気管支吸入し、アルブテロール(気管支拡張剤)を頻回、吸入した。症状は急速に改善し、1日目には軽い鼻漏と喘息を残すのみとなり、2~8日目は完全な寛解状態になった。9日目には、まだ隔離状態にあったが、再度、鼻漏、喉の痛み、喘息などの典型的な感冒様症状が出現し、10日目にピークを迎えたが、12日目までに消失した。経鼻からのPCR解析のCt値と抗原テストの結果は、症状と平衡して1日目と9日目に明らかなピークを迎えた。抗原テストは16日目〜35日目陰性であった。10日目には、SARS-CoV-2以外の21種類の呼吸器系のウイルスは陰性であった。シークエンスのデータは、98%のBA.1.20に見出せるnsp5プロテアーゼのP132H変異は存在し、nsp6プロテアーゼのI273T変異は、1日目はヘテロで3- 5日目の間にホモになった。血清中の抗スパイク抗体は陽性になり、21日目においても抗ヌクレオカプシド抗体は高値だった。
  • 2つの症例でリバウンド期間に家族が感染した。63歳の男性は、リバウンドの3日間、2人の家族(女)に接触し、2人とも症状が出てコロナ陽性になった。67歳の男性はリバウンドの症状の出る8-10時間前に6ヶ月の孫(男)と15~30分接触した結果、男の子は3日後に発症し、男の子の両親もさらに3日後に発症した。3人とも抗原テスト陽性でウイルス量は高値を呈した。

【結論】

リバウンド期間においても、ウイルス量は高値で、伝染性がある事から、少なくとも、抗原テストが陰性になるまで患者さんを隔離する必要がある。

用語の解説

*1.
パクスロビドは、ファイザーの新たな抗ウイルス剤(PF-07321332; コロナウイルスの増殖に必要な「3CLプロテアーゼ」と呼ばれる酵素の活性を阻害)と抗HIV薬「リトナビル」を配合したものである。
*2.
リアルタイムPCR解析において、Threshold Cycle(Ct)は、反応の蛍光シグナルがThreshold Lineと交差する時点のサイクル数である。Ct値はターゲットの初期量に反比例するため、DNAの初期コピー数の算出に使用できます。例えば、異なる量のターゲットを含むサンプルからの結果を比較する場合、2倍の初期量を含むサンプルは、増幅前に半分のコピー数のターゲットしか含まないサンプルよりもCt値が1サイクル早くなる。

今回の論文のポイント

  • リバウンドしても重篤になる可能性は少なそうですが、治ったと勘違いして周囲の人への感染源になってしまうことがあります。さらに、リバウンドが無症候性の可能性もあり注意が必要です。
  • リバウンドのメカニズムは不明ですが、後遺症のメカニズムと併せて、早期の解明が望まれます。

文献1
Michael Charness et al., Rapid Relapse of Symptomatic Omicron SARS-CoV-2 Infection Following Early Suppression with Nirmatrelvir/Ritonavir, Research Square Posted May23rd 2022