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2022/9/6

COVID-19の後遺症; 慢性炎症との関連性?

文責:橋本 款

最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の興味の一つは、long COVID(後遺症)*1です。後遺症の症状は、倦怠感、強い疲労感、しびれ感、微熱、呼吸苦、頭痛、食欲不振など多岐にわたります(図1)。後遺症は高頻度に(〜30%)出現し、COVID-19の重症度によらず、軽症の方も例外ではありません。後遺症のメカニズムは漠然としていますが、最近では、慢性炎症*2の役割が注目されています(図1)。今回紹介させて頂く米国南カリフォルニア大学のEileen Crimmins博士らが実施した研究では、肥満の人では、後遺症の発症リスクが5倍以上上昇し、また、罹患中に脱毛や頭痛、喉の痛みを経験した場合にも、後遺症のリスクは有意に上昇しており、特に、肥満や脱毛は慢性炎症による後遺症との関連性が高いと考えられました(文献1)


文献1.
Qiao Wu, et al., Long COVID and symptom trajectory in a representative sample of Americans in the first year of the pandemic, Scientific reports. 2022 Jul 08;12(1);11647.


【背景】

COVID-19の罹患後症状は、罹患時から持続する症状と、回復した後、新たに出現する症状があり、症状の程度はさまざまに変動する。後遺症のメカニズムを明らかにして、治療に結びつける必要がある。

【目的・方法】

米国民の代表パネルであるUnderstanding America Study(UAS)*3のCOVID-19に関する8,400人以上の調査データを用いて、COVID-19後遺症の発症率やその一般的な症状、発症のリスク因子について検討した。同調査では、2020年3月10日から2021年3月31日までの間に、2週間ごとに調査対象者がタブレットやスマートフォンを使って、健康状態や症状発現の有無などに関する質問票に回答していた。

【結果】

  • 最終的に、新型コロナウイルスに感染し、感染の4週間前と感染の報告時、及び、感染から12週間後に調査に回答していた308人を解析した(感染時の平均年齢46.0歳、女性57.3%)。
  • 74人(23%)が、12週間以上持続する症状を1つ以上発症しており、COVID-19の後遺症を発症しているとみなされた。最も多かった後遺症の症状は頭痛(22%)で、鼻水や鼻詰まり(19%)、腹部不快感(18%)、倦怠感(17%)、下痢(13%)が続いた。
  • 後遺症発症のオッズ比は、肥満の人で5.44(95%信頼区間2.12〜13.96)、罹患中に脱毛を経験した人で6.94(同1.03〜46.92)、頭痛を経験した人で3.37(1.18〜9.60)、喉の痛みを経験した人で3.56(同1.21〜10.46)であった。
  • 年齢、性別、人種/民族、教育歴、喫煙状況、慢性疾患の併存と後遺症発症のリスクとの間には関連性はなかった。
  • 興味深いことに、ブレインフォグ(脳の霧)や関節痛など、これまで、COVID-19後遺症で頻繁に報告されていた症状は認められなかった。

【結論】

肥満の人では、炎症が長期間続く可能性がある。それが原因で後遺症の症状が生じるのかもしれない。脱毛に関しても炎症に関わる症状の一つであると推定される。今回の結果は、後遺症の症状のケアにあたる多くのCOVID-19後遺症センターにとって有用な情報となるだろう。

用語の解説

*1. long COVID(後遺症)
WHO(世界保健機関)の定義によれば、後遺症は、COVID-19に罹患した人に見られ、少なくとも2か月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもので、通常は発症から3か月経った時点にもみられます。
*2. 慢性炎症
本来一過性で治まるはずの炎症反応が長期間持続して慢性化した状態。炎症状態が持続すると、生体組織の機能や構造に異常が生じて糖尿病、高血圧、脂質異常、肝疾患、認知症、がんなどさまざまな高齢疾患の原因になると考えられる。
*3. Understanding America Study(UAS)
南カリフォルニア大学が行っている全米の約9,500家庭よりなるパネル調査。パネル調査とは、調査対象者を固定化(パネル化)し、任意の期間において、同じ質問の調査を繰り返すアンケート調査のことである。コンピューターのタブレットやスマートフォンを通して行うことから、最近では、インターネットパネルという言葉が使われる。

今回の論文のポイント

肥満の人では、炎症が長期間続くことにより、それが原因で後遺症の症状が生じるのかもしれません。同様に、脱毛に関しても炎症に関わる症状の一つだと推定されます。慢性炎症の影響は、認知機能の低下や嗅覚障害、腎機能低下、脳卒中リスクの上昇など、さまざまなかたちで現れますが、後遺症の慢性炎症に対してステロイドを長期間用いるという判断は、ステロイド治療には感染症リスクの上昇を含む、さまざまな副作用を伴うことからも時期尚早と思われます。


文献1
Qiao Wu, et al., Long COVID and symptom trajectory in a representative sample of Americans in the first year of the pandemic, Scientific reports. 2022 Jul 08;12(1);11647.