新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療はワクチン接種が中心ですが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株が次々に現われるのに応じて、当然のことながら、ワクチンも進化して行きます。これまではデルタ株のような重症化リスクの高い変異株を想定して、mRNAワクチンをはじめ、ほとんどの注射型のワクチンは、全身の免疫を誘導することを目的にしてきましたが(図1)、現在、流行しているオミクロン株は重症化リスクが低いものの感染力の強さが特徴ですから、SARS-CoV-2が、飛沫・空気感染により上気道の粘膜から侵入し、感染・伝搬するのを阻止する方が効果的に思われます。このような理由で、最近では、鼻腔や喉などにおける粘膜免疫を効率的に誘導できる粘膜ワクチンが注目されており(図1)、今回は、これに関連した論文 (文献1)を報告致します。
粘膜ワクチン接種により、鼻腔および肺の粘膜組織で免疫系による病原体防御の最前線として機能する免疫グロブリンA(IgA)*1の産生を増大させることでSARS-CoV-2を中和することができる。特に、ブレイクスルー感染したワクチン接種済みの患者から未接種者への感染拡大は、公衆衛生上の1つのリスクとなっている。COVID-19を予防するだけでなく、ワクチン未接種者への伝播も低減させる。このような背景で、論文の著者らは、錠剤タイプのCOVID-19ワクチン;VGA-COV2-1の開発に着手した。現在、第一相臨床試験*2で安全性をクリアーした段階にある (NCT04563702)。
今回は、開発段階にある錠剤タイプのCOVID-19ワクチン;VGA-COV2-1が、感染予防だけでなく空気感染の抑制効果も有することを評価するため、ハムスターを用いた前臨床試験を行ない、さらに、ヒトで第二相臨床試験*2を実施した。
VGA-COV2-1はスパイクタンパク質*3を発現させるベクターとしてアデノウイルス5型*4を用いており、鼻腔および肺の粘膜組織でIgAの産生を増大させ、SARS-CoV-2を中和し、感染を予防することが予想された。
これらの研究結果から、粘膜免疫は空気感染によるSARS-CoV-2の拡散を低減する上で有効な戦略であることが示唆された。