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2022/10/31

オミクロン株対応2価ワクチンの有効性

文責:橋本 款
図1.

最近、2価ワクチンという言葉を耳にされた人が多いのではないでしょうか? オミクロン株対応2価ワクチンは、mRNAワクチンの一つで、従来株(新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 発生時の株)に由来する成分と、オミクロン株に由来する成分の両方を含む「2価ワクチン」です (図1)。従来型の単価ワクチンと比較して、従来型を上回る重症化予防効果とともに、感染予防効果や発症予防効果も予想されています。また、2価のワクチンであることにより、様々な新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) に反応するため、今後の多様な変異株に対しても有効である可能性が高いのではないかと期待されます。これらの考えに一致して、ハーバード大学医学部・ブリガム&ウィメンズ病院のSpyros Chalkias博士らは、現在進行中の臨床試験(第II/III相)*1の中間解析の結果、オミクロン株対応2価ワクチンは、単価ワクチンよりオミクロン株に対する中和抗体反応が優れており、安全性に関する懸念は認められなかったことを報告しましたので、今回はこの論文 (文献1) を紹介致します。


文献1.
Spyros Chalkias et al., A Bivalent Omicron-Containing Booster Vaccine against Covid-19. The New England journal of medicine. 2022 10 06;387(14);1279-1291.


【背景・目的】

これまで、オミクロン株対応2価ワクチンmRNA-1273.214の追加接種の安全性および免疫原性*2は明らかにされていないので、現在進行中の第II/III相試験 (ClinicalTrials.gov number, NCT04927065) の中間解析を通して評価した。

【方法】

著者らは、単価ワクチンmRNA-1273(起源株Wuhan-Hu-1のスパイクタンパク質をコードするmRNA)を2回接種(100μg)し、1回目の追加接種(50μg)を3ヵ月以上前に受けた成人を対象に、50μgの2価ワクチンmRNA-1273.214(mRNA-1273を25μg、オミクロン株B.1.1.529[BA.1]のスパイクタンパク質をコードするmRNAを25μg)を接種する群と、50μgの単価ワクチンmRNA-1273を接種する群に順次登録し、2回目の追加接種を行い、接種後28日時点のmRNA-1273.214の安全性、反応原性*3、免疫原性を評価した。

【結果】

  • 2022年2月18日~23日の期間に819例が登録され、377例がmRNA-1273ワクチンの追加接種を、437例がmRNA-1273.214ワクチンの追加接種を受けた。1回目と2回目の追加接種の間隔の中央値は、mRNA-1273群134日、mRNA-1273.214群136日で類似していた。
  • SARS-CoV-2感染歴がない被験者において、オミクロン株BA.1系統に対する中和抗体価の幾何平均値*4は、mRNA-1273.214群2,372.4(95%信頼区間[CI]:2,070.6~2,718.2)、mRNA-1273群で1,473.5(CI:1,270.8~1,708.4)であった。
  • また、オミクロン株BA.4/5系統に対する中和抗体価の幾何平均値は、mRNA-1273.214群で727.4(CI:632.8~836.1)、mRNA-1273群で492.1(CI:431.1~561.9)であり、mRNA-1273.214群はこれまでに流行した複数の変異株(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)に対しても結合抗体価が上昇した。
  • 安全性および反応原性は、両ワクチンで類似していた。
  • ワクチンの有効性は評価されなかったが、探索的解析において、SARS-CoV-2感染がmRNA-1273.214群で11例、mRNA-1273群で9例に認められた。

【結論】

以上の結果より、オミクロン株対応2価ワクチン; mRNA-1273.214は、単価ワクチン; mRNA-1273よりオミクロン株に対する中和抗体反応が優れており、安全性に関する懸念も認められなかったと判断した。

用語の解説

*1. 臨床試験(第II/III相)
臨床試験は、第I相(臨床薬理試験);少数の健康成人などについて、主に安全性や薬物動態などを調べる試験、第II相(探索的試験);比較的少数の患者さんについて、有効性と安全性などを調べる試験、第III相(検証的試験);多数の患者さんについて、標準的な「くすり」などと比較して有効性と安全性を確認する試験に分けられるが、第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもある。
*2. 免疫原性
化学薬剤とは異なり、生物学的製剤は患者さんの抗体産生を刺激する可能性がある。ヒトの反応においては、 一般的に、抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質を免疫原性と呼ぶ。
*3. 反応原性
反応原性には、ワクチン注射部位での局所的な痛み、発赤、腫れと共に、全身や注射部位以外の場所での症状(発熱、筋肉痛、頭痛など)が含まれる。
*4. 幾何平均値
幾何平均、または、相乗平均とは数学における広義の平均の一つである。データ数がn個あったら、n個のデータを掛け合わせて、そのn乗根をとることで得られる値である。

今回の論文のポイント

  • 本論文から判断すれば、オミクロン株対応2価ワクチンは、従来の単価ワクチンよりオミクロン株に対する中和抗体反応が優れており、安全性についても問題が無いと思われます。
  • mRNAによる多価ワクチンは次世代ワクチンの中心と考えられており、パンデミック終焉への切り札の一つになるかも知れません。

文献1
Spyros Chalkias et al., A Bivalent Omicron-Containing Booster Vaccine against Covid-19. The New England journal of medicine. 2022 10 06;387(14);1279-1291.