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2022/3/15

COVID-19入院患者致命率の性差

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危険因子として、高年齢やメタボリック症候群(肥満、高血圧、慢性閉塞性肺疾患など)はよく知られていますが、性差に関しても、以前より注目されています。すなわち、女性に較べて男性の方が重篤になりやすく、死亡率も高いことが言われています(図1)。このことは、COVID-19のメカニズム、治療のいずれの面からも重要なので理解を深めておく必要があります。したがって、今回は、韓国におけるCOVID-19入院患者致命率の性差に関する論文(文献1)を紹介致します。(統計学の専門用語が多く出て来ますが、要するに、異なる統計処理法を用いても同様な結果が得られたということであり、個々の詳細を理解する必要はありません。)


文献1.
Ae-Young Her et al., Sex-specific difference of in-hospital mortality from COVID-19 in South Korea. 2022 PLoS ONE, 17(1): e0262861.


背景

興味深いことに、世界中188ヵ国からの COVID-19に関する報告は、男性の致命率が女性のそれに比較して高いという結果を示している。しかしながら、これは、すべての国において一致しているわけではない。国ごとにCOVID-19の死亡率に性差による差異があるメカニズムは不明であるが、地理的、遺伝的、及び、文化的な様々な因子がCOVID-19の拡大、致死性に影響すると考えられている。

目的

本研究は、韓国におけるCOVID-19入院患者の致命率の性差を評価することを目的とした。

方法

韓国疾病予防管理センター(KCDC)における2020年1月20日から2020年4月30日までのCOVID-19入院患者を対象にした記録に基づいた前向きコホート研究*1を実施した。主要評価項目(エンドポイント)は、院内死亡、又は、自宅へ退院とした。

結果

  • 男女5,628名のCOVID-19による入院患者がKCDCのデータセットに記載された。その内訳は女性(n = 3,308)が男性(n = 2,320)より多く、特に中年齢(40~59歳)と超高齢(> 80歳)の患者の割合は女性が多かった。
  • 低体重患者の割合は女性に多く(女6.7% vs. 男4.7%, p = 0.004)、反対に、過体重は男性に多かった(女18.6% vs. 男30.9%, p < 0.001)。高血圧、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、肝硬変は男性に多く、認知症は女性に多かった。体温は女性の方が高く(女37.0 ± 0.5°C vs. 男36.9 ± 0.6°C, p < 0.001)、COVID-19の随伴症状として、咳、痰、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、悪心・嘔吐は男性よりも女性に多かった。血液検査では、女性は、白血球、リンパ球、血小板ともに高かったが、ヘモグロビン、ヘマトクリット値は低く貧血所見を呈した。
  • カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)曲線、及び、ログ・ランク検定(log-rank test)*2の結果、40歳以上では、女性の入院患者が男性よりも多かったが、院内死亡率、院内累計死亡数は男性の方が多かった(女3.5% vs. 男5.5%; ハザード比(HR): 0.61; 95% CI: 0.47 to 0.79; p <0.001, log-rank p < 0.001)。
  • これらに加えて、多変量コックス回帰(multivariable Cox regression)や傾向スコア・マッチング(propensity score matching)*3においても、同様に、女性の方が男性よりも院内死亡率が低いという結果が得られた。Multivariable Cox regression; (HR: 0.59; 95% CI: 0.41 to 0.85, p = 0.023)、Propensity score matching; (HR: 0.51; 95% CI: 0.30 to 0.86, p = 0.012)。

結論

以上の結果より、韓国では、COVID-19入院患者の致命率は男性の方が女性よりも高いと結論された。

用語の解説

*1. 前向きコホート研究
一定の期間を経て前向きにデータをとる縦断研究。疾患の起こる可能性がある要因にさらされるかどうかに注目して群分けし、研究を開始してから将来(数ヵ月後,数年後)にわたって追跡を続け、疾病などの発生状況を比較する。
*2. カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)曲線、及び、ログ・ランク検定(Log-rank test)
生存時間を解析するためには、カプラン・マイヤー曲線を用いるが、これはグラフを見て主観的に判断するものなので、統計的検定を行って、差がある、差があるとはいえない、という判断が必要となる。その際に用いる代表的な仮説検定が、ログ・ランク検定である。これは(特定の確率分布に依存しない)ノンパラメトリック検定で、データが右に歪んで打ち切られている場合に使用するのに適している。
*3. 多変量コックス回帰(multivariable Cox regression)や傾向スコア・マッチング(propensity score matching)
  • ・多変量コックス回帰分析(Cox Regression Analysis)は、患者の「生存/死亡」などのイベントが発生するまでの期間を分析する複数の説明変数に基づいた生存時間分析の手法である。イメージとしては、ログ・ランク検定の多変量解析版と考える。例として、地域在住の高齢者50名を対象として、1年間で転倒が起こったか、起こらなかったかを調べたとする。同時に、調査開始から何ヵ月後に転倒が起こったか、起こらなかったかを調べて、ある者は5ヵ月目に転倒していたかもしれないし、また、ある者は8ヵ月目には転倒していなかったが、それ以降は調査できなかったとする。この例では、5ヵ月、8ヵ月という期間は「観察打ち切りの期間」となる。その観察打ち切りの期間を考慮した転倒の有無に対して、膝伸展筋力や片足立ち時間などの、複数の、どういった項目の組み合わせで転倒発生を早めているかを調べるときに、コックス比例ハザードモデルを適用する (http://jspt.japanpt.or.jp/ebpt_glossary/cox-proportional-hazard-model.htmlより改訂)。
  • ・傾向スコア・マッチング(propensity score matching)
    交絡因子(要因と関連があり、アウトカムに影響を与えるが、要因とアウトカムの中間因子でない)が多数になる場合は単純なマッチング困難となる。そこで、複数の共変量を1つにまとめて得点化した変数(傾向スコア)を用いて、背景情報のバランスを調整するために用いるのが、傾向スコアによるマッチングである。例えば、実際の臨床の現場においては様々な患者の背景を考慮して治療が割り当てられるため、治療群とコントロール群では患者背景が異なることがほとんどである。このような治療の割り当てに影響する因子を用いて治療割り当ての確率である傾向スコアを算出し、同じ傾向スコアの得点の患者同士を比較することで、疑似的に観察研究のデータを無作為化割り付け試験のように解析するというのが傾向スコアを用いた解析の概念である。

今回の論文のポイント

  • 韓国におけるCOVID-19入院患者の致命率は男性の方が女性よりも高いことがいくつかの異なる統計処理法を用いて確認されました。
  • 免疫力、ホルモン、ACE(コロナウイルス受容体)の発現パターンの差、生活習慣(ウイルスへ暴露)?など多くの原因が考えられています(図1)。今後、そのメカニズムを解明する必要があります。

文献1
Ae-Young Her et al., Sex-specific difference of in-hospital mortality from COVID-19 in South Korea. 2022 PLoS ONE, 17(1): e0262861.