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2021/7/20

神経系におけるLong COVID-19

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの回復は、必ずしも、以前の健康状態への復帰を保証するものではありません。特に脳、心臓や腎臓に多系統の損傷を負った人には、それが永続的な機能障害となり慢性疾患へと移行することがあり、Long COVID-19として知られています。神経系では回復後に起こる疾患として、筋肉痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群が知られていますが(文献1)、COVID-19の患者および生存者は神経学的症状にも苦しめられ、今後、神経変性疾患の発症が増加することが懸念されます。したがって、その病理学的メカニズムに関する理解が不可欠です。この問題に関して、Wyss-Corayのグループは、脳、脈絡叢のサンプルのトランスクプリトームのプロファイリングに免疫組織化学を組み合わせて解析した結果、COVID-19による神経病理所見がこれまでに認知症などの神経変性疾患で報告されてきたものに重複する部分が多いことを確認しました(文献2)。詳細は原論文を参照してください。


文献1.
Koimaroff AL and Bateman L, Will COVID-19 Lead to Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome?, Front. Med., 18 January 2021.Opinion article

COVID-19が筋痛症性脳脊髄炎/慢性疲労候群を引き起こすことを述べた総説論文です。

文献2.
Yang AC et al. Dysregulation of brain and choroid plexus cell types in severe COVID-19, Nature (2021) Published: 21 June 2021


背景

現地点において、COVID-19が患者の脳に影響を与える細胞および分子プロセスに関する理解が欠けているのでそれらを明らかにする必要がある。

方法

14人のコントロール(末期インフルエンザの1人を含む)とCOVID-19患者の8人より前頭皮質と脈絡叢より、65,309の単一核トランスクプリトーム(RT-PCR)のプロファイリングを、さらに隣接する組織由来の切片に関して免疫組織化学による解析を行なった。

結果

  • 脳内にSARS-CoV-2の分子痕跡は得られなかったが、脈絡叢のバリア細胞が末梢の炎症を感知して脳に中継し、末梢T細胞が脳実質に浸潤していることを示す広範な細胞摂動を観察した。
  • ヒトの神経変性疾患で以前に報告された病理学的細胞状態と特徴を共有するCOVID-19に関連するミクログリアとアストロサイトの亜集団を発見した。
  • ヒトで進化的に拡張され、認知機能にリンクする上層興奮性ニューロンのシナプスのシグナル伝達はCOVID-19で有意に影響を受けた。
  • 細胞全体でCOVID-19に関連する摂動は慢性的な脳障害に見られるものと重複し、認知症、統合失調症、鬱病に関連する遺伝的変異に存在した。

結論

我々の結果と公開データセットは、COVID-19関連の神経疾患、および後日出現する可能性のあるそのような疾患の現在の観察結果を理解するためのフレームワークを提供する。

COVID-19による炎症の亢進が慢性炎症を伴う高齢期の神経疾患を促進する可能性を示したものでタイムリーな論文だと思われます。Apolipoprotein E4について述べられていないことを考慮すると、COVID-19の重症度とApolipoprotein E4がリンクするという結果(Kuo et al, J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2020)は今回の結果に反影されていないのか気になるところです。


文献1
Koimaroff AL and Bateman L, Will COVID-19 Lead to Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome?, Front. Med., 18 January 2021.Opinion article
文献2
Yang AC et al. Dysregulation of brain and choroid plexus cell types in severe COVID-19, Nature (2021) Published: 21 June 2021