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都医学研の新型コロナウイルスに関する研究 新型コロナウイルスに関する最新情報


2020/08/17

パパイヤに含まれるタンパク質分解酵素に似たタンパク質は抗新型コロナウイルス薬の有力な標的である

文責:正井 久雄

タンパク質分解は、単に不要・有害分子の除去を行うだけではなく、その材料であるアミノ酸のリサイクル、さらに細胞の増殖・分化・そして種々の生体機能を制御することが明らかとなっています。代表的なタンパク質分解システムとしては、プロテアソームとオートファジーシステム、さらに、より特異的なタンパク質の分解をおこなう、カルパインなどが知られております。当研究所でも、これらのタンパク質分解システムのメカニズムや病気との関連について、世界最先端の研究が行われています(蛋白質代謝プロジェクト、ユビキチンプロジェクト、カルパインプロジェクト)。

30kbのSARS-CoV-2のRNAゲノム上には26個のタンパク質がコードされています。面白いことに、これらのタンパク質の多くは大きな一続きのタンパク質(ポリペプチド)として合成され、のちにプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)により切断され、成熟したタンパク質となります。この分解には2つのプロテアーゼ、メインプロテアーゼ(Mpro/3CLpro; 非構造タンパク質5, nsp5)とパパイン様プロテアーゼ(PLpro,nsp3の一部)が、関与します。パパインは、その名の通り、パパイヤ(特に未成熟の青パパイヤ)の中に多く含まれるシステインプロテアーゼに分類されるタンパク質分解酵素です。

ウイルス感染時に宿主は、自然免疫系を活性化させ、免疫機能を増強させます。その代表的な経路はI型インターフェロン経路およびNF-κB経路です。ウイルスは、宿主のこの免疫防御システムを打ち破るために色々な手管を用います。7/30にon lineでNature誌に発表された論文において、上記のウイルス由来プロテアーゼの一つ、パパイン様プロテアーゼが、宿主の自然免疫系を阻害することが明らかになりました。

インターフェロン経路においてIRF3 (Interferon responsive factor 3)は、インターフェロン刺激依存的に合成されるユビキチン様分子ISG15が連結されることが知られています。一方、SARS-CoV(2003年に流行したコロナウイルス)の研究から、パパイン様プロテアーゼはユビキチンとISG15を分解する能力があることが知られていました。SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のパパイン様プロテアーゼは、SARS-CoVのそれとおよそ83%の相同性を示しますが、今回の研究から、ISG15により強く結合し、これを分解することが明らかとなりました。SARS-CoV-2-ISG15の複合体の結晶構造解析からも、SARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼがユビキチンより、ISG15に選択的に結合する構造的基盤が明らかになりました。

SARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼは、IRF3 に連結されたISG15を分解します。これにより、IRF3やTBK1 (Tank-binding kinase 1; NF-κB経路の活性化因子)のリン酸化が減少し、I型インターフェロン経路を抑制します。このように、SARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼは、SARS-CoVよりも、選択的かつ強力に自然免疫反応に重要なISGylation(ISG15の連結)を阻害することにより、SARS-CoV-2は宿主の免疫防御システムから逃れていることが明らかになりました。

さらに、著者らは,すでにSARS-CoVのパパイン様プロテアーゼを阻害することが知られていたGRL-0617という薬剤の抗ウイルス活性を検証しました。まず彼らは、GRL-0617がSARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼの保存されたTyr268に結合することにより、ISG15が触媒活性部位に入り込むのを阻害することを示しました。また、GRL-0617は細胞でパパイン様プロテアーゼの活性を阻害し、自然免疫系の活性化に重要な、IRF3, TGK1, p65などのタンパク質のISGylationを増加させることを明らかにしました。さらに、細胞レベルの感染実験で、GRL-0617はウイルスの複製を阻害し、ウイルス粒子の産生を阻害しました。

パパイン様プロテアーゼの阻害剤は、宿主の自然免疫防御システムのウイルスによる破壊を抑えるのみでなく、ウイルス複製に必要な非構造タンパク質の成熟過程も直接阻害することにより、ウイルスの増殖そのものも抑制するという、二重の抗ウイルス機構を有する点で、とても有効な抗ウイルス剤になる可能性を秘めていると著者らは述べています。