小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の多くは、成人に較べて症状が軽くて済みますが、稀に重症例が確認されており、基礎疾患を有し重症化するリスクが高い小児もいることから、小児に対してもワクチン接種が推奨されてきました。加えて、今後、様々な変異株が流行する可能性もあることや、ワクチンの安全性や副反応に関する知見も増してきたことから、ようやく小児を対象にしたCOVID-19のワクチン接種が始まりました。したがって、現時点では、小児に対するワクチンの効果はまだ確立されていない状況です。今回は、オミクロン株出現後の米国ニューヨーク州のデータを調べた査読前のmedrxivに掲載された論文(文献1)を取り上げます。注目すべきことに、5~11歳小児へのファイザー社のワクチンBNT162b2接種の感染予防効果は接種後、僅か1ヵ月で激減していました(図1)。小児とワクチンの問題はさらなる検討が必要なようです。
文献1.
Dorabawila V et al., Effectiveness of the BNT162b2 vaccine among children 5-11 and 12-17 years in New York after the Emergence of the Omicron Variant. medRxiv, February 28, 2022.
ファイザーCOVID-19ワクチンの5~11歳での感染予防効果
背景・目的
小児に対するファイザー社のワクチンBNT162b2接種の効果に関するデータはほとんどないので、これを検討する。
方法
ニューヨーク州において、2021年12月から2022年1月までの5-11歳(n=365,502)、12-17歳(n=852,384)のファイザー社のBNT162b2ワクチンを接種した小児に関してワクチンのCOVID-19による感染・入院予防効果を罹患率比(IRR; incidence rate ratio)、ワクチン実効性(VE; vaccine effectiveness)などを指標に評価した(前向きコホート研究)。
結果
- 5~11歳小児のSARS-CoV-2感染予防効果は、接種終了後、2週間以内では65%だったのが約1ヵ月後には12%に低下していた。
- 12~17歳、より年長の小児のBNT162b2接種の同期間の感染予防効果は66%と51%であり、5~11歳小児ほどは低下しなかった。
- その理由として、5~11歳小児への投与量はそれより年長の小児に比べて少ないことが効果消滅の原因かもしれないと考えられる。12~17歳小児への投与量は30μgで、5~11歳小児への投与量は10μgだった。
- 5~11歳小児のCOVID-19入院予防効果は感染予防効果の消失とは対照的に比較的保たれていた。オミクロン株検出が感染の19%であった去年12月の入院予防効果は100%、オミクロン株検出が感染のほぼ100%を占めるようになった今年1月24~30日では48%であった。
結論
オミクロンの時代において、5-11歳の小児におけるBNT162b2ワクチンの実効性(感染の防止)は急速に減弱することがわかった。しかしながら、入院予防効果に対する有効性から判断して、ワクチン接種により重病化が防がれた可能性がある。
用語の解説
- *1. 罹患率比(IRR; incidence rate ratio)
- 統計用語で曝露群のリスクの対照群のリスクに対する相対的リスク。リスクとして罹患率をとると、罹患率比となる。
- *2. ワクチン実効性(VE; vaccine effectiveness)
- ワクチンを接種した人たちが、ワクチンを接種していない人たちと比較して、(最も好ましい条件下で)病気が減少した割合のことである。ワクチンの実効性とワクチン有効性(vaccine efficacy)の違いは、ワクチン実効性はワクチンが常に使用されて、より多くの集団に投与された場合にどれだけ効果があるかを示すのに対し、ワクチン有効性は特定の、しばしばコントロールされた条件下でどれだけ効果があるかを示すという点にある。