最近は、新型コロナ感染症(COVID-19)の重症化率は下がってきましたが、後遺症の問題は増加しています。これまで、新型コロナ後遺症で多いのは、喀痰・咳嗽、倦怠感、筋力低下や嗅覚・味覚障害障害などで、記憶障害も起こりやすいことが知られています。これらの後遺症は、年齢や既往症、基礎疾患の有無、コロナ発症時の重症度、変異株の種類に関わらず、コロナに罹患した全ての人に起こる可能性があるので重要な問題であり、そのメカニズムを明らかにして治療法を確立する必要があります。この様な背景で、今回は、PEMに関する最近の話題を取り上げます。PEMとは、ちょっとした身体的・精神的・感情的な労作後、数時間・数日以内に急激に強い倦怠感が出てしまうという症状のことで、コロナ後遺症や慢性疲労症候群の主症状であり(図1)、コロナ後遺症に苦しむ人々が日常生活を送ったり、仕事に復帰したりする上での大きな妨げの原因になっています。また、慢性疲労症候群は現代社会において深刻な問題になっていますが、メカニズムは不明であり治療法は確立されていません。この様な状況で、オランダ・アムステルダム大学の研究チームは、新型コロナ後遺症におけるPEM発症の誘導に、筋組織においてミトコンドリアの機能が低下していることを示し(図1)、Nature Communicationsに報告しました(文献1)。今回の研究結果は、新型コロナ後遺症や慢性疲労症候群の患者において代謝・筋肉・免疫機能に異常があることを示す研究が増えていることを裏付けるものであり、コロナ後遺症や慢性疲労症候群において、ミトコンドリアを標的にした治療法を開発することが症状の改善に役立つかも知れません。
文献1.
Muscle abnormalities worsen after post-exertional malaise in long COVID, Appelman B et al. Nature Communications vol. 15, Article number: 17 (2024)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した人のうち、いく人かのサブグループは、3ヶ月以上経っても、PEM、すなわち、ちょっとした身体的・精神的・感情的な労作後に急激に強い倦怠感が出てしまうという症状が続くことが知られている。しかしながら、その根底となる病態生理メカニズムは不明であり、それを理解することを本研究の目的とする。
新型コロナ後遺症におけるPEMのメカニズムを理解するため、ケースコントロール縦断研究*3臨床治験ID (NCT05225688)を行った。具体的には、コロナ後遺症の患者25人と、COVID-19になったもののコロナ後遺症にはならなかった被験者21人を集めて被験者に対し、エアロバイクを10~15分間こぐサイクリングテストを行わせ、テストの1週間前と翌日に骨格筋の生検を実施し、血液サンプルを採取した。被験者はいずれも生埴年齢であり、COVID-19による入院歴は無く、発症する前は健康であった。
今回の研究結果は、コロナ後遺症や他の慢性疲労症候群の患者において代謝・筋肉・免疫機能に異常があることを示す研究が増えていることを裏付けるものであり、ミトコンドリアを標的にした治療法が、症状の改善に役立つ可能性を示唆している。