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2022/6/14

新型コロナウイルスに対する粘膜ワクチンの開発

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療はワクチン接種が中心ですが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株が次々に現われるのに応じて、当然のことながら、ワクチンも進化して行きます。これまではデルタ株のような重症化リスクの高い変異株を想定して、mRNAワクチンをはじめ、ほとんどの注射型のワクチンは、全身の免疫を誘導することを目的にしてきましたが(図1)、現在、流行しているオミクロン株は重症化リスクが低いものの感染力の強さが特徴ですから、SARS-CoV-2が、飛沫・空気感染により上気道の粘膜から侵入し、感染・伝搬するのを阻止する方が効果的に思われます。このような理由で、最近では、鼻腔や喉などにおける粘膜免疫を効率的に誘導できる粘膜ワクチンが注目されており(図1)、今回は、これに関連した論文 (文献1)を報告致します。


文献1.
Langel SN et al., Adenovirus type 5 SARS-CoV-2 vaccines delivered orally or intranasally reduced disease severity and transmission in a hamster model, Science translational medicine. 2022 May 05;eabn6868.


【背景】

粘膜ワクチン接種により、鼻腔および肺の粘膜組織で免疫系による病原体防御の最前線として機能する免疫グロブリンA(IgA)*1の産生を増大させることでSARS-CoV-2を中和することができる。特に、ブレイクスルー感染したワクチン接種済みの患者から未接種者への感染拡大は、公衆衛生上の1つのリスクとなっている。COVID-19を予防するだけでなく、ワクチン未接種者への伝播も低減させる。このような背景で、論文の著者らは、錠剤タイプのCOVID-19ワクチン;VGA-COV2-1の開発に着手した。現在、第一相臨床試験*2で安全性をクリアーした段階にある (NCT04563702)。

【目的】

今回は、開発段階にある錠剤タイプのCOVID-19ワクチン;VGA-COV2-1が、感染予防だけでなく空気感染の抑制効果も有することを評価するため、ハムスターを用いた前臨床試験を行ない、さらに、ヒトで第二相臨床試験*2を実施した。

【方法・結果】

VGA-COV2-1はスパイクタンパク質*3を発現させるベクターとしてアデノウイルス5型*4を用いており、鼻腔および肺の粘膜組織でIgAの産生を増大させ、SARS-CoV-2を中和し、感染を予防することが予想された。

  • ハムスターを用いた動物実験;
    12~14週齢、106~136gの雄のハムスターに対して第0、及び、4週にVGA-COV2-1ワクチンを接種し、第7週に種々の解析をした。
    その結果、VGA-COV2-1の経口または鼻腔内投与により、血液中および肺で強力な抗体反応の促進が確認された。
    また、ハムスターを高レベルのSARS-CoV-2に曝露させてブレイクスルー感染を起こさせると、ワクチンを接種したハムスターではワクチン未接種のハムスターに比べて臨床症状が少なかった。
    さらに、ワクチンを接種したハムスターでは、鼻腔および肺でのウイルス量が少なく、そのため、空気中に拡散されるウイルス量も少なかった。
  • 第二相臨床試験 (NCT05067933);
    35人の健常人の接種後、29日の時点で、19人(54%)に唾液または鼻汁中のIgAが2倍以上増加しているのが観察され、さらに、IgAが2倍以上増加していた人は、中東呼吸器症候群コロナウイルス、その他の(5種類)コロナ関連ウイルスにも交差反応性のあるIgAが約2倍増加していた。

【結論】

これらの研究結果から、粘膜免疫は空気感染によるSARS-CoV-2の拡散を低減する上で有効な戦略であることが示唆された。

用語の解説

*1. 免疫グロブリンA (IgA)
IgAとは抗体の一種で、体内ではIgGに次いで2番目に多い抗体である。特に、眼・鼻・喉や消化管などの外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌される二量体IgAのことを「分泌型IgA」と呼ぶ。
*2. 第一相臨床試験、第二相臨床試験
臨床試験のうち、健康な成人ボランティアを対象として、主に治験薬の安全性および薬物の体内動態について確認するための試験。前臨床試験にて実験動物に投与され安全性が確かめられてきた治験薬を、第一相臨床試験で、初めて人体に投与することになる。第二相臨床試験で、第一相臨床試験で安全性が確認された用量の範囲内で、同意を得た比較的少数の患者を対象とし、主に治験薬の安全性および有効性・用法・用量を調べる。
*3. アイソタイプスイッチ;
ウイルス学において、Sタンパク質は、エンベロープウイルスの表面から突出したスパイクとして知られる大きな構造体を形成するタンパク質である。COVID-19では、SARS-CoV-2のSタンパク質が宿主であるヒトの細胞表面受容体タンパク質ACE2 (アンジオテンシン変換酵素2)と相互作用し細胞に侵入する。
*4. アデノウイルス5型
ヒトアデノウイルスは飛沫感染により伝播し、扁桃、アデノイドなどと、気道、小腸、角結膜などの粘膜上皮で増殖する。感染によって、限局性の急性疾患を起こす。血清型では51型まで確認されており血清型と疾患、臨床像との間に一応の傾向がみられるが、感染部位によりいくつかの臨床像を呈する(e.g. 急性上・下気道感染症;1~7型)

今回の論文のポイント

  • アデノウイルス5型SARS-CoV-2ワクチン(粘膜ワクチン)は、ハムスターモデル、第二相臨床試験において、COVID-19の発症や重症化を軽減しました。
  • 動物実験で得られた結果や小規模の臨床試験の結果が今後の大規模の臨床試験(第三相)で再現出来ることが期待されます。

文献1
Langel SN et al., Adenovirus type 5 SARS-CoV-2 vaccines delivered orally or intranasally reduced disease severity and transmission in a hamster model, Science translational medicine. 2022 May 05;eabn6868.