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一般向け 研究者向け 査読前論文

2022/11/15

感染拡大するオミクロン派生型の変異株

文責:橋本 款
図1.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株から派生した多くの亜系統*1(図1)が海外で増え始め、世界保健機関(WHO)が警戒を呼びかけています。国内でも、これまでの第7波で主流のBA.5よりも感染力が強い可能性があり、第8波に影響して来ることが予想されます。これらの亜系統は、スパイクドメインに変異が集中していることから、感染力が強く、免疫逃避*2しやすいと推定されていますが、まだ、現時点で、はっきりとしたデータはありません。このような状況で、米国・テキサス大学ガルベストン校のChaitanya Kurhade博士らは、これまで収集された4回分のmRNAワクチン、または、オミクロンBA.5-二価ブースターワクチン接種後のヒト血清におけるオミクロン新系統株に対する中和活性を解析したところ、これらの血清は、新系統BA.2.75.2, BQ.1.1, XBB.1に対する中和能が減弱していることを見出しました。この結果が査読前論文(文献1)として公開されましたので、今週は、これを紹介致します。


文献1.
Chaitanya Kurhade et al., Low neutralization of SARS-CoV-2 Omicron BA.2.75.2, BQ.1.1, and XBB.1 by 4 doses of parental mRNA vaccine or a BA.5-bivalent booster. bioRxiv Posted November 02, 2022.


【背景・目的】

最近、新たに出現したSARS-CoV-2オミクロン株の亜系統; BQ.1.1、XBB.1、その他は、ワクチンの有効性に影響を与える可能性のある追加のスパイク変異を蓄積しているので免疫逃避しやすいと予想される。したがって、これらの新しい亜系統に対するワクチン誘発性の中和活性を調べることは重要である。本プロジェクトの目的は、新たに出現した6つのオミクロン亜系統(BA.5、BF.7、BA.4.6、BA.2.75.2、BQ.1.1、およびXBB.1)に対する中和活性を評価することである。

【方法】

  • 中和活性を厳密に測定するために、2020年1月に分離された株である mNeonGreen (mNG)レポーターを付けたUSA-WA1/2020 SARS-CoV-2のバックボーンに、それぞれ、オミクロン亜系統; BA.4/5, BF.7, BA.4.6, BA.2.75.2, BQ.1.1, XBB.1由来のスパイク遺伝子を挿入し、ワクチン接種されたヒト血清の50%蛍光焦点減少中和力価(FFRNT50)を決定した。
  • ワクチン接種、および、SARS-CoV-2感染歴が異なる3つのヒト血清パネルを分析した。最初のパネルは、mRNAワクチン(Pfizer/BioNTech、または、Moderna)の4回投与後1~3か月の個人から得られた25の血清で構成されていた(4回投与後の血清)。2番目のパネルは、BA.5二価ブースターの1か月後に個人から収集された29の血清で構成されていた(BA.5二価ブースター血清)。1番目と2番目のパネルのすべての血清は、ウイルスのヌクレオカプシドタンパク質*3に対して陰性であることがテストされ、以前のSARS-CoV-2感染がないことが示唆された。3番目のパネルは、以前にSARS-CoV-2に感染し(ヌクレオカプシド抗体陽性で判断)、1か月前にBA.5二価ブースターを投与された個人から収集された23の血清で構成されていた(BA.5二価ブースター-感染 血清)。2番目と3番目のパネルのすべての参加者は、BA.5二価ブースターを受ける前に、2~4回のmRNAワクチンも受けていた。

