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都医学研の新型コロナウイルスに関する研究 新型コロナウイルスに関する最新情報


2020/09/01

新型コロナウイルス感染により産生される抗体は、なぜ長期間にわたり維持されないのか?

文責:正井 久雄

新型コロナウイルス(以下SARS-CoV-2)感染により抗体が体内にできても、数ヶ月で消失してしまう可能性が指摘されています。そのメカニズムは不明でしたが、8/19にCell誌に発表された論文で、SARS-CoV-2はある種のサイトカインを増産することにより、“良い”抗体が産生されないようにしていることが明らかとなりました。

SARS-CoV-2感染患者の解析から、これらの患者の液性免疫(抗体)は短期間しか維持されず、抗体の多様性をもたらす体細胞突然変異(somatic hypermutation)も限定されていることが明らかになっておりました。今回の研究により、なぜSARS-CoV-2がもたらす免疫の質が低いのか、そのメカニズムの一端が解明しました。

長期間にわたり免疫を記憶し、高親和性の抗体を産生するためには、二次免疫組織(リンパ節・脾臓)に形成される胚中心(Germinal Center)*が重要な役割を果たします。胚中心では、抗原刺激を受けたCD4+T細胞である濾胞性ヘルパーT細胞**, ***が分化し形成されます。

MIT/HarvardのRagon研究所のグループは、今回の研究で、マルチカラー蛍光染色と多スペクトルイメージングにより、SARS-CoV-2感染患者の剖検サンプルや末梢血を解析しました。その結果、重症患者においては、Bcl-6陽性胚中心B細胞と Bcl-6陽性濾胞性ヘルパーT細胞が顕著に低下していることが明らかとなりました。Bcl-6は胚中心形成に必須な因子であることが知られています。

以前のマラリア感染のモデルマウスの研究から、胚中心形成の障害はTNF-αを阻害することにより改善できることが知られていました。これらの研究では、サイトカインやケモカインレベルの亢進が、胚中心の形成を抑制することを示していました。

本研究により、感染により死亡した患者のリンパ節や脾臓ではTh1細胞****が大量に存在し、濾胞性ヘルパーT細胞の分化の場であるリンパ節に、TNF-αが高いレベルで存在することがわかりました。このことから、SARS-CoV-2感染患者において異常産生されたTNF-αが、胚中心形成を阻害している可能性が強く示唆されました。

胚中心が形成されない状態では、SARS-CoV-2に感染しても免疫の長期記憶の形成がされないために、抗体による免疫防御は短期間しか継続せず、一度感染した患者が、数ヶ月後に再び、あるいは複数回感染する可能性があります。したがって、SARS-CoV-2の自然感染によっては、強力な抗体が形成されず、しかも、長く維持されないため、集団免疫(herd immunity)は有効に機能しない可能性もあると著者らは考えています。

同時に、著者らは、ワクチンは、サイトカインストームを誘導しないので、胚中心形成を誘導し、高品質の抗体産生をもたらし、長期間にわたる、新型コロナウイルスからの防御をもたらすのではないかとも述べています。

語句説明

  • *胚中心(Germinal Center):免疫応答の際に二次免疫組織(リンパ節や脾臓)につくられる微小構造。この場所で、成熟したB細胞が増殖、分化するとともに、変異の生成により抗体の多様性が形成される。
  • **ヘルパーT細胞:免疫系を構成する細胞の中で、T細胞は免疫系の反応を制御する役割と体内に進入してきた異物を攻撃する役割を担います。その中で免疫反応を制御するT細胞集団がヘルパーT細胞であり、産生するサイトカインや担う機能によりさらにTh1(細胞内寄生細菌、ウイルス排除)、Th2(寄生虫感染防御)、Th17(細胞外細菌排除、自己免疫疾患)、Treg(免疫寛容)、Tfh(抗体産生)などに分類される。
  • ***濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞):CD4陽性ヘルパーT細胞のサブセットの一つであり、二次リンパ組織の胚中心にてB細胞の抗体のクラススイッチや親和性の向上に関わる。
  • ****Th1細胞:IFN-γやIL-2、TNF-αを産生して,細胞が直接進入異物を攻撃する細胞性免疫を促進する。


謝辞:

本稿を執筆するにあたり、ゲノム動態プロジェクトの井口智弘研究員に、原稿の検閲並びに加筆をしていただきました。ここに感謝いたします。