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2022/6/28

COVID-19パンデミック(コロナ禍)におけるがん検診数の減少について

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受けて、我が国における2020年のがん検診受診者は、前年と比べて30.5%と大幅に減少し、検診が減ったことによって、2020年のがん診断件数は、2019年と比べて9.2%減少し、これを人数に換算すると、2020年は4万5,000人の診断が見過ごされている可能性があるようです(日本対がん協会)。COVID-19パンデミックの中、がん検診を敬遠することによって、早期がんの診断数は減少し、今後、がんが進行した状態で見つかるケースが増加するのではないかと予想されます。このことは、世界中の先進国で指摘されており、COVID-19に関連した問題の一つで重要です(図1)。このような背景で、今回は、米国におけるがん検診に関連した論文(文献1)を報告致します。


文献1.
Fedewa SA et al., Changes in Cancer Screening in the US During the COVID-19 Pandemic., JAMA Netw Open. 2022;5(6):e2215490.


【背景】

2020年の第1四半期は、COVID-19パンデミックのため、米国の医療システムは混乱していた。人口ベースの推定はまだ報告されていないが、いくつかの標本を抽出した初期報告によれば、がん検診の数は大幅に減少したと推定された。

【目的】

国家レベルの人口に基づく行動危険因子サーベイランスシステム(BRFSS)*1のデータを用いて、乳癌(breast cancer; BC)、子宮頸癌(cervical cancer; CC)、及び、結腸直腸癌(colorectal cancer; CRC)のがん検診の数に対するCOVID-19パンデミックの影響を検討した。

【方法】

2014、2016、2018、2020年のBRFSSで電話調査を行ない、BC(50~74歳女性)、CC(25~64歳女性)、及び、CRC(50~75歳男性・女性)を対象にして、2021年9月から2022年2月までデータを解析した。

【結果】

  • BRFSSのデータ解析対象には、BC 479, 248人、 CC 301, 453人、 そして、 CRC 854, 210人が含まれた。
  • 2020年における50~75歳の応答者の内、14,815人(11.4%)が黒人、12,081人(12.6%) がヒスパニック、156,198人(67.3%)が白人で、79,234人(29.9%)がカレッジ卒業以上の学歴があった。
  • 2014~2018年は、ほぼ同じ程度の検診普及率であったが、2018~2020年の検診数はBCが6%、CCが11%減少し、ヒスパニック系や低教育層において顕著に認められた。他方で、2018~2020年のCRC検診の普及率はあまり変わらなかった; 便検査*2は7%増加して、内視鏡検査の16%の減少を埋め合わせていた。

【結論】

この調査によると、2020年のBCやCCの検診数は適度に減少したが、このことが近い将来、どんな結果となって顕れるかは現時点で不明である。他方で、CRCに対する内視鏡検査数は減少したが、それに代わって便検査が増加することにより、全体の検診数のバランスが保たれたのかも知れない。今後、特に検診数が激然と低下した低所得者層で見守る必要があるだろう。

用語の解説

*1. 行動危険因子サーベイランスシステム(Behavioral Risk Factor Surveillance System; BRFSS)
米国の最も一般的な健康状態に関連する行動危険因子に関する有病率データを提供する自己報告電話調査。疾病対策予防センター(CDC)と各州の保健部門との共同の取り組みであり、毎年、40万人を超える非居住者の米国居住成人電話調査インタビューが実施され、慢性的な健康状態に関するデータと、血圧、シートベルトの使用、喫煙、薬物使用、コレステロールなど、国の主要な罹患率と死亡率に関連するリスク行動が収集されています。がん(乳癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、前立腺癌)、予防接種、睡眠習慣、医療へのアクセス、アルコールの使用、飲酒と運転、性行為、HIV、口腔衛生。
*2. 便検査(stool testing)
血液の痕跡が見られる排せつ物の検査サンプルを収集するために行われる試験。結腸直腸癌を発見するのに用いられる。在宅でできる簡便な検査法。

今回の論文のポイント

  • がんは早期発見・早期治療が原則ですから、COVID-19パンデミックにおいてがん検診を怠ると、治療のチャンスを逃すことになるかも知れません。そうならないようにするためには、感染の可能性が極力少なくなるようなやり方で検診をするか、本論文のように、結腸直腸癌に対する内視鏡検査を自宅の便潜血検査で代用するなどの工夫が必要です。
  • また、がん患者さんは、化学療法や放射線治療を受けて免疫力が低下していることが多いため、COVID-19がより重篤になりやすいと懸念されます(図1)。さらに、細胞レベルにおいては新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による炎症は、がん細胞の増殖を促進的に働くと思われます(図1)。このようにCOVID-19とがんは異なるメカニズムを通して密接に関連しています。

文献1
Fedewa SA et al., Changes in Cancer Screening in the US During the COVID-19 Pandemic., JAMA Netw Open. 2022;5(6):e2215490.