新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療研究は広く精力的になされていますが、これまでのところ、ワクチン接種が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)の感染率や感染伝播、重症化(入院、集中医療室、死亡)など多くの局面において有効であることが経験されてきました(図1)。最近では、COVID-19治癒後に後遺症が高頻度に出現することが問題になっており、COVID-19後遺症*1のメカニズムの理解・治療開発が重要な課題の一つになっていますが、今回、紹介致します論文(文献1)では、英国・国家統計局のAyoubkhani博士らが、COVID-19後遺症の発現は、COVID-19ワクチンの登場以降に減少し、2回目の接種後は少なくとも約2カ月にわたり持続的な改善が得られることが報告しました。すなわち、ワクチン接種が後遺症の予防にも有効である可能性が示唆されます。
文献1.
Ayoubkhani D et al., Trajectory of long covid symptoms after covid-19 vaccination: community based cohort study., BMJ (Clinical research ed.). 2022 05 18; 377; e069676. 
【背景・目的】
ワクチン接種がCOVID-19後遺症の予防に有効であるかどうかを知ることは重要である。研究グループは、COVID-19ワクチン接種前にSARS-CoV-2に感染した成人において、ワクチン接種とCOVID-19後遺症の症状の関連性を評価することを目的として、地域住民ベースの観察研究(observational study)*2を行なった。
【方法】
- 英国・国家統計局が行ったCOVID-19感染調査の参加者のうち、2021年2月3日の時点で年齢が18~69歳であり、SARS-CoV-2感染陽性と判定された後に、mRNAワクチン、または、アデノウイルスベクターワクチンの接種を少なくとも1回受けたグループを対象にした。
- 主要アウトカムは、2021年2月3日~9月5日の期間に、感染から12週以上が経過した時点におけるCOVID-19後遺症の症状発現とされた。アウトカムの軌道解析では、各ワクチン接種前の受診時を0に設定して追跡した。
- mRNAワクチンを接種した12,859例、アデノウイルスベクターワクチンを接種した15,497例の計28,356例が登録された。平均年齢は45.9±13.6(SD)歳で、15,760例(55.6%)が女性であり、25,141例(88.7%)が白人だった
【結果】
- 追跡期間中央値は、1回目接種から141日で、2回目接種(参加者の83.8%)からは67日であった。追跡期間中に、6,729例(23.7%)から、重症度にかかわらず、少なくとも1回のCOVID-19後遺症の症状が報告された。
- ワクチンの1回目接種により、COVID-19後遺症の症状発現のオッズが当初12.8%(95%信頼区間[CI]:-18.6~-6.6、p<0.001)減少し、その後、2回目接種までの週当たりには増減(0.3%/週、95%CI:-0.6~1.2、p=0.51)が認められた。2回目接種では、COVID-19後遺症のオッズが当初8.8%(95%CI:-14.1~-3.1、p=0.003)減少し、その後は週当たり0.8%(95%CI:-1.2~-0.4、p<0.001)減少した。
- mRNAワクチン接種者とアデノウイルスベクターワクチン接種者の間で、接種後のCOVID-19後遺症の軌道に差はなかった。また、社会人口学的特性(年齢、性別、人種、5段階の地理的剥奪*3)、健康関連因子(自己報告による健康状態、急性期COVID-19による入院の有無)、SARS-CoV-2感染からワクチン接種までの期間の違いで、ワクチン接種とCOVID-19後遺症の発現に関連性はなかった。
- 1回目接種後において、嗅覚障害(-12.5%、95%CI:-21.5~-2.5、p=0.02)、味覚障害(-9.2%、-19.8~2.7、p=0.13)、睡眠障害(-8.8%、-19.4~3.3、p=0.15)の順でCOVID-19後遺症の発現率が低下した。2回目接種後は、疲労(-9.7%、-16.5~-2.4、p=0.01)、頭痛(-9.0%、-18.1~1.0、p=0.08)、睡眠障害(-9.0%、-18.2~1.2、p=0.08)の順に低下した。
【結論】
この観察研究の結果から因果関係を導き出すことは現時点で出来ない。しかしながら、ワクチン接種はCOVID-19後遺症による住民の健康負担の軽減に寄与する可能性がある。今後、さらに長期の追跡調査が必要であろう。