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2022/5/31

植物由来のCOVID-19ワクチン

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療は、これまでのところ、ワクチンの予防接種が中心であり、実際、種々の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株に対してのワクチンの有効性が示されてきました。現在、我が国で使用されているのは、海外から輸入したもので、mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ)、ウイルスベクター(アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソン)(図1)がありますが、今後、新たな変異株の出現の可能性などを考慮すれば、さらなるワクチン開発を進めておくのが望ましいと考えられます。今回は、田辺三菱製薬の連結子会社であるカナダのメディカゴ社が開発した植物由来のワクチンが第III相試験で各種変異株に有効であったことを報告した論文(文献1)を紹介致します。


文献1.
Hager KJ, et al, Efficacy and Safety of a Recombinant Plant-Based Adjuvanted Covid-19 Vaccine. (2022), N Engl J Med. 2022 May 4. [Epub ahead of print]


【背景・目的】

植物由来COVID-19ワクチン;CoVLP+AS03ワクチン(カナダ・メディカゴ社製)は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)という植物でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を発現させ形成されたコロナウイルス様粒子(CoVLP)と、アジュバント*1システム03(AS03)を組み合わせた、新しい植物由来COVID-19ワクチンである。

ウイルス様粒子(Virus Like Particle)製造技術を用いた新規ワクチンである植物由来VLPワクチンは、ウイルスと同様の外部構造を持ち、ワクチンとしての高い免疫獲得効果(有効性)が期待される。これに加えて、遺伝子情報を持たないため体内でウイルスの増殖がなく、安全性にも優れている。また、植物を使用したVLP製造技術により、短期間で大量生産が可能である。この新しいワクチンの有効性を第III相試験で評価した。

【方法】

  • 2021年3月~9月、南・北米(メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、英国および米国)の85施設において、約2万4,000人を対象に無作為化プラセボ対照試験*22を行なった。すなわち、SARS-CoV-2に対するワクチンの接種歴、COVID-19の既往もない18歳以上の成人を、CoVLP+AS03ワクチン群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、それぞれ21日間隔で2回筋肉内注射した。
  • 2回接種後7日以降のRT-PCR法で確認された症候性COVID-19発症に対する有効性を主要評価項目とし、事後解析*3として中等症~重症COVID-19に対する有効性も評価した。ワクチンの有効性は100×(1-発生率比)で算出し、発生率比はプラセボ群に対するワクチン群のCOVID-19発生率(人年当たり)の比と定義した。
  • RT-PCR法で確認されたCOVID-19症例が160例以上認められた後、中央値で2ヵ月以上の安全性追跡調査を経て解析した。本試験は2021年3月15日~9月2日に実施され、有効性解析および安全性解析のデータカットオフ日はそれぞれ2021年8月20日および同年10月25日であった。計2万4,141例が無作為化され、intention-to-treat (ITT)集団*4に含まれた(ワクチン群1万2,074例、プラセボ群1万2,067例)。対象の年齢中央値は29歳で、14.8%はベースライン時に血清陽性であった。

【結果】

  • 2021年8月20日時点で、RT-PCR法で確認されたCOVID-19はITT集団で165例(ワクチン群40例、プラセボ群125例)であり、全体におけるワクチンの有効率は69.5%(95%信頼区間[CI]:56.7~78.8)であった。165例中122例でウイルスの 配列が同定され、デルタ株56例(45.9%)、ガンマ株53例(43.4%)、アルファ株6例(4.9%)、ミュー株4例(3.3%)、ラムダ株3例(2.5%)であった。
  • 事後解析の結果、ベースライン時の血清陰性集団における有効率は74.0%(95%CI:62.1~82.5)であった。また、中等症~重症COVID-19に対する有効率は、ITT集団で78.8%(55.8~90.8)、血清陰性集団で86.0%(66.2~95.1)であった。
  • ワクチン群では重症COVID-19は認められず、感染例におけるCOVID-19診断時のウイルス量中央値は、ワクチン群と比較してプラセボ群で100倍以上高かった。非自発的な有害事象はほとんどが軽度または中等度で、一過性であった。自発報告による有害事象の発現率(ワクチン群vs.プラセボ群)は、接種後21日目まで(22.7%vs.20.4%)、ならびに43日目から201日目まで(4.2%vs.4.0%)のいずれも、両群で同程度であった。

【結論】

本論文の結果より、CoVLP+AS03ワクチンはCOVID-19の予防・治療に有効であると示唆された。

用語の解説

*1. アジュバント(Adjuvant);
ラテン語の「助ける」という意味をもつ'adjuvare'という言葉を語源に持ち、ワクチンと一緒に投与して、その効果(免疫原性)を高めるために使用される物質。
*2. 無作為化プラセボ対照試験;
薬の臨床試験において、被験者を対照群と治療群とに分け、対照群には、プラセボを割り付ける臨床試験のデザイン。
*3. Intention-to-treat(ITT)集団;
医薬品の臨床試験などでは試験の進行に伴い、治療が実施不能や続行不可能になる患者さんが発生するが、このように試験の治療から脱落した患者さんもすべて含めて解析すること。
*4. 事後解析(post hoc analysis);
すでに結果の出た研究データを確認して、実験の主要な目的にはなかった傾向を発見しようとすることである。言い換えると、当初予定されていなかった分析や、実験終了後に追加で行われた分析はすべて事後解析とみなされる。事後研究は、収集済みのデータを使って行われるので、過去に行われた臨床試験データを解析することも、事後解析の1つである。

今回の論文のポイント

  • 第III相無作為化プラセボ対照試験の結果は、新規VLPワクチン;CoVLP+AS03は、症候性COVID-19に対する有効率は69.5%、中等症~重症COVID-19に対する有効率は78.8%であり、COVID-19の予防に有効でした。
  • また、植物由来のCOVID-19ワクチンは安全性に優れ、短期間で大量生産が可能であることも利点です。
  • しかしながら、ファイザーなどのワクチンの有効率、重症化の予防効果はいずれも90%以上と示されており、それらに較べて高いとは言えず、改良の余地があるのかも知れません。

文献1
Hager KJ, et al, Efficacy and Safety of a Recombinant Plant-Based Adjuvanted Covid-19 Vaccine. (2022), N Engl J Med. 2022 May 4. [Epub ahead of print]