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2021/6/29

COVID-19の抗体治療

文責:橋本 款

一般的に、抗体を投与する受動免疫療法は、ワクチンによる能動免疫療法に較べて効果が継続しませんが、ワクチンより早期に開発でき、早く治療効果を期待できるという利点があります。また、乳幼児や高齢者、そして免疫障害をもつ人のように、ワクチンがあまり効果を発揮しない場合、抗体治療は防御策になります。また、すでに新型コロナウイルスに感染している人には、ワクチン接種は手遅れでも、抗体の投与は治療に役立つ可能性があります。今回は、新型コロナ抗体薬bamlanivimabが第3相試験において、単剤投与で発症予防効果が認められたという論文を紹介致します。


文献.
Cohen MS et al., Effect of Bamlanivimab vs Placebo on Incidence of COVID-19 Among Residents and Staff of Skilled Nursing and Assisted Living Facilities: A Randomized Clinical Trial, JAMA 2021 Jun 3;e218828.


背景

介護福祉施設でCOVID-19が発生した場合、入居者および職員をCOVID-19から守るために予防的介入が必要である。これまでの研究結果により、モノクローナル抗体薬のbamlanivimabは、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19発症に対し速やかな予防効果を発揮することが期待される。

方法

介護付き有料老人ホームの入居者と職員を対象とした無作為化二重盲検プラセボ(placebo)対照第III相試験「BLAZE-2試験」;bamlanivimab単剤のCOVID-19発症予防効果をplaceboと比較

2020年8月2日~11月20日の期間に、SARS-CoV-2感染例が1例以上確認された米国の介護付き有料老人ホーム74施設の入居者および職員を登録し、計1,175例をbamlanivimab 4,200mg単剤静脈内投与群(588例)またはplacebo群(587例)に無作為に割り付けた。全参加者が試験開始から57日目に達した2021年1月13日にデータベースがロックされた。

主要評価項目は、無作為化後8週間以内のCOVID-19累積発症率であった。COVID-19発症は、RT-PCR検査によるSARS-CoV-2検出、かつ検出後21日以内の疾患重症度が軽度以上と定義した。

有効性の解析対象は、ベースラインでRT-PCRおよび血清学的にSARS-CoV-2陰性の966例(職員666例、入所者300例)であった(平均年齢53.0歳[範囲:18~104]、女性722例[74.7%])。

結果

bamlanivimab群はplacebo群と比較して、COVID-19発症率が有意に低下した(8.5% vs.15.2%、オッズ比:0.43[95%信頼区間[CI]:0.28~0.68]、p<0.001、絶対リスク差:-6.6%[95%CI:-10.7~-2.6])。投与開始後57日間におけるCOVID-19による死亡は5例報告され、すべてplacebo群であった。

安全性解析対象集団1,175例において、有害事象の発現率はbamlanivimab群20.1%、placebo群18.9%であった。主な有害事象は、尿路感染症(bamlanivimab群2%、placebo群2.4%)、高血圧症(bamlanivimab群1.2%、placebo群1.7%)であった。

結論

bamlanivimab単剤療法は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生を低下させることが認められた。さらなる研究で、モノクローナル抗体薬の併用療法について、現在のウイルス株に対する予防効果を評価する必要がある。

抗体治療と言えば、最近、アルツハイマー病(AD)の新薬アデュカヌマブ(βアミロイドに対するモノクローナル抗体)が治験で認知機能の改善効果がなかったにもかかわらず、FDAに迅速承認されました。ADでは、当初、βアミロイドを用いた能動免疫(ワクチン療法)が行なわれましたが、副作用のために頓挫しました。また、β-/γセクレターゼ阻害剤などを中心にした治療薬開発も成功しませんでした。COVID-19に関しては、レムデシビル(ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害薬、エボラ出血熱の治療薬として開発されてきた)が治療薬として迅速承認されたにもかかわらず、その後、効果がないと判断されました。このように、ワクチンと抗体では、COVID-19がADよりも優勢ですが、治療薬においては、両疾患ともあまり進んでいません。神経変性疾患のADと感染症のCOVID-19は、一見異なったように見えますが、いずれもapolipoprotein E4にリンクする高齢疾患であり、炎症やリソソーム・オートファジー系が病態に関係することなど、それらの病態は類似しているのは興味深いところです。両疾患は治療においても重複する面が出てくるかも知れません。


文献
Cohen MS et al., Effect of Bamlanivimab vs Placebo on Incidence of COVID-19 Among Residents and Staff of Skilled Nursing and Assisted Living Facilities: A Randomized Clinical Trial JAMA 2021 Jun 3;e218828.