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2021/7/6

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とα-シヌクレイノパチー

文責:橋本 款

COVID-19は高齢者に重症化しやすく、また、重症度がApolipoproteinE4 にリンクすることから、COVID-19がアルツハイマー病に促進的に働くことが明らかにされてきました。他方、COVID-19のパーキンソン病(PD)に対する効果に関しては比較的少ない症例数の解析しかありませんでしたが、今回は、国全体レベルの大規模な横断的研究を報告した臨床論文(文献1)を紹介します。


文献1.
Scherbaum R et al., Clinical Profiles and Mortality of COVID-19 Inpatients with Parkinson's Disease in Germany, Mov Disord 2021; 36:1049-1057.


背景

介護福祉施設でCOVID-19が発生した場合、入居者および職員をCOVID-19から守るために予防的介入が必要である。これまでの研究結果により、モノクローナル抗体薬のbamlanivimabは、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19発症に対し速やかな予防効果を発揮することが期待される。

ドイツ国内においてPDで入院している患者を対象にして、PDに対するCOVID-19の影響についての解析を全国的な規模で行なう。

方法・結果

  • 2020年1月16日から5月15日までの間に合計30, 872件のCOVID-19陽性症例を含む1,468の病院(5,210,432の患者)をカバーする行政請求データベースを使用して横断的研究を実施した。
  • 2019年に比べて2020年におけるPDによる入院は一時的に減少した(72.7%)。
  • COVID-19の頻度は、特に65歳以上において、64,434人のPD患者中693人がCOVID-19陽性で非PD患者よりも有意に高かった(1.1%対0.6%, P<0.001)。
  • COVID-19陽性のPD患者の方がCOVID-19陰性のPD患者よりも高齢・男性が多く、また、COVID-19の併存疾患に関しては、高血圧や慢性腎臓病がCOVID-19陽性のPD患者に多かった。
  • COVID-19患者の死亡率は、非PD患者よりもPD患者の方がはるかに高かった(20.7%対35.4%, P<0.001)
  • 特に注目すべきことに、75から79歳のPD患者で、2019年よりも2020年の方が死亡率は有意に高かった
    (4.9%対5.7%, P<0.001)。

結論

PD患者は非PDの患者に較べてCOVID-19の影響を受けやすく、死亡率も高かった。PDにおける COVID-19のリスクと死亡率に関する併存疾患の重要性を評価するには、より包括的な研究が必要である。

少数の症例の解析ですが、レビー小体型認知症や多発性萎縮症においてもCOVID-19によって病態が促進したという報告がありますので、恐らく、COVID-19はα-シヌクレイノパチー全般的に促進するのではないかと思われます。また、ごく最近の報告(文献2)によれば、マカクサルへのSARS-CoV-2感染させた結果、無症候性にもかかわらず、レビー小体の形成と炎症が認められました。このことから、SARS-CoV-2がα-シヌクレインの凝集に対して促進的に働く可能性が推定されますが、その機序に関して(直接的または間接的か、α-シヌクレインに特異的か他のアミロイド蛋白ではどうかなど)、今後の研究が必要です。


文献1
Scherbaum R et al., Clinical Profiles and Mortality of COVID-19 Inpatients with Parkinson's Disease in Germany, Mov Disord 2021; 36:1049-1057
文献2
Philippens IH et al., SARS-CoV-2 causes brain inflammation and induces Lewy body formation in macaques, bioRxiv May05, 2021