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研究者向け

2021/7/27

東アジアにおける古代のコロナウイルスの流行

文責:橋本 款

近年の技術革新により膨大な遺伝子情報が蓄積され,大規模なゲノム解析の研究が多くの生物学的現象に対して行なわれるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の研究に関連して興味深いのは、現代の我々のゲノムには数万年前に遡る遺伝情報が含まれており、古代ウイルスの流行は宿主DNAの適応を通じて特定することが可能なことです。今回紹介する論文では、コロナウイルスと相互作用するヒト遺伝子をヒトゲノムデータセットにおいて解析した結果、東アジアのゲノムには、25,000年前(約900世代)にSARS-CoV-2を含むいくつかのウイルスのパンデミックが起きていた可能性があることが推定されました(文献1)。このような進化に関する解析はCOVID-19の理解を深め、治療や予防に関するヒントを提供する可能性があります。


文献1.
Souilmi Y et al., An ancient viral epidemic involving host coronavirus interacting genes more than 20,000 years ago in East Asia, Curr Biol 2021 Jun 17;S0960-9822(21)00794-6.


背景

現代のヒトのゲノムには数万年前に遡る遺伝情報が含まれており、一つの注目すべき点は、ウイルス相互作用蛋白質(VIP)*1の強力な選択が過去何万年も人間の集団で続いていることである。これは、我々の祖先に影響を与えたウイルスを特定するのに役立つ可能性がある。

方法

本研究では、ハイスループット質量分析によって同定された332個のSARS-CoV-2蛋白質に、文献から手動でキュレーションした88個の蛋白質を追加した計420個のSARS-CoV-2のVIPをコードするヒト遺伝子に関して、1,000人ゲノムプロジェクトデータベース*2を利用して世界の26の集団から2,500人の現代人のゲノムを分析し、コロナウイルスが関与する選択的イベントを回復することを目的とした。

*1) ウイルスはそれ自体で複製することができないため、他の生物の細胞に侵入し、宿主細胞によって作られた機能を乗っ取り、通常は細胞が新しいDNAを作るのを助け、ウイルスが自分自身を複製できるようにする。これらのハイジャックされた蛋白質をVIPという。

*2) 1,000人ゲノムプロジェクトは複数の集団からの多様な個人のセットに全ゲノムシークエンスを適用することにより、一般的なヒトの遺伝子変異の包括的な説明を提供することを目的としたプロジェクト(文献2)。

文献2; A global reference for human genetic variation; The 1000 Genomes Project Consortium, Nature 526, pages 68–74 (2015)

結果・結論

  • 42個のSARS-CoV-2のVIPが25,000年前(約900世代)に選択され、調整された協調適応応答を示す可能性があることを発見した。これらのVIPには、機能解析の結果、抗ウイルスおよびプロウイルス因子が多いと思われた。
  • 25,000年前に、古代のコロナウイルス、またはコロナウイルスと同様の相互作用を人間の宿主と使用する軍拡競争が祖先の東アジアの集団で起こった(適応反応を引き起こした)と推定された(この集団でVIPのスイープ信号の強い濃縮が明らかとなった)。
  • 重要なことに、選択されたCoV-VIP遺伝子には、複数の既知の創薬ターゲットが含まれており、本研究の進化ゲノミックスの結果は、創薬ターゲットとなる新しい候補遺伝子を特定したと考えられる。また、我々の古代のコロナウイルスを学ぶことにより、将来のパンデミックをよりよく予測するための進化の情報の可能性を浮き彫りにするであろう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に関しては、ワクチン開発に比べて治療薬の開発が遅れていることが懸念されていますが、本研究のような進化ゲノミックス解析による新しい創薬の戦略が期待されます。


文献1
Souilmi Y et al., An ancient viral epidemic involving host coronavirus interacting genes more than 20,000 years ago in East Asia, Curr Biol 2021 Jun 17;S0960-9822(21)00794-6.
文献2
Yang AC et al. A global reference for human genetic variation; The 1000 Genomes Project Consortium, Nature526, pages 68–74 (2015)