新型コロナウイルスに感染した患者さんでは、どのくらい長く免疫が持つのでしょうか?これは、ワクチン開発にも大きく関連する重要な問題です。10月28日号のScience誌の論文に、今後のワクチン開発や治療にとって朗報と言える報告がされました。
30,000個以上のSARS-CoV-2陽性のサンプル解析の結果、新型コロナウイルス感染患者の大部分が、中レベルから高いレベルのSpikeタンパク質に対する抗体を5カ月以上にわたり保持していることがわかりました。
新型コロナウイルスの感染時に誘導される抗体反応の強度、継続、そして機能は、再感染があるかないかを判断する上で重要な事項です。ヒトに感染する、よくあるタイプのコロナウイルスについてのこれまでの研究から、何年も長持ちし、再感染を防止する中和抗体が形成されているという結果が報告されています。さらに、回復した患者の血清や、中和効果を持つモノクローナル抗体を、動物に投与することにより、ウイルスの複製を顕著に阻害し、感染を防御することがすでにわかっています。
この論文では、ニューヨーク市のMount Sinai Health SystemのリサーチグループがSARS-CoV-2に対する体液性免疫反応について、大規模な調査を行いました。
SARS-CoV-2のSpikeタンパクの三量体を用いたenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)アッセイにより、SARS-CoV-2に対する抗体の検定を行いました。
Mount Sinai病院の研究チームは、2020年3月から10月初旬までに 72,000人以上の感染者を検査し、その中の30,000人の抗体陽性者の抗体について解析を行いました。その結果、7%が、低い力価(1:80 or 1:160)、22%は中程度の力価、1:320)、そして、70%は高い力価(1:960 and 1:2880)の抗体を有していることが明らかとなりました。すなわち、SARS-CoV-2感染の後に、抗体を産生しない感染者は少ないことを示します。
次に、研究者は、SARS-CoV-2ウイルスを用いたmicroneutralization アッセイ(細胞を用いた感染実験)により、種々の力価を示した120の抗体サンプルを用いて、Spikeタンパク質の中和活性を調べました。その結果、低、中、高力価の抗体サンプルは、それぞれ、その50%、90%、100%が中和活性を示しました。抗体の生体内での寿命を測定するため、研究者は、さらに二度にわたって継時的に、同じ患者さんの抗体力価を測定しました。最初の測定は症状が発生してから33-67日、2度目の測定は52-104日、3度目は113-186日で行われました。力価は、2度目、3度目と低下しましたが、力価の高い抗体サンプルは、減少の程度がゆっくりでした。全体として、ほとんどの抗体力価は3カ月間にわたり安定で、5カ月の時点でも、低下はするが、十分なレベルで維持されていました。
最初の検査で検出された抗体は、侵入してきたウイルスに最初に応答する形質芽細胞により産生され、その後維持されている抗体は、骨髄の寿命の長い形質細胞により産生されていると思われます。これは、他のウイルスに対する免疫応答と同じです。研究者は、さらに長期にわたって同じ患者群の抗体を調べる予定です。このように長期にわたり維持される抗体が、再感染を防ぐ能力があるかどうかは今後の研究を待たねばなりません。
この研究に携わった研究者は、軽度から中度の症状を示した感染者の90%以上はウイルスを中和できる抗体を産生しており、その抗体は、何カ月にもわたって維持されていると結論しています。これは、これまでの、『SARS-CoV-2に対する抗体は、産生された後に、数週間以内に消失する』という報告を否定するものですが、一般社会における抗体のセロタイプ(血清型)のモニタリングやワクチン開発に希望を持たせるものです。