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2022/9/12

オミクロン株;無自覚感染者からの感染拡大

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株が昨年の12月から流行して8ヵ月が経過し、この間、当初のBA.1株から、その亜種であるBA.2、BA.2.12.1、BA.4/-5といった新たな系統へ置き換わりました。新しいオミクロンの変異株はワクチンの効果をすり抜ける免疫逃避*1の性質を獲得することがわかりましたが、パンデミックが急速に進んだ原因はウイルス側だけでは無く、宿主*2であるヒト側にもあるようです(図1)。特に、オミクロン株に感染しても比較的症状が軽いため、感染したのに気付かないで、その結果、他人への感染源になる機序が考えられます。今回は、米国・カリフォルニア州ロサンゼルスにおける、オミクロン株流行時に抗体陽転が確認された人を対象としたコホート研究において、驚くべきことに、感染者の半数以上が感染を自覚していなかったということを報告した論文(文献1)を紹介致します。


文献1.
Joung SY, et al., Awareness of SARS-CoV-2 Omicron Variant Infection Among Adults With Recent COVID-19 Seropositivity, JAMA Netw Open. 2022;5(8):e2227241.


【背景】

オミクロン株の感染は一般的に無〜軽症状であることから、感染したのにもかかわらず、それに気付きにくいため治療が遅れて他人への感染源になってしまうと考えられる。したがって、無自覚の感染者の実態を正確に把握して、何らかの対策を講ずることはCOVID-19の予防に重要である。

【目的・方法】

本研究は、ロサンゼルス郡のCOVID-19血清学的縦断研究に登録されたCedars-Sinai医科大学病院の医療従事者と患者の記録を分析した大規模コホート研究である。参加者は1ヵ月以上の間隔で、抗ヌクレオカプシドIgG(IgG-N)抗体の測定を行った(2回以上);1回目はデルタ株流行終了(2021年9月15日)以降、2回目はオミクロン株流行開始(2021年12月15日)以降で、2022年5月4日までにオミクロン株流行時に感染が確認された成人を対象とした。SARS-CoV-2感染の認識は、自己申告の健康情報、医療記録、COVID-19検査データのレビューで確認した。

【結果】

  • 血清学的にオミクロン株感染が確認された210人(年齢中央値[範囲]:51[23~84]歳、女性:65%)のうち、44%(92人)が感染を認識していたが、56%(118人)は認識していなかった。
  • 認識していない人のうち10%(12人/118人)が何らかの症状があったにもかかわらず、その原因は風邪や新型コロナウイルス以外の感染症によるものであると回答した。
  • 人口統計学的、臨床的特徴を考慮した多変量解析*3では、医療従事者は非医療従事者よりもオミクロン株感染を認識している可能性が高かった(調整オッズ比:2.46、95%信頼区間:1.30~4.65)。

【結論】

これらの結果から、オミクロン株感染の認識率の低さがロサンゼルス郡の地域社会における急速な伝播の要因であると示唆された。

用語の解説

*1. 免疫逃避
本来、ワクチンを接種した後は、中和抗体の量が増えて”盾”のようにウイルスから体を守る役目を果たすが、免疫逃避とは、その中和抗体が十分に働かなくなることをいう。「オミクロンの新しい変異株(BA.2.12.1、BA.4/-5)の免疫逃避について; 2022/7/19」を参照してください。
*2. 宿主
ウイルスが宿主(ヒトや動物など)体内に侵入し、宿主細胞に感染することで感染が成立するが、ウイルス感染そのものが必ずしも病気を起こすわけではない。 感染症では、免疫応答を主体とする宿主反応がウイルスを排除しようとすることにより、さまざまな症状を示す。
*3. 多変量解析
多変量解析とは、複数の変数に関するデータをもとに、これらの変数間の相互関連を分析する統計的技法の総称で、特定の分析方法を指すものではない。

今回の論文のポイント

本論文の結果から、各自が感染の有無を認識していないことがオミクロン株感染拡大の一因であることが推定されました。同様に、マスクの装着・ソーシャルディスタンスの確保や自宅で簡単に感染の有無を検査できるキットを利用するなど、個人レベルでより一層の注意を払うことがオミクロン株の感染予防に必須だと思われます。


文献1
Joung SY, et al., Awareness of SARS-CoV-2 Omicron Variant Infection Among Adults With Recent COVID-19 Seropositivity, JAMA Netw Open. 2022;5(8):e2227241.