新型コロナウイルスや医学・生命科学全般に関する最新情報

  • HOME
  • 世界各国で行われている研究の紹介

世界で行われている研究紹介 教えてざわこ先生!教えてざわこ先生!


※世界各国で行われている研究成果をご紹介しています。研究成果に対する評価や意見は執筆者の意見です。

一般向け 研究者向け

2022/10/4

テドロスWHO事務局長の提言;世界患者安全の日を前にして

文責:橋本 款

9月17日の「世界患者安全の日」*1(図1)を目前にして、テドロス世界保健機関(WHO)事務局長の声明が全世界に向けて発信されました。その中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との戦いについて「終わりが視野に入ってきた」と述べて、世界中から注目されたのを御存知の方もいらっしゃると思います。そこで、今回は、論文ではありませんが、このブリーフィング(文献1)のCOVID-19に関係した箇所を和訳して紹介致します。


文献1.
WHO Director-General's opening remarks at the media briefing-14 September 2022
World Health Organizationt


おはよう!こんにちは!こんばんは!先週、COVID-19による週間死者数は、2020年3月以来、最も低くなりました。私たちはまだそこに至っていませんが、パンデミックの終わりが視野に入ってきました。マラソンランナーはゴールラインが見えても立ち止まりません。残ったエネルギーを振り絞って、一生懸命に走ります。私たちもそうしなければいけません。終わりのラインは見えて、勝てる状況にあります。したがって、今は、走るのを止めるには最悪の時期です。今は、より激しく走って、最後のラインを横切ることを確実にして、全ての重労働に対する報酬を得る時なのです。もし、この機会を逃せば、より多くの変異株、死者数、混乱、そして、不確実性と向き合う危険性に晒されます。この機会を掴み取りましょう。

今日、WHOは、レースを終わらせるために全ての国の政府が取り組むべき鍵になる 6つの政策を発表します。それは、命を救い、医療システムを擁護し、社会的、経済的破綻を避けるためにはどうするのが最も良いかを過去32ヶ月の証拠と経験に基づいた要約です。それぞれの政府がこれらの政策を綿密に検討し、COVID-19やパンデミックの可能性を持った将来の病原菌に対して強固なものにするように求めます。

  • 1)医療従事者や高齢者などを含むリスクにさらされやすい人では100%、人口全体では70%のワクチン接種率を実現して下さい。
  • 2)新型コロナの陽性判定検査や遺伝子検査の体制を維持し、インフルエンザを含むその他呼吸器感染症のサーベイランス・検査体制と統合して下さい。
  • 3)患者に対する正しいケアシステムの確立とそれをプライマリ・ケア体制へ統合して下さい。
  • 4)感染者急増に備えた計画立案と必要な物資、機器、医療従事者を確保して下さい。
  • 5)医療施設での医療従事者と非コロナ感染者を保護するための感染予防・制御措置を維持して下さい。
  • 6)新型コロナ関連政策の変更時、明確なコミュニケーションすると共に、誤った情報を見抜いて、それに対処し、デジタル形式の高度な医療情報に発展させて下さい。

これらの6つの政策は、それぞれの政府が詳細を検討できる様、オン・ラインでアクセスできます。

  • WHOは、2019年の大晦日より毎日休む事なく、世界に警告し、世界中の人々が安全に過ごし、生命を助け、社会が機能する様、働いてきました。
  • 我々は、多くの国々を助けて、酸素プラントや治療センターを建設しました。
  • 我々は、何百万のマスク、ガウン、テスト、ワクチン、その他、それらを必要とする世界中の国々に送りました。
  • 医師、看護師、その他の医療従事者は、自らを守りながら患者に対応するためにWHOのガイドラインに頼ってきました。
  • 我々は、公衆衛生産業とのよいバランスの見出し方に関して政府に助言してきました。
  • COVAX*2のパートナーと共に、17億回分以上のワクチンを世界中に供給しました。低所得国は4分の3以上のワクチンを我々に依存しています。
  • 我々は、低〜中所得国が自前のワクチンを製造出来る様、サポートしているところです。
  • 我々は、各国々が、パンデミックに追い詰められた中、医療システム・サービスを維持するのを助けてきました。
  • 我々は、誤報、偽情報と戦ってきました。
  • 我々は、来る日も来る日も、世界中の専門家と共に、最新の科学的知識を共有し、傾向をモニタリングし、証拠を分析して、世界にアドバイスしてきました。
  • 我々は、みなさんと共にパンデミックを真に終わらせることが出来るまで、これらのことを続けていきます。
  • -----以下、パキスタンの洪水、サル痘、世界患者安全の日と話題は続きます。

用語の解説

*1. 世界患者安全の日(World Patient Safety Day)
「患者安全を促進すべくWHO加盟国による世界的な連携と行動に向けた活動をすること」を目的として、医療制度を利用する全ての人々のリスクを軽減するために2019年にWHO総会で制定された。患者安全を促進する事への人々の意識、関心を高め、国際的な理解を深めるとともに、各種媒体を用いて普及活動を推進する。WHOは、患者安全文化の醸成のための普及活動の一環として毎年スローガンを作成している(図1)。
*2. COVAX
新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組みで、2020年に発足した。WHOが主導し、途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」や感染症流行対策イノベーション連合などと連携して取り組んでいる。高・中所得国は、拠出金をCOVAXに支払い、拠出金は開発や製造設備の整備に使われる。

執筆者の感想

WHOがCOVID-19の克服のため、休むことなく力を尽くして頂いているのは敬服します。しかしながら、抗ウィルス治療薬などが確立出来ていない現状において、テドロス事務局長の言う「終わりが視野に入って来た」という表現にはその根拠について少しも言及されていない以上、違和感を感じ得ざるを得ません。


文献1
WHO Director-General's opening remarks at the media briefing-14 September 2022
World Health Organizationt