【結果】

  • 投与4回目後(投与後1~3か月)の血清:幾何平均力価(GMTs)*4で、USA-WA1/2020=1533, BA.5=95, BF.7=69, BA.4.6=62, BA.2.75.2=26, BQ.1.1=22, XBB.1=15。
  • BA.5二価ブースターの血清:USA-WA1/2020=3620, BA.5=298, BF.7=305, BA.4.6=183, BA.2.75.2=98, BQ.1.1=73, XBB.1=35。
  • BA.5二価ブースター-感染の血清:USA-WA1/2020=5776, BA.5=1558, BF.7=1223, BA.4.6=744, BA.2.75.2=367, BQ.1.1=267, XBB.1=103。
  • 以上の結果より、BA.5二価ブースターは親ワクチンよりも優れた中和を誘発したが、新たに出現したオミクロンBA.2.75.2、BQ.1.1、およびXBB.1に対して強力な中和は生じなかった。それに較べて、以前の感染により、BA.5二価ブースターによって誘発される中和の規模と範囲が拡大した。

【結論】

以下のように3つの結論が得られた。第1に、BA.5二価ブースターは、親mRNAワクチンよりも、新たに出現したオミクロン亜系統に対してより高い中和を誘発する。 第2に、SARS-CoV-2感染歴のある個人は、BA.5二価ブースターの後、進行中のオミクロン亜系統に対してより高度で広範な中和を発達させる。第3に、テストされたオミクロン亜系統の中で、BA.2.75.2、BQ.1.1、およびXBB.1は、ワクチンによって誘発される中和に対する最大の回避を示しており、これらの新しい亜系統のオミクロンがBA.5に置き換わる可能性がある。

用語の解説

*1. オミクロン株亜系統
2021年11月に南アフリカで最初に報告されて以来、オミクロンはその高い伝染性と免疫回避により、優勢な亜種になった。時間の経過とともに、多くのオミクロンの亜系統が出現した。初期のオミクロン BA.1 は BA.2 に取って代わられ、BA.2.12.1、BA.2.75、BA.2.75.2、BA.4、BA.5 にさらに進化した。その中で、BA.5 は、現在、世界の多くの地域で優勢である。BA.4 と BA.5 は同一のスパイク配列を持ち、その子孫である BA.4.6、BF.7、および、BQ.1.1 は循環の有病率を拡大している。2022年10月29日の時点で、BA.2 由来の亜系統 BA.2.75.2は、米国の SARS-CoV-2 感染全体の1.8%を占めた。一方、BA.4/5 由来の亜系統 BA.4.6、BF.7、BQ.1、および、BQ.1.1 は、それぞれ総感染の 9.6%、7.5%、14%、および、13.1%を占めた。さらに、2022年8月にインドで最初に確認されたXBB は、ヨーロッパで急速に広がり、米国でも検出されている。XBB はシンガポールで優勢であり、2022年10月3日から9日までの地域での感染の54%を占めていた。
*2. 免疫逃避
宿主、特に人間の免疫系が感染性病原体に応答できなくなったとき、言い換えると、宿主の免疫系がウイルスなどの病原体を認識して排除することができなくなったときに起こる。このプロセスは、遺伝的性質と環境的性質の両方のさまざまな方法で起こりうる。新型コロナウイルスは多くの変異を獲得することで免疫応答からの逃避能を獲得していると考えられる。
*3. ヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)
Nタンパク質とは、コロナウイルスの遺伝子を包む殻のことを指します。スパイクタンパク質(Sタンパク質)と異なり突然変異などでアミノ酸配列の変化が起こりにくく、またタンパク質自体が大きく判別しやすい構造のため、多くのコロナウイルス抗原検査ではこのNタンパク質を検出するように設計されている。
*4. 幾何平均抗体価(geometric mean antibody titer: GMT)
被接種者個々の抗体価変化率の平均をとらえた指標である(詳しくは統計学の成書を御覧ください)。

今回の論文のポイント

本論文の結果より、BA.5二価ブースターのBA.2.75.2、BQ.1.1、XBB.1に対する中和活性はあまり高くないと考えられます。現時点で、これらのオミクロン亜系統の変異株が重症化を促進するという報告はありませんが、慎重に経過を見守る必要があります


文献1
Chaitanya Kurhade et al., Low neutralization of SARS-CoV-2 Omicron BA.2.75.2, BQ.1.1, and XBB.1 by 4 doses of parental mRNA vaccine or a BA.5-bivalent booster. bioRxiv Posted November 02, 2022.