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2022/6/21

ワクチン接種はCOVID-19後遺症の予防にも有効である可能性

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療研究は広く精力的になされていますが、これまでのところ、ワクチン接種が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)の感染率や感染伝播、重症化(入院、集中医療室、死亡)など多くの局面において有効であることが経験されてきました(図1)。最近では、COVID-19治癒後に後遺症が高頻度に出現することが問題になっており、COVID-19後遺症*1のメカニズムの理解・治療開発が重要な課題の一つになっていますが、今回、紹介致します論文(文献1)では、英国・国家統計局のAyoubkhani博士らが、COVID-19後遺症の発現は、COVID-19ワクチンの登場以降に減少し、2回目の接種後は少なくとも約2カ月にわたり持続的な改善が得られることが報告しました。すなわち、ワクチン接種が後遺症の予防にも有効である可能性が示唆されます。


文献1.
Ayoubkhani D et al., Trajectory of long covid symptoms after covid-19 vaccination: community based cohort study., BMJ (Clinical research ed.). 2022 05 18; 377; e069676.


【背景・目的】

ワクチン接種がCOVID-19後遺症の予防に有効であるかどうかを知ることは重要である。研究グループは、COVID-19ワクチン接種前にSARS-CoV-2に感染した成人において、ワクチン接種とCOVID-19後遺症の症状の関連性を評価することを目的として、地域住民ベースの観察研究(observational study)*2を行なった。

【方法】

  • 英国・国家統計局が行ったCOVID-19感染調査の参加者のうち、2021年2月3日の時点で年齢が18~69歳であり、SARS-CoV-2感染陽性と判定された後に、mRNAワクチン、または、アデノウイルスベクターワクチンの接種を少なくとも1回受けたグループを対象にした。
  • 主要アウトカムは、2021年2月3日~9月5日の期間に、感染から12週以上が経過した時点におけるCOVID-19後遺症の症状発現とされた。アウトカムの軌道解析では、各ワクチン接種前の受診時を0に設定して追跡した。
  • mRNAワクチンを接種した12,859例、アデノウイルスベクターワクチンを接種した15,497例の計28,356例が登録された。平均年齢は45.9±13.6(SD)歳で、15,760例(55.6%)が女性であり、25,141例(88.7%)が白人だった

【結果】

  • 追跡期間中央値は、1回目接種から141日で、2回目接種(参加者の83.8%)からは67日であった。追跡期間中に、6,729例(23.7%)から、重症度にかかわらず、少なくとも1回のCOVID-19後遺症の症状が報告された。
  • ワクチンの1回目接種により、COVID-19後遺症の症状発現のオッズが当初12.8%(95%信頼区間[CI]:-18.6~-6.6、p<0.001)減少し、その後、2回目接種までの週当たりには増減(0.3%/週、95%CI:-0.6~1.2、p=0.51)が認められた。2回目接種では、COVID-19後遺症のオッズが当初8.8%(95%CI:-14.1~-3.1、p=0.003)減少し、その後は週当たり0.8%(95%CI:-1.2~-0.4、p<0.001)減少した。
  • mRNAワクチン接種者とアデノウイルスベクターワクチン接種者の間で、接種後のCOVID-19後遺症の軌道に差はなかった。また、社会人口学的特性(年齢、性別、人種、5段階の地理的剥奪*3)、健康関連因子(自己報告による健康状態、急性期COVID-19による入院の有無)、SARS-CoV-2感染からワクチン接種までの期間の違いで、ワクチン接種とCOVID-19後遺症の発現に関連性はなかった。
  • 1回目接種後において、嗅覚障害(-12.5%、95%CI:-21.5~-2.5、p=0.02)、味覚障害(-9.2%、-19.8~2.7、p=0.13)、睡眠障害(-8.8%、-19.4~3.3、p=0.15)の順でCOVID-19後遺症の発現率が低下した。2回目接種後は、疲労(-9.7%、-16.5~-2.4、p=0.01)、頭痛(-9.0%、-18.1~1.0、p=0.08)、睡眠障害(-9.0%、-18.2~1.2、p=0.08)の順に低下した。

【結論】

この観察研究の結果から因果関係を導き出すことは現時点で出来ない。しかしながら、ワクチン接種はCOVID-19後遺症による住民の健康負担の軽減に寄与する可能性がある。今後、さらに長期の追跡調査が必要であろう。

用語の解説

*1. COVID-19後遺症
COVID-19から回復した後にも、罹患後症状(後遺症)として様々な症状が見られる場合があり、WHO(世界保健機関)では「COVID-19に罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの(通常はCOVID-19の発症から3カ月経った時点にもみられる。)」と、後遺症について定義している。詳細は、「COVID-19後遺症のメカニズム 2022/6/7」を参照してください)。
*2. 観察研究(observational study)
ある個人や集団の健康状態や診療記録をありのまま観察して、データを分析するのが観察研究である。例えば、地域住⺠の健康状態を⻑期間にわたって観察することで、心疾患の危険因子を明らかにした疫学研究;フラミンガム研究、は有名である。観察研究は、時間の方向によって、「前向き研究」と「後ろ向き研究」に分けることができ、さらに、対象者に対する観察回数をもとに、横断研究(cross-sectional study)と縦断研究(longitudinal study)に分類できる。
*3. 地理的剥奪
欧米社会では、大都市部を中心に貧困な状況に置かれた人々が多く住まう居住地に健康問題の多くが集中することが、健康の社会的格差の一端として問題視されてきた。これを計測するために、地区の貧困の水準を指標化したものが地理的剥奪指標(areal deprivation index)である。

今回の論文のポイント

  • 本論文の結果より、ワクチン接種は、COVID-19後遺症の発症を軽減する可能性があると期待されます。
  • 論文では18~69歳の結果を一括して統計処理していますが、COVID-19に対する稀弱性が生殖期と老年期で異なることを考慮すれば、是非、年齢別の結果を知りたいところです。

文献1
Ayoubkhani D et al., Trajectory of long covid symptoms after covid-19 vaccination: community based cohort study., BMJ (Clinical research ed.). 2022 05 18; 377; e069676.