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2022/5/2

進化し続ける新型コロナウイルス;オミクロンXE

文責:橋本 款

2019年末に中国の武漢で検出された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、その後、何度か変異を繰り返しながら、世界的に流行しました。変異株の中でもVOC(Variant of Concern:懸念の変種)に分類される株は国際的に警戒すべきウイルスとして、WHO(世界保健機構)によってアルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4種に新たにオミクロン(BA.1と亜型のBA系統を含む)が指定されました。わが国でも昨年12月下旬頃からオミクロンBA.1型による患者数の著しい増加がおこり、最近ではその亜種であるBA.2に置き換わっています。しかしながら、それもつかの間、今度は新種のオミクロンXEが登場しました。XEは、オミクロン株のBA. 1とBA.2の遺伝子の一部が組み換え*1により交ざったもので(図1)、感染者の増加する速度が、BA.2より早いので要注意かも知れません。現時点においてオミクロンXEに関してはまだ十分な情報がないのがですが、最近、Cell Pressのpartner journal「The Innovation」にShort Reviewが掲載されましたので(文献1)、これを紹介致します。


文献1.
Kewei Ma, Jieliang Chen, Omicron XE emerges as SARS-CoV-2 keeps evolving The Innovation (2022)


【オミクロンXEの由来】

最近、GISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data)*2へ登録されるSARS-CoV-2のうち、95%以上がオミクロン株であり、他の亜種に比べて、ステルスオミクロンとして知られるBA.2の伝染性(感染力)が最も高く、多くの国において最も頻度の高いとなっている。

英国保健安全保障庁によると、XEは1月19日に初めて検出され、3月22日時点で英国内で637件の症例が確認されました。3つの亜種のうち、XDとXFは デルタとオミクロンBA.1の、XEはオミクロンBA.1とBA.2cの組み換え体である(図1)

【XE; BA.1とBA.2の変異体による組み換え体】

XEにおいてBA.1とBA.2の組み換え部位は非構造蛋白質(NSP)6をコードするゲノム配列部位(nucleotide position 11,537)であり、したがって、XEのNSP1-6はBA.1の変異体から、残りの部分はBA.1の変異体からなる。さらに、XEはBA.1やBA.2にはない3つの変異がある。すなわち、C3241T(NSP3)とC14599T(NSP12)は同義置換*3であり、アミノ酸変異V1069IがNSP3(パパイン様プロテアーゼ)部位に存在する。

【オミクロンXE;高い伝染性?】

これまでのデータに基づいた数理モデルによる解析を行った結果、XEの感染が広がるスピードはBA.2よりも12.6%速いと推定され、WHOは、感染者の増加する速度が、早いかも知れないと警告している。しかしながら、現時点においては症例数が少ないのでバイアスのかかっている可能性もあり、XEの増殖性・伝染性に関してはさらに監視する必要があり、重篤性・ワクチンの効果性も今後の評価によらなければならない。

【進化の方向性】

一般的に呼吸器系に感染するウイルスは、上気道で増殖し排出される場合は伝染性が高くなり、対照的に、下気道で増殖し組織を破壊する場合は、より重篤になると考えられている。したがって、前者のウイルスの方が病原性(毒性)は減るが進化的には有利である。このような考え方がXEにも当てはまると思われるが今後の進展を見守る必要がある。

【結論】

オミクロンのBA.1とBA.2が共循環することにより、新しい組み換え体のウイルスが. 誕生することになったが、これらのウイルスは、重篤性が低下する一方で、伝染性は増加し、ワクチンや抗ウイルス剤による治療により抵抗性になることが懸念される。感染者の大多数が軽度の症状や無症状の場合は監視するのが困難であるが、それでも、世界レべルで追跡するのが望ましい。

用語の解説

*1. 組み換え(recombinant)
生物学で、染色体の交差によって、同一染色体上の遺伝子の配列順序が変化する現象。
*2. GISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data)
国際ゲノムデータベース https://www.gisaid.org
*3. 同義置換 (synonymous mutations)
「同義置換」は、タンパク質を作るのにつなげるアミノ酸配列には影響しない塩基配列の置換のことを言い、「非同義置換」は「同義置換」の逆で、タンパク質を作るのにつなげるアミノ酸が変わってしまう塩基配列の置換。

今回の論文のポイント

  • オミクロンXEはオミクロンBA. 1とBA.2の組み換えによる新しいウイルスであり、これにより伝染性が増加することにより、進化上有利になること思われます。
  • XEは予想される範囲内の変異で、オミクロン株の流行が続く限り、こうした変異は続いていくだろうと考えられます。

文献1
Kewei Ma, Jieliang Chen, Omicron XE emerges as SARS-CoV-2 keeps evolving The Innovation (2022)