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研究者向け

2020/09/08

新型コロナウイルスの症状の多様性とウイルスの受容体の関係

文責:正井 久雄

新型コロナウイルス感染症によって引き起こされる症状や、障害を受ける臓器は極めて多岐にわたります。これは、SARS-CoV-2が、細胞に感染する際の入り口の ウイルス受容体として使用するACE2(angiotensin-converting enzyme 2)の発現分布と関連することが、最近の報告から明らかとなりました。

SARS-CoV-2感染の約3%のケースで、免疫系の過剰反応によるサイトカインストームが誘導され、多臓器疾患が観察されます。また、SARS-CoV-2感染患者では、嗅覚の消失、味覚の変化、運動障害、吐き気、頭痛など神経系の障害が観察されることがあります。

SARS-CoV-2はACE2を介して細胞に取り込まれますが、ACE2は、呼吸器系の2型肺胞細胞、腸上皮細胞、内皮細胞、眼や腎臓の上皮細胞、肺胞単球細胞やマクロファージなど一部の免疫細胞、大脳皮質、脳幹などの神経系細胞などにも広く発現されています。

米国、Louisiana State Universityの研究者らは、ACE2の発現を、脳内の21個の領域を含む、85のヒトの組織において詳しく解析しました。ACE2はほとんど全ての組織で普遍的に発現されていますが、特に、血管、消化管、呼吸器、排泄系、生殖系の細胞で高い発現が確認されました。SARS-CoV-2は、ACE2の幅広い発現を利用して、種々の細胞に入り込み、増殖し、その機能を撹乱するものと思われます。

ACE2は、扁桃体、大脳皮質、脳幹において強く発現されており、SARS-CoV-2感染により引き起こされる認知機能障害と関連するかもしれません。ACE2は、脳幹の橋と延髄で最も強く発現されています。ここは、延髄呼吸中枢を含む領域であり、SARS-CoV-2感染患者に見られる呼吸器系の障害を説明するかもしれない、と著者らは述べています。

また、ACE2は眼で強く発現されていることもこの論文で報告されており、眼はSARS-CoV-2感染の入り口になりうるということです。したがって著者らは、眼鏡やフェースシールドは感染防御に有効ではないかと述べています。

新型コロナウイルスの脅威は、高い感染性と死亡率のみではなく、感染により、同時に、多くの細胞、組織、臓器に多面的な攻撃を仕掛けることです。特に、脳や、中枢神経系の細胞の統合的な障害を引き起こします。

今回の報告は、今後、SARS-CoV-2感染の症状の多様性を説明する第一歩となるものです。