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2022/5/16

パンデミック(世界的な大流行)の終わり?

文責:橋本 款

2019年12月に中国・武漢で報告された病因不明の肺炎から検出された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナ感染症(COVID-19)は、その後、アルファ・ベータ・ガンマ株から、さらに、感染力は低いものの重症化率の高いデルタ株を経て、現在では、対照的に、重症化しにくいものの強い感染力を特徴とするオミクロン株、及び、その亜種へと目まぐるしく変異を繰り返してパンデミックを引き起こしてきました(図1)。今後、どうなるのだろうかと懸念されますが、意外?にも、最先端ではCOVID-19のパンデミックはがいつ終わるかということに注目が集まっているようです。今回は、現状を理解するために、米国ワシントン大学医学部保健指標評価研究所(Institute for Health Metrics and Evaluation, IHME)*1の所長であるChristopher J L Murray博士がLancetに寄稿したコメント(文献1)を取り上げます。


文献1.
Christopher J L Murray, COVID-19 will continue but the end of the pandemic is near (2022), Lancet 399, 417-419


【オミクロン株感染者数に関する予測】

  • IHMEのモデルによると、2022年1月17日の時点で、世界中のオミクロンの感染者が1日あたり1億2,500万人と計算され、これは2021年4月におけるデルタ株の約10倍である。2022年3月末までには世界中の50%以上がオミクロンに感染していると推定される。
  • IHMEのモデルでは、2021年11月末から2022年1月17日まで30倍以上の増加を想定したが、実際の報告では6倍の増加に過ぎなかった。

【無症状のオミクロン株感染】

  • オミクロン株感染による症状は、軽度か無症状のため、感染が見つかる頻度が世界的なレベルで20%から5%まで減少している。
  • これまでのSARS-CoV-2の約40%が無症候性感染であるが、オミクロン株感染の場合は80-90%が無症候性感染である。
  • 英国の国家統計局(Office for National Statistic: ONS)*2は、2022年1月6日の時点で英国の6·85%がPCR検査でSARS-CoV-2陽性であると見積もっている。
  • ギャレットらの報告では、南アフリカで治験に登録した230人のうち、71人(31%)はPCR検査でSARS-CoV-2陽性でオミクロン株に感染していたが、全員が無症候性であった。このことから、南アフリカでは90%以上がオミクロン株無症候性感染であると推定される。
  • 米国ワシントン大学メディカルセンターにおける無症候性患者の入院前のプレスクリーニングでは、これまでのパンデミックでは2%を超えなかったが、2022年1月10日の週では10%を超えていた。加えて、米国では、COVID-19が検出されても入院する人が以前の約50%以下に減少した。
  • 入院して気管支挿管を要したり、死亡するケースはカナダや南アフリカ共和国で80-90%も減少した。
  • 感染の重篤性は減少したが、オミクロン株の大規模の波は、多くの国において入院数の増加につながった。IHMEモデルによれば、過去のパンデミックの2,3倍の増加と推定された。入院の際にCOVID-19のスクリーニングをする国では、ほとんどの患者はCOVID-19以外の目的のために来院してもSARS-CoV-2の無症候性感染が明らかとなる。それにもかかわらず、感染のコントロールが必要となる。また、医療従事者の感染が明らかになると、隔離が必要となり、病院にとっては2重のプレッシャーとなる。
  • しかしながら、2021年12月21日から2022年1月17日までの間に入院患者は10倍近く増加したが、そのうち、挿管を要した患者数は以前と変わらなかったというギリシアからの報告には希望が持てる。

【オミクロン株と高い感染性】

  • IHMEモデルによれば、オミクロン株の感染性は高く、これまでのようなマスクやワクチン接種では次の数週間におけるオミクロン株のパンデミックに対し影響することはないだろうと考えられる。IHMEモデルの推定では、例えば、人口の80%がマスクを着用したとしても次の4ヶ月以内の感染者数は10%くらいしか減少しないだろう。また、ワクチン接種したとしてもその免疫効果が顕われるまでにオミクロン株の感染は広がっているだろう。
  • オミクロン株の高い感染性と軽度の症状を考慮すれば、中国やニュージーランドが行なっているゼロ・コロナ戦略は、効率がよくないだろう。

【パンデミックの終わり】

今後、オミクロン株よりも高い感染性や症状を来す新しい変異株が現われる可能性は否定出来ないが、これまでに広くウイルスに暴露されて来たこと、新しい変異株やそれらの亜種に対してワクチンを適応させて来たこと、抗ウイルス薬を開発してきたこと、マスクやソーシャル・ディスタンシング(感染拡大を防ぐために物理的な距離をとること)などの知識が広まったことを考えれば、COVID-19のインパクトは弱まるだろう。

用語の解説

*1. 保健指標評価研究所
保健指標評価研究所(IHME)はワシントン大学医学部の独立系グローバル保健研究機関で、世界で最も重要な健康問題について厳格かつ比較可能な測定を提供、それらへの対処戦略の評価を行っている。IHMEは透明性の確保に努めており、政策立案者が国民の健康増進のため、十分な情報に基づくリソースの配分決定を行う際に必要なエビデンスを得られるよう、そうした情報を幅広く利用できるようにしている。
IHMEの予測は、症例数、死者数、抗体保有率に関するデータに加え、個々の場所のCOVID-19検査率、ワクチン接種実施状況、移動、ソーシャル・ディスタンスの徹底、マスクの着用、人口密度、年齢構成、COVID-19の行く末と強い相関関係がみられる肺炎の季節性などの疫学モデルをベースにしている。
*2. 国家統計局(Office for National Statistic: ONS)
ONSは、非内閣構成型政府機関であるイギリス統計理事会の監督下にあり、英国議会に直属する、イギリス最大の独立した統計作成機関である。

今回の論文のポイント

  • はっきりした理由はないし、IHMEモデルがどれほど確かなものかわかりませんが、Lancetなどの一流誌がコロナの終わりに関する論文を取り扱うのは注目すべきことです。
  • もし、COVID-19の終わりがやって来るにしても、後遺症やコロナと共存していく方法など多くの課題を検討する必要があります。

文献1
Christopher J L Murray, COVID-19 will continue but the end of the pandemic is near (2022), Lancet 399, 417-419