新型コロナウイルスや医学・生命科学全般に関する最新情報

  • HOME
  • 世界各国で行われている研究の紹介

世界で行われている研究紹介 教えてざわこ先生!教えてざわこ先生!


※世界各国で行われている研究成果をご紹介しています。研究成果に対する評価や意見は執筆者の意見です。

一般向け 研究者向け

2022/9/28

オランダにおけるCOVID-19後遺症に関する観察コホート研究

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の持続する全身症状、いわゆる後遺症、の頻度に関しては以前よりいくつか報告があり、22%から87.4%とするものまで随分、高率に認められています(図1)。しかしながら、これらのコホート研究は、入院歴の有無など、解析の条件は異なっており、患者数は十分ではありませんでした。このような状況で、オランダ・フローニンゲン大学のBallering氏らは、オランダ北部居住者約7万6,000例を対象に行われた観察コホート試験*1で、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者のコントロールで補正することにより、COVID-19後遺症としての呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害などの長期(90~150日)発生率は12.7%と推定されることを示し、Lancet誌(2022年8月6日号)に掲載されましたので、今回はこの論文(文献1)について報告致します。


文献1.
Ballering, AV. et al., Persistence of somatic symptoms after COVID-19 in the Netherlands: an observational cohort study. The Lancet (London, England). 2022;400(10350);452-461. pii: S0140-6736(22)01214-4.


【背景】

これまでのコロナ罹患後症状に関する検討では、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者における同様の症状の有病率や重症度を考慮した検討は行われておらず、著者らは、SARS-CoV-2感染前の症状で補正し、非感染者の症状と比較しながら、COVID-19に関連する長期症状の経過、有病率、重症度の分析を行った。

【目的・方法】

健康状態や健康に関連する生活習慣などを評価するLifelines試験*2のデータを基にして、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者のマッチングコントロールで補正することにより、COVID-19に起因する罹患後症状の発生率を明らかにした。

Lifelines試験試験では、18歳以上の参加者全員に、COVID-19オンライン質問票(digital COVID-19 questionnaires)が送達され、COVID-19診断に関連する23項目の身体症状*3について、2020年3月31日~2021年8月2日の期間に、計24回の繰り返し評価が行われた。

【結果】

  • SARS-CoV-2検査陽性または医師によるCOVID-19の診断を受けた被験者について、年齢、性別、時間をCOVID-19陰性の被験者(コントロール)とマッチングした。COVID-19の診断を受けた被験者については、COVID-19罹患の前後の症状と重症度を記録し、マッチング・コントロールと比較した。
  • 7万6,422例(平均年齢53.7+/- 12.9歳、女性は4万6,329例)が、合計88万3,973回の質問に回答した。このうち4,231例(5.5%)がCOVID-19の診断を受けた被験者で、8,462例のコントロールとマッチングした。
  • COVID-19陽性だった被験者において、COVID-19罹患後90~150日時点で認められた持続する全身症状は、胸痛、呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚障害、四肢のうずき、喉のしこり、暑さ・寒さを交互に感じる、腕・足が重く感じる、疲労感で、これらについてCOVID-19前およびマッチング・コントロールと比較した。
  • これらの持続症状の少なくとも1つを有し、COVID-19診断時またはマッチング規定時点から90~150日時点で中等度以上に重症度が増していた被験者は、COVID-19陽性の被験者では21.4%(381/1,782例)、COVID-19陰性のコントロールの被験者では8.7%(361/4,130例)だった。したがって、一般集団のCOVID-19患者のうち21.4% - 8.7% = 12.7%が、COVID-19後にこれらの持続症状を経験すると推定された。

【結論】

これらの持続症状は、COVID-19罹患後の状態と非COVID-19関連症状を区別する高い識別能を有しており、今後の研究に大きな影響を与えると思われる。

用語の解説

*1. 観察コホート試験
ある個人や集団の健康状態や診療記録をありのまま観察して、データを分析するのが「観察研究」で、時間の方向によって、「前向き研究」と「後ろ向き研究」に分けることができる。現在から未来に向かってデータを収集して研究する前向き研究の代表例が「コホート研究」で、ある病気の原因や要因と疑われる状況にいる人といない人を追跡し、結果的にその病気になったかどうかを調査する。コホート研究にも後ろ向き研究はあるが、ほとんどは前向き研究であるため、一般的には「コホート研究=前向きコホート研究」を指す。
*2. Lifelines試験
北オランダ地域の一般市民を対象に行っている大規模前向きコホートで、16万5,000人の登録を目標とし、30年間のフォローアップを行う予定となっている。これまでに6万人以上の登録が終わっている。身体測定、血圧、心電図、肺機能、終末糖化合物などのデータを蓄積し、健康状態、社会的活動、精神運動学習などのデータも把握することになっている。
*3. COVID-19診断に関連する23項目の身体症状
無味覚/無臭覚、呼吸困難、胸痛、呼吸時の痛み、喉のしこり、重い腕/足、一般的な疲労、筋肉痛、四肢のうずき、発熱、湿った咳、乾いた咳、頭痛、目のかゆみ、暑い/寒いを交互に感じる、喉の痛み、鼻水、悪心、くしゃみ、背痛、胃痛、めまい、下痢。

今回の論文のポイント

  • 今回の論文の結果は、偽陽性の可能性を排除することにより、実際のCOVID-19の後遺症は、これまで想定されていたよりも低頻度で起こることを示唆していますが、それでも、12.7%という数字は安心できないでしょう。
  • やはり、COVID-19の後遺症のメカニズムを明らかにすることが重要です。最近取り上げてきました様に、慢性炎症やアミロイド蛋白の凝集が関係しているかどうか興味深いところです。

文献1
Ballering, AV. et al., Persistence of somatic symptoms after COVID-19 in the Netherlands: an observational cohort study. The Lancet (London, England). 2022;400(10350);452-461. pii: S0140-6736(22)01214-4.